第八章「黒幕」その8
リナウスの部屋には一体何があるのでしょうか?
妙な物がなければよいのですが……。
フレアが部屋に入ると、横になっているリナウスを見つけた。
正確に言うと部屋の中央にあるハンモックの上におり、件の手記に目を通している最中だった。
「何かわかったの?」
フレアは机の上に置かれている木箱をちらりと見てから、リナウスの部屋の奇妙な点に戸惑う。
部屋の端には机と鏡台、それに衣装ダンスといった調度品があるも、どれもこれもが拾って来た物のようだった。
鏡台の鏡はひび割れ、衣装ダンスは火事にでも巻き込まれたのか三分の一が煤けている。
そして、旅先で手に入れた貝殻や土産物のアクセサリー、他にも何かの化石らしき物が飾られており、それらは綺麗に磨かれて天井から紐で縛られてぶら下げられている。
一応は神の住む部屋だというのに神秘性は皆無であり、ほんの少し辺鄙というだけで至って普通の部屋と呼べた。
「私なりにインテリアを意識したんだがね。中々難しいもんさ」
リナウスはからからと笑いながらもハンモックから飛び降りる。
身に着けているのは水色のパジャマであり、生地からするにシルク製のようだ。
「インテリアね。僕は別に嫌いじゃないけれども」
「そう言ってくれると嬉しいものさ。はて、ざっとマルマーク一族の手記とやらを読んでみたのだがね」
「何が書いてあったの?」
真剣な表情でリナウスは語るのだが胸元がはだけて下着が少し見えてしまっているため、シリアスな雰囲気が台無しだった。
フレアが目のやり場に困っていると、リナウスは淡々と答える。
「どうやら、かつてのマルマークの一族はオースミム教を探っていたようだ」
「え、それで手記にはどんな情報が書いてあったの?」
「オースミム教の重要な役職にいる奴の名前や人相、それに住所まで調べられている。ただ、生憎焼けたせいで情報が飛び飛びだがね」
フレアはマルマークが手記に対して良い印象を抱いていなかったことを思い出す。
彼のためにもこの手記は燃やしてしまった方がよかったのではとさえ思ってしまう。
「異端狩りの首謀者を探そうとしていたのだろうかね。他にもランメイア王国についても綿密に調べられており、実際に怪しいと思った奴の暗殺を試みたマルマークのご先祖様やその親戚もいたそうだが、全員帰って来なかったそうだ」
「帰って来なかったのか――」
恐らくは消されたに違いない。
フレアは改めてマルマークの一族の血塗られた陰惨な過去を不憫に思う他なかった。
「そんなことがあってから同胞からも次第に協力して貰えず、最後にはオースミム教の調査を断念したと書いてあったね」
「どう見ても真っ黒だよ」
「私もそう思う。そして、この中に何かヒントがある気がしてならないのさ」
「ヒント?」
リナウスが指し示した手記の一部を手に取るも、何と書いてあるか文字が読めないだけでなく、そもそも文字が小さく、それがぎっしりと刻まれているのだからフレアは軽い眩暈を起こしてしまう。
「解読は私に任せてくれたまえ」
「いや、その出来れば、読み上げてくれないかな?」
「かなりの量なんだがね。まあ、要所要所を読み上げるとしよう」
リナウスはハンモックへと飛び乗ると、仰向けの状態になって手記の内容を読み上げ始める。
まるで本でも読み聞かせるかのようなどこか優しい口調であるが、その内容自体は聞きなれない人名の羅列といったもので聞いているだけで眠気が込み上げてしまう。
「フレア。眠たいのかい?」
「いや、大丈夫だよ」
フレアは我慢して何とか内容を飲み込もうとしたその時、気になる言葉が出てきたために眠気がすっ飛んだ。
「教皇って――」
「オースミム教の中で一番お偉い人さ」
「じゃあさ、教皇がカミツキなのかな?」
フレアの問いに対し、リナウスは肩を竦める。
「その可能性はどうだろうね。少なくとも、姿を隠すならばそんな目立つ役職にはいないと思うさ」
「うーん。そうかもしれないね」
「オースミム戦役から長い年月が流れている以上、カミツキも代替わりしているはずさ」
「そっか。もしかすると、先祖代々からオースミム教に関わっているかもしれないね」
「その線を追ってみるかい。ちょいと読み進めさせてくれ。君は椅子にでも掛けて待ってくれたまえ」
「わかったよ」
フレアは部屋の隅で一人埃をかぶっていた椅子を引っ張り出す。
リナウスは格好と姿勢こそ不真面目であるが、その眼差しは熱意が込められている。
彼は椅子の背もたれに体重を預けつつも、ぼんやりとリナウスの部屋のインテリアを眺める。
改めてみると魚でも干しているかのようで、熊らしき獣を模したぬいぐるみと目が合ってしまう。
愛嬌のない凶暴な獣の顔をしており、とてもではないが子ども受けしそうにない。
ああ、リナウスが作ったのだろうなと一人納得していると、よく考えればこの部屋には旅の思い出が一杯詰まっていた。
初めて目にした海で拾った貝殻、旅先の行商人から購入したペンダント、それにさっきのぬいぐるみもリナウスが昔追い払ってくれた獣にそっくりだった。
「――本来ならば」
リナウスは横目でフレアを見やる。
その目は溢れんばかりの悲しみに満ちており、不幸を憐れみ嘆く力なき人そのものを象徴しているかのようだった。
意外にもリナウスの部屋は普通のようでした。
さて、最後に何を語ろうとしていたのでしょうか?
続きはまた次回となります。
面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。
それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。




