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最終章「答え」その2

リナウスは何を見たのでしょうか?

終幕へと向けて加速する物語をご覧いただければ幸いです。

 リナウスは何を見たのか。

 良からぬことがあったのは推測できる、だがフレアは聞くのが怖かった。

 他の皆も同じ気持ちらしく、仕方なく彼が先頭に立って怯えながらも尋ねる。


「その様子だと何かあったんだよね?」

「ああ、オースミム教徒達が互いに殴り合っていたのさ」

「え? どういう意味ですかい?」


 焦る一同に対し、リナウスは説明をする。


「大勢の教徒達が祈りもせずに殴り合っていた。私の知る限りではオースミム教にそんな慣習はなかったはずだがね」


 早口で解説するものの皆は一言一句残さず理解し、動揺した目線をリナウスへと返す。


「と、当然であろうに!」

「見た感じ誰もが正気を失っているようで、中には腕や足が折れても逃げずに戦う者までいる始末さ」

「な、何の意味があってそんなことを?」

「私が聞きたいさ。意味があるのか、そもそもないのか。いずれにせよ、彼らの喧嘩を仲裁する暇があるかどうかだね」


 また選択をしなければならないのか。

 皆の視線からすると決定権はフレア自身が下さなければならないようだ。

 不満を覚えていると、アルートが彼のシャツの裾を引っ張る。


「どうしたの?」

「もしかすると、バルシーアと関係があるかも」

「バルシーアと?」


 すると、リナウスが顔を上げつつも声を張り上げる。


「そうか、すっかり失念していた。神権次第だが、ひょっとすると捧げものの類かもしれない」

「捧げもの?」

「捧げものとは我々異法神にとって必要不可欠なものじゃないが各々の力を高めるものといったものかな。あれば助かる、といった感じさ」

「言いたいことは何となくわかるぞ。アルートも蝋燭等の光を見ていると元気を取り戻すそうであるからな」


 そんなものがあるとは思わなかった。

 フレアが疑問に思っていると妙なことに気が付く。


「リナウスは特に捧げものとか関係なくても強いような」

「そりゃあそうさ。私からしたら、メルタガルドだけでなく他の世界で今も行われている生命の営みそのものが捧げものみたいなもんだからさ。今まで気にしたこともないね」

「いやいや、そんな無茶苦茶なことってあるんですかい?」


 マルマークはそんな冗談をと笑ってみるも、リナウスは口を閉ざす。

 まだ、異法神の恐ろしさの神髄を理解していない彼に対してのちょっとした意地悪のようにも見えてしまう。


「いずれにせよ、殴り合って争うことがバルシーアの奴の力を強める要因になるってことですかい?」


 マルマークの指摘に対し、アルートとリナウスの双方が頷く。


「でも、うーん……」


 今の今まで散々騙されてきたため、これもまた陽動ではないのだろうか。

 考える時間がないと思うと余計に謝った選択をしてしまいそうだ。

 そして、フレアが考えに考えた結果捻り出した答えが――。


「リナウス。殴り合いを止めて貰えないかな? その間に僕達が鍵を探すよ」

「ふふ、了解した。じゃあ、行ってくるかね」


 リナウスは屋根から飛び降りると、中庭の方へと向かっていった。

 暫くすると、誰かの悲鳴を合図に作戦が開始される。

 もしバルシーアがいるならばとっくの昔にリナウスの存在に気づいているだろうが、それを承知の上での奇襲だ。

 フレア達は警備の目がリナウスに向けられた瞬間を見計らい屋根から降りる。

 目指すべきは霊廟の地下なのだが、どうしても鍵が必要となってくる。

 鍵は居住棟内のイラスデンが持っているそうなので、まずはそこを目指すことにした。

 警備を行っている者はどうやら周辺の街や村から集められた信奉者達のようだ。

 幸いにもリナウスにより礼拝堂に警備の目が集中しており、そのどさくさに紛れてフレア達は容易に居住棟へと忍び込むことができた。


「はて、私の乳母の話によると、鍵は代々大司教が管理しているとのことである」

「うん、そうだったよね」

「まあ、オイラの手にかかりゃあ、鍵の一つや二つ、楽なもんですぜ」

「それは頼もしいよ。ただ、大司教であるイラスデンの部屋はどこにあるかだけれども」


 フレアがエシュリーへと目線を向けると、顔を真っ赤にしてこう言い返す。


「だ、大司教の部屋の在処までは聞いていなかったのである!」

「それじゃ、分かれて探そうか?」

「すまない。では、私は三階へ行こう」

「じゃあ、僕は一階かな」

