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第八章「黒幕」その3

セインを連れて屋敷へと戻ったフレア達。

リナウスは果たして何を語り出そうとするのでしょうか?

 部屋の中央にあるテーブルには汚れた皿や食べかすで散らかっており、セインがいない間は彼が定期的に掃除はしているものの、気が付くと汚れているという有様だった。

 リナウスは食事を摂る必要がないためか、よくフレア達の食事の風景を眺めながらも干し肉やパンの包装紙で折り紙をして遊んでいたりするが、今日に限っては席について上の空といった様子だ。

 早く食事が出来ないものかと待っていると、セインが大慌てで料理を運んできた。


「すみません。皆様をお待たせする訳にもいかないので……」


 生野菜を洗ってドレッシングをかけただけの簡素なサラダであるが、一刻も早くリナウスの話の聞きたい二人からしたらありがたかった。


「大丈夫だよ」

「流石セイン殿であるな」


 二人はフォークでサラダをつつきながらも、リナウスの方に目をやる。


「食べながらでいいから話を聞いてくれたまえ。ディアムが私に語ってくれたのは、オースミムに関しての情報だった」

「オースミムの?」

「繁栄と団結の神であるオースミムが奴隷として働かされていた人間を解放するために亜人達に戦いを挑んだ、というのは誰もが知る話であるが」

「うん。結局はオースミムが勝ったんだよね?」


 フレアがエシュリーと頷き合っていると、リナウスはその間違いを指摘するかのように人差し指を横に振る。


「いや、実際はほぼ相打ちという形になったそうだ」

「相打ち? 勝負がつかなかったの?」

「壮絶な戦いだったそうだよ。当然亜人達が信仰する他の神々も参戦したし、彼らは力を使い果たしたそうだ。ただ、その後の問題はオースミムがクロミア大陸を――」


 リナウスは一旦ここで言葉を区切る。

 どうしたんだろう、とフレアがニンジンを喉奥へと押し込みつつも身構えていると、微かにリナウスが唇を震わせていることに気が付いた。


「……捨てて逃げた」

「い、今何とおっしゃったのであろうか?」

「逃げたんだと。慕ってくれた人間達をないがしろにしてね」

「う、嘘、でしょ――」


 後頭部を鈍器で殴打されたかのようにフレアの視界が大きくぶれ、吐き気までこみ上げてくる。


「え、おかしいよね? だって、オースミム教があるし、オースミムもいつかは戻って来るって――」

「リナウス殿。あまりの衝撃に私も混乱しているのであるが……」

「私も驚いているさ。だが、オースミムを騙る神がいるのは事実だ。ディアム曰く、そいつの名はバルシーア。長い間、クロミア大陸を支配していた黒幕だとさ」


 フレアは唖然とする。

 今の今まで長い間戻ってこないオースミムに怒りを覚えたこともあったが、よもや民を捨てて逃げ、それだけでなく何やら別の神が裏で糸を引いていたとは思ってもいなかった。


「そのような神がいたのであるか……」

「元々バルシーアはクロミア大陸中の神々を配下としていたそうだ。人間を奴隷としてこき使うように仕向けたのもバルシーアの仕業で、その処遇に怒りを覚えバルシーアを裏切ってオースミムに味方した異法神もいたとか」

「ディアムもその味方した異法神ということだよね。――ん?」

「フレア殿、どうされた?」


 『裏切る』というのはフレアの嫌いな言葉の一つだった。

 聞くだけでも思い出したくもない記憶がひょっこりと顔を覗かせ、ある意味では呪詛にも等しかった。

 だが、その呪詛が思わぬところで役に立つとは彼も想像していなかった。


「リナウス。前に君が話をした異法神のグムヌがアクアノ族を裏切り者呼ばわりしたのって……」

「ああ。恐らくアクアノ族が信仰していた異法神――ブレルモという名前だがね、ブレルモがオースミム側についたのだろう」

「む、そんな事情であったのか。力を取り戻したグムヌがウサルサ族を焚きつけたのが、前回の騒動の原因ということか」

「オースミム戦役で力を失った異法神達が徐々に復活している時期という訳さ」

「なんて時期なんだ……」


 力を取り戻した異法神達がまたクロミア大陸で戦いを繰り広げるのか。

 そして、罪なき人間や亜人達がそれに巻き込まれて命を落とす羽目になる。

 そう思うとフレアは生きた心地がしなかった。

 

「しかし、バルシーアとはどんな神権を持った神なのであろうか?」

「それがわからないそうだ。何でも、その姿は常に配下の呼び出した白い霧に隠されていたとのことさ」

「その配下ってミスリーのことだよね」

「ああ、人だけでなく神をも惑わすあの霧の力を悪用すれば情報かく乱も楽なもんさ」


 フレアは心底ぞっとする。

 ミスリーが完全に目覚めていたのならば、記憶が全部吹っ飛ばされていたかもしれない。

 二度とリナウスの名前を呼べなくなったら、誰に助けを求めればいいのか。

 そう考えるだけで彼は震えが止まらなくなる。


「そうなると、バルシーアを信仰していた亜人もわからないのであろうか」

「そりゃあね。アムーディ達を拷問してもいいというのならば……。冗談さ」


 リナウスが肩を竦めるのを見ると、仮に間違って自分が首を縦に振ったら躊躇なく取りかかるのだろうとフレアは静かに確信する。


「リナウス。それだけはますます出来ないよ。それをしてしまったら、何だかバルシーアの思い通りになる気がするもの」

「そいつは同感さ。手の平で踊らされるというのは実に癪だからね」


 口調こそ荒いものの、リナウスはテーブルの上にあった包装紙を綺麗に折り、犬らしき生き物を作り出していた。

 冷静を装っているのだろうが、残念なことに足が六本ある時点でやはり苛立っているのが推測される。


「しかし、オースミムが逃げた以上、バルシーアの勝利であろうに。わざわざオースミムを騙る意味が分からないであるな」

「もしかしてオースミムに代わって、クロミア大陸を支配するつもりかな?」

「人を集めるならば繁栄と団結の神の方が響きはいいからね。その可能性が高いだろう」

「よもや、信仰心を利用するとは……」


 歯ぎしりをしながらも、エシュリーはいつの間にやらサラダを完食していることにフレアは気が付く。彼はまだ半分も口にしていないというのに。

 彼はじっと考える。

 このまま静観するのが正しいのか、それとも積極的に行動するのが正しいのか。

 ふと、リナウスが彼をじっと見つめていることに気が付く。

 どこか値踏みをするかのような目つきをしており、彼がどこへ向かうかをしっかりと見定めていた。

まさかの情報に驚く一同。

明かされた黒幕バルシーアの狙いとは一体――?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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