11.宿屋にて 2
『婚約者』って何だっけ?
あまりに唐突に出てきたそのワードに動きが止まる。
いや、つい先日にも聞いたばかりだった。意味合いが全然違うような気もするが。あれは破棄だった。
とりあえずわからないことは質問しよう、うん、そうしよう。おずおずと右手を挙げる。
「……よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「婚約者とは?どうして私がレオンハルト王子殿下と婚約という話になるのでしょうか?私はあの捕虜の皆様との交換としてこちらに来たのであくまで捕虜、ではないのでしょうか?」
「そうですね、捕虜交換でこられたのですから、立場上は捕虜、ですね」
サナハト補佐官がニッコリ笑って軽く流す。ならどうしてといいかけた所でさらに続けてきた。
「話せば長くなるのですが、レオンハルト王子殿下に婚約者が必要な事態がありまして。でも焦って変な方を選ぶ訳にもいかず。そこで捕虜の扱いをどうするかとの話があり、これは、と思い進めさせていただきました。申し訳ありませんがこれは決定事項ですので、拒否権はございません」
「………はぁ。何だかよくわかりませんが、とりあえずは婚約者のふり、ということでしょうか?」
「いや!私は本当にっ……と」
レオンハルト王子殿下の少し慌てた声は隣のサナハト補佐官の手によってさえぎられた。
「そうですね、まずはそれでかまいません。王都に着いてからいくつかの指示を出させていただきますので、それに従って動いていただければ」
「わかりました」
いや、よくわかってないけど、わかりましたとしか答えようがないのも事実だ。でも捕虜として来ているのだからこちらからは何も言えないし、従うしかない。まぁ同じ王子でもあのナーヤス王子殿下の婚約者の立場とは雲泥の差がありそうなんですが。間違いなくこちらの方が……うん。
ふと視線を感じるとレオンハルト王子殿下がこちらをジッと見ていた。そう言えば怖いとか言われていると聞いたけど、あくまで戦場だけでのことなのか、今の所そんなイメージはない。どちらかと言えば優しい感じしかしない。でもノアとブラウが警戒を解かないということやはり何かあるのだろう。『獣人』だとも聞いているが、何に変化するのかさえもまだ聞いてなかったな。
「ではこれくらいにして」
サナハト補佐官がそう告げて立ち上がる。レオンハルト王子殿下もそれに続くと思っていたら、スッと右手を挙げた。
「すまないがあと少しだけ。失礼は承知だが私とリューディア殿二人だけで話がしたい」
え?
「……二人だけで、ですか?」
「あぁ。誓って警戒されるようなことはしない。少し話がしたいだけだ」
真剣な眼差しで見つめられる。私の警戒信号も出てはいない。まぁ隣にはいるのだろうから何かあってもどうにかなるだろう。
「わかりました。ノア、ブラウ、少しだけ時間をちょうだい」
二人とも一瞬警戒したが、私の言葉に従って部屋から出ていってくれた。では、とサナハト補佐官も一緒に退出し、この部屋にはレオンハルト王子殿下と私の二人だけになった。
「ありがとう信用してくれて」
「いえ。で、お話というのは?」
少しだけ躊躇するような感じだったが、どこから話そうか、と呟きながらこちらを見た。
「まずは先程の話を受けてくれてありがとう」
「いえ、あくまで仮、ということであれば。でも私でよろしいのですか?」
「何か疑問が?」
「言わせてもらってもよろしいのであれば」
どうぞ、と許可をいただいたので遠慮なく。
「どうして私なのでしょうか?今日初めてお会いして、それもある意味敵国の人間ですし、あと身分など何もないただの平民ですよ?どう考えても大国スーラジス王国の第三王子殿下の婚約者の立場には合わないと思うのですが」
ふむ、と言った感じでレオンハルト王子殿下が頷く。
「そうだね、前提を説明していないものね。簡単に言うならば目眩まし、かな」
「目眩まし、ですか」
「そう。ここだけの話にしておいて欲しいんだけど、あぁ君のお付きの獣人二人には話してもらっても結構ですよ」
「はぁ」
「前提として、リューディア殿はこちらの事、どれくらいご存知ですか?あぁ国というより王族の事を」
「王族のことですか?一般的な知識だけですね。国王陛下と王妃様、三人の王子殿下と二人の王女殿下。皆様の仲は良いとしか」
レオンハルト王子殿下はニッコリと頷く。
「その通りです。我々の仲は良いのですよ、ただ周りが色々と五月蝿いのです」
「周り、ですか?」
「本人にその気がないのに、持ち上げられる、と言うことです」
「本人、とはレオンハルト王子殿下の事でしょうか?」
彼は溜息をつきながら、その通りです、と答えた。
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