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6話 君の冒険に神の加護があらんことを

辺りを見回しながらアランの街を歩くタイチ、大袈裟に華々しくなどなく、どこか懐かしみを感じるそんな街並みの中には、似つかわしくない程の数の人間がいた。これはすべてプレイヤーなのか、それとも賑やかさを演出するNPCの中にぽつりぽつりとプレイヤーがいるだけなのか。これまでに遊んでいたゲームを思い返し、これらの多くはプレイヤーであることを一人で確信した。

 この世界では、プレイヤーとNPCを見分ける方法が提供されていないようだ。自身で判別するしかなさそうだが、現時点では特に問題を感じない。道行く人々を観察していると、操作にまだ慣れていないせいなのか、少なくない人間が奇妙な動きをしている、これはおそらくプレイヤーだろう。

 広場へ向かうとプレイヤーと思われる人々が数か所に分かれて集まり何やらやり取りをしている様子。ある者は持ち物を交換している。ある者は床に物を並べて座り、これから上客になるかもしれない者の方にちらりと目を向け、少し頭を下げている。また、ある者は別のある者とひそひそと話をしている。

 パーティーメンバーを募集しているソロプレイヤーの声もどこからか聞こえてきた。

 突如、青白い光に包まれたプレイヤー数人が広場に姿を現した。

 どうも見慣れた光景らしく、驚いた様子を見せるプレイヤーはそれほど多くはなかった。

「始まりの街にいるのは初心者だけじゃないのかもね……」

 どうやら狩りか何かを終えたパーティーが帰ってきたようだ。

「惜しかったな、もう少しで倒せそうだった」

 タイチは、そんな声のする方に視線を反らした。視線の先にいた冬でも負担になるような分厚い鎧を着た恰幅の良い男性が悔しそうに嘆いたかと思うと、

「でも、逃げる判断は正しかった。事故が起きる前の適切な撤退は、次の勝利への道程だよ」

 と言うスラリとした長髪の青年、その白色の髪は戦いに負けた男の髪とは思えず、もしも一人の乙女だったならば、彼の姿に艶やかさと美しさを感じただろう。

「俺が攻撃を外しちゃったからね、もう少し叩かず相手の動きを見ていればよかった。ごめんな、次は絶対当てるわ」

 パーティーメンバーに謝っているようだが、この赤髪の少年は敗北を含めて楽しんでいる様子だった。

 「再挑戦する前に調整したほうが良いな。三人のレベルはこれくらいで良いとして、マーケットに良い装備がないか見てくる。お前らの武器もついでに見てきてやる」

 山のように大きいと言っても過言ではないこの男は、仲間の元から離れてどこかを目指してゆっくりと歩いていった。

「僕も一度ここを離れる、また明日挑戦することにしよう。同じ時間にここで」と言い、白髪の青年は何かを唱えこの場から姿を消した。

 赤髪の少年は、タイチがパーティーの様子を少し離れたところから見ていたことに気が付いていた様子で、

「君、初めての人だよね」

「はい、知り合いでもないのに、ずっと見てしまってすみません」

 少し強張り申し訳なさそうに答えるタイチに対し、更に話を続ける少年。

「そういう意味で言ったわけじゃないよ。このゲーム、アイ・オーを始めてすぐの人だよねってこと」

「あっ、なるほど。さっき初めてログインしたばっかりです。まだ右も左もわからないので、最初に着いた街をぶらぶらしていました」 

「だろうね。装備している初心者パッケージと君の動きを見てすぐわかったよ。もし良かったら少し案内しようか」

「ありがとうございます。ぜひお願いします」

 それ程年齢が離れていないようにも見えるこの赤髪の少年にタイチは頭を下げた。

 街を歩いていたときに、道具屋のカーテンが掛かった窓に映る自分の姿を見つけて、このゲームでは、ある程度脚色されているのだろうが現実の姿がおおよそ反映されていることを知った。

 ログインした時に顔写真を送ったわけでもないし、ウェブカメラをオンにしていたわけでもない、100程の質問でこれほどにまで再現されるものなのだろうか。ただ、正直なことを言えば、少し理想に近い形でデフォルメされている。いや、少し程度ではないのかもしれない。

「そんなにかしこまらなくて良いじゃん。見た目もそう変わらないだろうから中学生でしょ」

「高校生です」

「そうなんだ……。高校生かぁ」と言って何かを考えるように黙った少年だが、また少しして話を始めた。

「僕も君と同じ高校生。僕の名前はイズ、これはプレイヤーネームだけど……」

 ゲーム内で初めて自己紹介をされたため、タイチは思わず神山太一であるとイズに告げようとしたところ、イズは優しくそれを制した。

「ここで使うのはプレイヤーネームだけだからタイチでいいよ。ここを操作するとプレイヤーネームが見れるんだ。ほら、ここを調べてみて。本名を教えようとするなんて、久しぶりに初心者と話すと楽しいね」

 イズが楽しそうに話してくれたため、自身のミスに顔を赤らめていたタイチだが、幸い恥ずかしさに埋もれてしまわずに済んだ。

 プレイヤーの側にいると、プレイヤー情報を確認できるらしく、タイチはイズのプレイヤー情報を確認した。

【レベル:38 名前:イズ 職業:シューター】

 表示される三つの項目を見たタイチ、他人から装備や状態などの項目を見られることはないということを学んだ。

「今、僕のステータス画面を見て気付いたと思うけど、他人の【装備】、【状態】、【その他】は見えないからね。僕からもタイチの全てまでは見えない。ただ、パーティーを作ったりすれば、その制限の一部が一時的に解除されたりするけどね」

 と説明してくれるイズは、その他にも初期設定ではフレンドに対しても公開される情報が制限されていることを教えてくれた。

「みんなに見せたければ制限を外して見えるようにすれば良いし、見せたくなければ初期設定のままでも大丈夫だと思うよ」

「そうなんだ。それならしばらくはこのままで良いかな」

 ふとした拍子に広場の一角に置かれた時計をタイチは見る、どうやらリアルタイムと連動しているらしい。午後一時と数分、皆が集合するまでにはまだ少し時間がある。

 どちらからともなく二人が広場を歩き出すと先程よりも一段とにぎやかな様子が伝わってきた。現実の世界で昼ご飯を食べ終えたプレイヤー達がいそいそと戻ってきたのだろうか、タイチと同じように終業式を終えた生徒達が、家に帰り着くや否や、すぐさまにパソコンの電源を入れ、アイ・オーの世界に飛び込んで来たのだろうか。

 二人はゆっくりと歩き出した。


 ――みんなより一足先に僕の冒険は始まった――

 

 さて、タイチの冒険の先にあるものは何だろうか……

 この冒険を進めれば陽に近づけるかもしれない……

 

 そして、少し先を歩いているイズは、一体今何を思い、何を目指しているのだろう。


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