1話 はじまりはどこかで
とある県のとある学校では体育の授業でも行われている時間だろうか――
体育の授業を誰にも気付かれないようにそっと抜け出しでもしたのだろうか。中庭がよく見えるどこかで、少年は疲れ切ったその羽を休めていた。ふと、中庭かどこからか四人の生徒たちの会話が聞こえてくる。
「最近、『アイ・オー』っていうオンラインゲームがあるんだけど、聞いたことないかな」
「ここ数年オンラインゲームで遊んでないからわからないけど、時間の余裕もできたから面白いならやってみたいな」
「僕は聞いたことあるよ。広告で見たニオリーフちゃんの動きをこの目で間近に見たいと思ったから、この前新しいパソコンを買ってもらったんだ。明日くらいに届くと思うから届いたらみんなで一緒にやってみようよ」
「今年の夏休みは特にやることもないから、ずっとやれるんちゃう、俺らでトップランカー目指そうや」
「そのアイ・オーについて、ちょっと相談したいことがあるんだだけど……」
「まぁ続きは放課後にしようや、いいかげん先生来るから、ほなお先に」
少年たちは足早にその場を去り、それぞれの教室へと戻っていった。
さて、少し前までの雲一つない晴れやかな空、晴れやかだったはずの空は、今はもうどこにも見当たらない。この後、轟く雷鳴に彼らが悲鳴をあげるのかどうかまでは、お茶の間で大人気、話題急騰中のアイドル気象予報士にさえわかりはしないのかもしれない。
中庭にある大きな木の幹に身体を寄せてくつろいでいた大きな黒い猫は、一瞬空を睨んだかと思うと、そのまま学校の側にある森の方へと走っていった。
今日も疲れ切った羽を癒やすことが叶わなかった少年は、
「やむなし」
とだけ呟き、帽子をグッと深く被ってこの場から去っていった。