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第一章「始まり」その5

前回異世界メルタガルドの歴史の授業を聞いて満足したフレア少年。

眠りに就こうとするその前に、彼は何に気が付いたのでしょうか?

「そう言えばリナウスはどこだろう?」


 よくよく考えるとリナウスの寝床がない。

 そうなると、外で寝るつもりなのだろうか。

 フレアは心配に思い、暗い室内を手探りしながらも外へと出てみる。

 空を見上げると、そこには無数の星々が輝いており、銀色の光る月が柔らかな光を地上に放っていた。

 彼が口を半開きにして空を眺めていると、リナウスが近寄ってきた。

 その動きは無駄に素早く、高速で移動しているのならば風圧が生じるはずだというのに、辺りはしんと静まりかえったままだった。


「フレア、眠れないのかい?」


 夜の闇に溶け込むような黒髪を撫でながらも、リナウスはフレアへと問いかける。


「えっと、リナウスは眠らないのかなって」

「私は大丈夫だよ。あと何千年かは眠らなくても活動は出来るさ」

「眠りもせず食事もしないの?」

「変かい? まあ、そもそも異法神は君達のような生命とは別次元の存在だからね。厳密にいうと生きてはいない。こうして堂々と存在しているのさ」

「何だかピンと来ないや」


 フレアはリナウスをまじまじと眺めていると、ぷくりと頬を膨らませる。


「こう見えても、私だって苦労しているんだがね。不気味に思われないよう時折瞬きをしたり、わざわざ呼吸する振りをして疑似声帯を振動させることで喋っているのさ」

「そ、そうなんだ」


 そこまで苦労する必要はあるのだろうか。

 ふいに、フレアの頭の中である疑問が浮かんだ。


「リナウス、質問してもいい?」

「前にも言ったが返答は気分次第さ。質問はいつでもどうぞ」


 リナウスは芝居がかった大仰なポーズを取る。

 だが、背伸びをしている子どものようで、残念なことに少しも威厳は感じられなかった。


「えっと、リナウスは神様、なんだよね?」


 フレアはリナウスの姿を改めてまじまじと見つめる。

 その可憐な少女の見た目に強い違和感を覚えていた。

 能ある鷹は何とやらを狙っているにしても、あまりにもわざとらしかったからだ。


「言っておくが異法神はある程度姿を変えられる。あと意外かもしれないが異法神には性別がないことを忘れないでくれたまえ。ちなみにこの姿は――そうだね、私なりの敬意さ」

「敬意?」


 どこのどの辺りに敬意を表しているのだろうか。

 フレアはなんとなく星空を見上げてみるが、そこにヒントが書いてある訳もなかった。

 ちらりとリナウスを見てみると、一瞬、ほんの一瞬だけ月光が強く輝き、リナウスの全身に降り注ぐ。

 その姿がどこか神々しく見えてしまい、フレアは思わず目をそらしてしまい、今度はリナウスのスカーフを注視してしまう。


「このスカーフが気になるのかい?」


 リナウスはスカーフを摘まみ、これ見よがしと言わんばかりにフレアへと見せつける。

 フレアはまじまじとそれを見つめると、赤一色のごく普通の布のようだ。


「何か意味があるの?」

「ふふ、知らないのかい? こいつはマジカルレディ&スカーレットに出てくるスカーレット嬢のスカーフさ」

「え?」


 フレアが首を傾げると、リナウスはクスクスと笑いながらも続ける。


「愛と正義のため、悪と戦う魔法少女のトレードマークらしいよ」

「ま、まほうしょうじょ?」

「知らないのかい? 人気シリーズらしいけれども」


 その言葉で、フレアはようやくテレビアニメの類いだろうということを察した。


「悪いけど、テレビは見ない、いや見られなかったんだ」


 元々フレアの家にもテレビはあったものの寿命で壊れて以降買い換えておらず、フレアが学校での流行に乗り遅れる要因の一つでもあった。


「他に聞いておきたいことはないかい? 今日は最高の星空だから、気前良く答えてあげるかもしれないよ」


 リナウスの視線を追うように、フレアもまた空を見上げる。

 地球で見た星空とは比べ物にならないくらいに広大で、月もどこか大きいような気がした。

 暫く見つめてから、フレアは深く考えずリナウスにこう尋ねた。


「ううんと、地球にはリナウス以外の他にも異法神はいたの?」

「私以外に? いや、聞いたことはないね。そもそも君の住んでいた地球に大きな宗教なんてあったかい?」


 フレアはふと思い返してみるも。土着の宗教や新興宗教、それにお伽噺ぐらいしか思い浮かばない。

 彼は首を横に振ると、リナウスは肩を竦める。


「異法神からスルーされている世界もあるということさ。まあ、異法神にも色々いてさ、各世界を自由気ままに放浪していたり、神々同士の戦いに負けて人間の世界に逃げ落ちたのもいる」

「落ち武者みたいなもの?」

「ははは、そんな感じさ。戦いが苦手なのもいるが、勘違いしてはいけないのは異法神の中には人間にとって悪意を持つ者もいるということさ」

「リナウスはどっちなの?」


 すると、リナウスはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 意地悪なようであり、何かを小馬鹿にしているようでもあり、見る者に緊張と苛立ちの募る顔でもあった。


「ふふふ、私は人間からすれば天敵のような存在さ」

「でも、弱者の味方なんだよね? 矛盾していない?」

「いや、矛盾はしていないよ。そのうちわかるかもしれないね」


 含み笑いをするリナウスを見ていると、意地悪なナゾナゾを出して得意げになっている少女そのものだ。

 当然フレアに分かるわけも無く、少し考えただけで眠気がこみ上げてくる。


「じゃあ、僕はそろそろ寝るかな」

「そうかい、私はしばらくこの月明かりを楽しんでいるよ」

「ロマンチックなんだね」

「ああ、そうさ。意外かもしれないが私はロマンの塊でね」

「そうなんだ。それじゃあ、僕は眠るよ」

「ふふ、いい夢をみたまえ」


 フレアは寝床へと戻ると、毛布を身体に巻き付ける。

 疲れもあり、すんなりと眠りに就くことができた。

 その晩、フレアは久々に良い夢を見た。

 どんな夢を見たかまでは覚えていなかったが、少なくとも地球にいた頃に見ていたおびえてばかりの悲惨な夢とは違っていた。

 時折、自分のことを呼ぶ幻聴も聞こえてきたが、それすらも子守唄のようにどこか安らかに聞こえるのだった――。


第一章 完

これにて第一章は完となります。

今まで苦しい日々を過ごしていたフレアもようやく幸せな日々を過ごせそうです。

第二章からきっとほのぼのとした生活が始まるのでしょう。


え、結局リナウスはどんな神様なのかって?

これから続くお話を読めば判明するかもしれませんね。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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