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最終章「答え」その11

前回、ついにその正体が明かされたリナウス。

さて、ウォルガンに罰を与えるとのことですが……。

 リナウスは歌うように神魂術を唱えると、手にしていた焼きごてが瞬時にして禍々しい姿へと変貌する。

 柄には茨に酷似した棘が生え、誰も得をしない不要で悪趣味な拷問具を握り締めながらもその先端をウォルガンへと向けた。


「淘汰と原罪の神の名において、お前に罰を与える。お前はこれから先、本性を抑え謙虚な人生しか送ることが出来ない」


 その言葉に、ウォルガンは反論をしようとするも声が掠れているせいで何を言いたいのかまるで伝わってこない。

 そんなに大した罰ではないのでは、と思うフレアに応えるかのようにリナウスは主文を読み進める。


「いやあ、さぞ屈辱的だろうね。そんな何の面白みもない人生を送るしかないのさ。無論、死んで生まれ変わってからもずっと、ずっとさ――」


 リナウスは口元をわざとらしく隠すも、喜悦の笑みをまるで隠し切れていなかった。


「よ、よしてくれ。た、た、頼む……」


 ウォルガンは泣きながらも慈悲を乞うが、リナウスは見て見ぬふりを決め込んでいる。


「あの、流石に――」

「おいおい、君は本当にお人よしだな。わかったよ、一万年で許してやるさ」


 無期限よりも大分マシな判決ではあるが、それでも気の遠くなる年月であることには違いない。

 そもそも、異法神からしたら一万年などあっという間の時間なのだろう。


「お願いだ、頼む、頼む――」


 ウォルガンは気力を振り絞って懇願するも、厳格なる異法神にその声が届くことはないようだ。


「そいじゃあ、謹んで受けてくれたまえ」


 すると、目にも止まらぬ速度でそれこそウォルガンが指一本すら動かすことすらできないまま彼の胸元に焼きごてを押し付けられる。

 ジュウジュウと肉の焼ける音に合わせて彼の叫びが鳴り渡る。

 白目を剥き、だらりと舌を伸ばしたまま、彼はその場へと倒れこんだ。

 その姿を目に焼き付け、これで終わったんだなとフレアは思うが疲れのせいかあまり喜ぶ気にもなれなかった。

 フレアが長く重い溜息を零していると、視界の片隅で何かが動いたことに気がつく。

 目をこらすと、開かれた鉄扉の影に何かがいる。


「あ、あなたは」


 その正体は巻き込まれた大司教のイラスデンであった。

 誰もが怯えるしかないこの状況下で、彼は大人しく身を隠していたようだ。


「は、はい!? これは、その……」


 リナウスの足払いによりイラスデンは片足を痛めているようだ。

 恐らくはフレアとウォルガンが戦っている間もずっと息を殺していたらしい。

 イラスデンが足を引きずりながらも、怯え切った表情を隠そうともせず近づいてくる。


「悪かったね。とりあえずは、このウォルガンが何もかも悪い」


 リナウスは気を失っているウォルガンを指さす。

 どうやら、先程のリナウスとウォルガンのやり取りをしっかりと見ていたようで、イラスデンは何度も頷く。


「物分かりがよくて助かるよ。落ち着いたらじっくりと今後のオースミム教について、相談し合おうじゃないか」

「わ、わ、わかっております!」


 相手が大司教である以上、今後良いように利用するのだなと、少女の姿に圧倒されている様を見てフレアは確信する。

 付き合いが長いのだから、それぐらいは容易に想像出来るのだ。

 それに気づいてから、フレアはとっさにイラスデンに頭を下げる。


「あの、ウォルガンなんですが、その、極刑だけは避けることは出来ませんか?」

「おいおいおい」


 おどけているリナウスに対し、フレアは真顔のまま続ける。


「どうかお願いします」

「と、当然、努力いたします!」


 緊張のあまり荒い呼吸をしながらもイラスデンは言葉を返す。

 そんな彼に容赦なくリナウスはこう言い放った。


「悪いけどさ、後片付けは頼むよ」

「と、当然です!」


 フレアはイラスデンが何度も頭を下げている姿を目の当たりにして、この人は悪い人じゃないんだなと申し訳ない気分になっていると、エシュリー達が戻ってきた。

 特段怪我をしている様子はないものの、疲れ切った顔をしている所から激戦があったことは容易に想像出来る。


「フレア殿! ご無事であったか? それと、その少女は――」

「私さ。ちょいと訳ありでね」

「そ、そうであったか」

「リナウス様は何でもありなんですかね。っと、ウォルガンの野郎がのびていますが、こりゃあ、一体?」

「ん、色々あったんだよ。色々と」


 あまりにも色々とありすぎて、フレアもどう説明していいかわからなかった。


「それじゃあ、とっととずらかろう。オースミム教徒達に霊廟を取り囲まれる前にさ」

「セインも首を長くして待っているものね」


 フレア達は霊廟の外に出ると、オースミム教徒達の目を盗み、郊外を目指して大聖堂の敷地外へと抜け出した。

 騒動が周囲に広がって野次馬の中を抜け出るのが大変であったが、フレアが負傷して出血している部位を見せると人々は驚きながらも道を開けてくれた。

 やがて、ロバート君との待ち合わせへ向かう場所へ近づいた頃、フレアはアルートが抱っこしているマルマークに語り掛ける。


「マルマーク、ちょっといいかな?

「ふあ? 旦那、何ですかい?」


 眠たい目を擦りながらも、マルマークはフレアへと目を向ける。


「あのさ、今度でいいんだ。釣りを教えてくれないかな?」

「別に構いませんが、どうしたんですかい?」

「深い意味はないんだ。僕も何か趣味を持とうと思って」

「それはいいんじゃないか。仕事をサボらなければどんな趣味を持っても構わないさ」

「ありがとう」

「たまには仕事を休んでも良いのではなかろうか?」

「エシュリー。そういうことは、もっと仕事をこなしてから言って」


 アルートの一言に一同が笑う中、フレアも笑う。

 その彼の心の中には、今までの彼とは異なる新たな心境が生まれていた。

 そんな彼を祝福するかのように、美しい笑みと共に空に浮かぶ月もまた柔らかな光を投げかけてくれた――。


最終章 完

これにて最終章は以上となります。


次に公開するエピローグにて全ての謎が解き明かされます。

恐らく伏線の半分近くが回収されるかと思いますので、ある程度読み返してからエピローグをお読みになると楽しめるかもしれません。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


では、次回のエピローグをお楽しみください。

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