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第八章「黒幕」その7

ロバート君の背中に乗って帰還している最中、リナウスが何かを見つけたらしく、地上へと降り立ってしまいます。

果たして、何かあったのでしょうか?

 異法神と一緒にいると感性が少しずつ麻痺していくらしい。

 素手で鉄の塊を粉末にしたり、手刀で薪割りをしているだけでも異様なのだが、フレアからすれば既に見慣れた日常の光景の一つとなっていた。

 言うなればデイリーギャップとでもいうべきだろう。


「ちょ、リナウス様!?」

「何か見つけたのであろうか?」

「珍しい虫でもいたんじゃない?」


 人間ならば間違いなく即死という高度であるが、リナウスは怪我をすることもなく地面へと着地していた。

 一体何をしているのだろうとフレアが目を凝らしていると、どうやら地上を歩いていた。集団と接触を試みているようだ。


「待たなくていいですんかい?」

「大丈夫。すぐに追いつくって。そうだよね」


 フレアはロバート君に促すと、欠伸交じりに返事を返す。


「お、追い付くんですかい?」

「大丈夫であろう」


 暫くすると、何かが上空から落ちてくる。

 マルマークが唖然とする中、フレアは指のささくれを取るのに夢中となっていた。

 空から落ちてきたそれは紛れもなくリナウスであり、一切の衝撃を発することなくロバート君の背の上へ着地した。


「え、え、えええ!?」

「ん、どうしたんだい?」


 毛を逆立てて驚きふためくマルマークに対し、リナウスはからかうような笑みを浮かべている。


「いや、だって、上から、その――!?」

「ああ、ただ単に助走をしてからジャンプしただけさ」

「え、じ、地面からですかい?」


 マルマークはフレアを見上げるが、彼もまた肩を竦める他なかった。


「まあ、リナウスは神だし」

「落下死とは無縁であるからな」

「そ、そうですかい……」


 フレアとしても、マルマークの気持ちはよくわかる。

 彼が今までリナウスを見ていた思ったことは、どうやら異法神はある程度の物理法則を無視できるようだ。

 先程のロバート君の背に着地する際にも一切の影響を出していない点からも明らかに人よりも身体能力が優れているでは説明のつかない所が多い。

 ただフレアからすれば神の為せる業なのだからこれぐらい容易いのだろうという結論に至っているため、彼自身あまり深く考えないようにしていた。


「ところで、何故地表に降りたのであろうか?」

「彼らがどこを目指しているかが気になってね。そうしたら、遠路はるばるオースミム大聖堂を目指しているんだと」

「巡礼者?」

「ただ、ちょいと妙でね。オースミム再臨祭が早まったとも言っていた」

「再臨祭? どこかで聞いたことがありますね」

「再臨祭と言えば……」


 そう言えばと思いながらも、フレアは外套のポケットを漁る。

 すると、指先に畳んだ紙片が当たり、それを取り出して広げてみた。


「それはなんであろうか?」

「前にオースミム教の人から貰ったチラシなんだけれども」


 フレアは改めてチラシを見てみると、メモ代わりとして使っていたためか、自分でも何と書いてあるかわからない文字が踊っていた。


「ん? 日付がだいぶ先だね」

「当初の予定より早めた、ということだよね」

「いやいや、そんな勝手すぎませんかい? 余程のことがない限り、再臨祭という大行事を早めるなんざ……」


 ここで一同は思わず顔を見合わせる。


「何かとんでもない事態を起こす予定ということであろうか?」

「急いだほうがいいかね。ロバート君。頼むよ」


 リナウスの声と共に、ロバート君は力強い咆哮と共に空を裂くように翼を羽ばたかせる。

 急な加速により三名は何度も吹っ飛ばれそうになったが、そんなことが些細に思えるほど、彼らは黙って考え込んでいた。

 やがて屋敷へと辿り着くと、リナウスは真っ先に木箱を抱えたまま自室へと飛び込んでいった。


「ええと、オイラはどうすればいいんですかい?」

「とりあえずはリナウスからの指示があるまで待機して貰っていいかな?」

「了解ですぜ。客間でひと眠りさせて貰いますかね」


 四肢を使って足早に駆けていくマルマークを見送っていると、エシュリーが屋敷の庭の方を眺めている。

 如何にも首を伸ばして誰かを待っている、そんな様子だった。


「エシュリー、どうしたの?」

「先程からアルートを呼んでいるのだ。そろそろ来るはずだと思うのであるが」


 そして、暫く待っていると、土煙を上げて何かが駆け寄って来るのが目に入る。


「む、来たようであるな」


 やはりというべきかそれはアルートに間違いなかった。

 短い手足だというのにアスリート顔負けの速度で走るものだから下手をすると都市伝説として語り継がれそうな恐ろしさすらあった。


「ただいま」

「アルート。お疲れであるな。それで、どうだったのであろうか?」

「楽しかった」

「え、楽しかったの?」


 どういう意味だろうかと二人が身構えていると、アルートが上目遣いでこう言った。


「リーオ族の皆とおしゃべりしたり、毛並を触らせて貰ったり……」

「そ、そうか。よかったね」


 よもや、オフィーヌ族の里に残ると言い出したのはそれも目当てだったのか。

 エシュリーが呆れながらも小さくため息をついている中で、フレアは小さく笑う。


「どうしたのであろうか?」

「いや、エシュリーとそっくりだなと思って」

「ど、どういう意味であろうか」


 エシュリーの不機嫌そうな顔を目にして、フレアは笑って誤魔化そうとするも、簡単には許してくれなそうな雰囲気だ。


「ごめん! リナウスの所に行ってくるから!」

「フレア殿!」


 エシュリーの制止を振り切り、フレアはリナウスの部屋へと向かっていた。

 扉に掛けられているドアプレートには『命が惜しくば勝手に入るがいい』と書かれており、彼はため息交じりにノックをする。


「フレアか。入りたまえ」


 思えば、リナウスの部屋に入るのは初めてだった。

 一体、どんな物があるのだろうか。

 フレアは一礼と共に部屋へと入った。

リナウスの部屋には一体何があるのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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