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4話 渦に入らなければ、それの本当の大きさはわからない

「お父さんが単身赴任中だから二人きりねぇ、これは弟さんが数に入っていないわね……」とヒカルは困ったように首を傾げた。

「そうだね。お母さんがおかしくなったわけでもなかったし、何か冗談を披露しているわけでもなかったし、やっぱり最後にいた陽の部屋にあるパソコン、最後に遊んでいたアイ・オーが何か関係しているのかもしれない。おかしな話かもしれないけど、そんな気がしたんだ」

「もともと太一に弟がいるなんて聞いたことのない話なんやから、ここまでいったら寝言でも何でも付き合ったるわ。明日終業式が終わったら夏休みやから時間もぎょうさんあるからなぁ、ジョーも付き合ってくれるよな」

 そう言った浅黒の梶倉聡は丞に向かっていやらしくもみえる笑みを見せた。本気でアイ・オーオンラインでトップランカーを目指すらしく、それに丞を付き合わせようっていう魂胆なわけだ。

 浅黒の聡は丞のことをジョーと呼んでいるようだが、イントネーションが目立って変わるわけでもないし、特に気にする人も周りにはいなかった。あだ名にしても違いがわかりにくいが、聡も丞も気にしたことはない。

「ちょうどニオリーフちゃんに会いたいと思っていたし、皆さんご存じのとおり、部活は帰宅部にしか所属していないから」

「帰宅部は部活に入ってないから帰宅部って言ってるだけなんじゃないの。顧問の先生だっていないでしょ」

 苦笑するヒカルを向いて丞は言う。

「この学校に帰宅部はあるさ。運動部にも負けないくらいの規模さ。先輩から受け継いだ長年の伝統とこの部活への想いを見せようか」

 我らが通う学び舎のどこを見渡しても帰宅部の顧問はいない。顧問がいない部活など公には認められていないのだから、仮に部活と名乗っていたとしてもそれは実質無に等しい。いや、無そのものだった。真面目そうに見える丞もただの丸眼鏡補正なのかもしれない。普段のオタク気質な姿は世間の評価を完璧に二分しそうだが、今回の発言は評価がわかれるにも値しない。

「冗談は置いといて、明後日みんなでやるなら、それぞれでアイ・オーオンラインのダウンロードだけ進めよう。容量がどのくらいかはわからないけど、縦横無尽に自分達の旅をするなんて広告でやってるくらいだからどれくらい時間がかかるかわからないから」と再び、まじめな方向に路線を切り替えた丞にほかの三人は同意する。

「私は夏休みも部活はあるけど、明後日は部活停止、部停だからみんなと一緒に始められるわね。オンラインゲームは初めてだからみんなに教えてもらうね」

 三人は楽しみながらも陽の行方を辿ることに協力してくれる、太一はこれを頼もしく思った。


 風邪やら何やらが蔓延り、遠くへ出向くには少し気を遣う昨今ではあったが、アイ・オーオンラインならそのような心配はただの杞憂に終わるだろう。太一の弟である陽を探すという任務の達成を共通の課題とした本日、何より四人がこれから迎えようとしているのはあの夏休み、一年に一回しかないスーパーロングホリデー。

 桃山丞、梶倉聡、与田ヒカリ、そして最後に神山太一。この四人は、間もなく迎える夏休みに対し、それぞれには馳せる思いがあった。近いけれども、それでも遠い。遠いけれども、それでも近い。彼らはまさに今、何とも言えない一種の興奮にも似た不思議な感覚の海を泳いでいる。しかし、その海、大海を泳ぐその先に、彼らを喰らおうとしているかにも見える大渦が存在していることなどまだ知りもしない。


 一人は、近々到着するパソコンを待ちながら、ウェブの網に攻略サイトや役に立つ情報が引っかかっていないかあれやこれやと探していることだろう。一人は、家に帰り着くや否やパソコンを立ち上げ、長い夏休みを過ごすアイ・オーオンラインの世界に想像を膨らませていることだろう。一人は、家族の誰かを捕まえて、使い慣れないパソコンの操作方法でも教わっていることだろう。そして最後の一人は、確かに存在しているはずの弟と再会できることを強く願っていることだろう。

 

 これだけは彼らのためにも祈らなければならない。彼ら四人が夏休みを過ごすアイ・オーオンラインの世界、大人になったある日、四人がまた集まって、ふと思い出しては、そんなこともあったなと懐かしむことができるような時間になりますように。

 

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