「となると、オイラは二階ですかい。この建物は三階建てみたいですから、アルート様はどの階層へ行くんです?」

「えっと、私はここで皆を待っている。敵が来るかもしれないから」

「わかった。じゃあ、集合はこのフロントということで」

「では、行ってこよう」


 三人は別れてそれぞれの階層へと向かう。

 フレアは他の教徒と出会ったら厄介だなと思いながらも、おっかなびっくりと言った様子で廊下を進んでいく。

 誰も彼も警備として駆り出されているのか、人のいる気配は感じられない。

 彼は息を殺しながらも部屋のネームプレートを確かめるが、イラスデンの部屋は中々見つからない。

 一旦戻ろうかと迷っていると、彼の耳に誰かの声が聞こえる。

 耳を澄ましてみると水の流れる音も聞こえ、それに混ざって誰かのすすり泣く声もする。

 何だろうと思い、フレアが声の元へと進んでみるとそこには洗い場があった。

 流石に王都だけあって上下水道が整備されているのだと感心しつつも、こんな時間帯に何をしているのだろうか。

 彼は心臓の鼓動を殺しつつも、音の出所へと近づく。

 蝋燭の灯りで照らされた先には小さな人影があった。

 目を凝らしてみるとそれは少女らしく、どうやら皿を洗っているようだ。


「あの、君、大丈夫?」

「ひっ――!?」


 フレアの声に驚き、少女は小さな悲鳴を上げる。


「ご、ごめんなさい! まだ終わらないんです!」


 何度も頭を下げている少女を目にして、フレアは思わず泡を食う。


「いや、君を怒っているわけじゃないんだ。ただ、どうして泣いているのかなって」

「えっと、お皿を洗っているのです。たくさん人が来て、食器がたくさん汚れて……」


 少女がたどたどしい喋り方をしている点からも、フレアにも何となく状況が理解できた。

 恐らくは各地から教徒を呼んだせいで、いつも以上に増えた食器を洗うのに苦労しているようだ。


「手伝って上げたいのだけれども、僕にはやらなければならないことがあるんだ。あまり、無理をしないでね」


 フレアがそう声を掛けると、少女はワッと泣き出してしまった。

 どうすればいいのだろうと焦りながらも彼は丁寧な態度を崩さぬように尋ねる。


「その、なんか変なことを言ったかな?」

「ち、違います。こんな私を気遣ってくれるなんて……」


 この子も過酷な人生を送って来たのだろう。

 農村で子供を奉仕に出すことも珍しくない時世だ。

 少女に同情しつつも、フレアは折角だから尋ねてみることにした。


「僕もわからないことが多くて困っているよ。その、イラスデン様の部屋はどこかわかる?」

「え、イラスデン様のお部屋でしょうか? その、二階か三階の角部屋だったかなと、思いますです、はい!」


 少なくとも一階ではなさそうなことはわかったため、それだけでも大きな収穫だ。

 フレアは別れを告げて二階に向かおうとしたその時だった。

 彼の脳裏にふとマルマーク一族の手記のことが思い浮かぶ。

 それはさりげなく耳にした記述の中にずっと頭に引っかかっていたことであり、リナウスにも言っていなかった。

 何せ仮説は仮説であり、確証を得られなければ意味はない。


「あのさ、もしもでいいんだけれども、こんな人の噂は知っているかな――?」


 フレアからすればさりげない問いだったのだが、それに反して少女は強く頷く。


「えっと、その方なら前々から噂は聞いていて、この間も洗っている所をこっそりと見たことがあるんです」

「え。その人の名前は、わかる?」

「はい、その方のお名前は――」


 少女の口にした名前に、フレアは息を飲む。

 よもや、聞き覚えのある名前がここで出てくるとは。

 あまりの衝撃に彼は暫くの間呆然と立ち尽くしてしまう。


「え、その、どうしたんですか?」

「いや、何でもないよ。ありがとう。助かったよ」


 フレアは少女にお礼を述べてから、足早にその場を去る。


 まさか、そのまさか――。


 フレアは脳内でパズルを組み立てるように、得た手掛かりを順序よく組み立てていく。

 それは気味の悪くなるほど噛み合う音を立て、やがて一つの答えを導き出す。

 彼は心臓の高鳴りを抑えながらも、二階へ階段を駆け上がっていった。

フレアは何に気が付いたのでしょうか?

これから先を読むことでその謎も解明されます。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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