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第七章「内通者」その1

フレア達を裏切った内通者は果たして誰なのでしょうか?

その答えが判明する第七章が始まります。

 その日、フレアは朝早く目覚めた。

 普段ならば、エシュリーの方が早起きをするのだが、この時ばかりは違っていた。


「フレア殿。早すぎではなかろうか」

「いや、ごめん」

「髪も整えていないというのに……」


 寝間着姿のエシュリーは眠そうな目で呟いている。

 その顔にはいつもの生真面目な彼女独特の気迫が見られず、まるで普段の様子が演技であるかのようにすら思えてしまう。

 彼女が支度を済ませている間に、フレアは白パンとチーズの塊を頬張り、水で手っ取り早く胃へと流し込む。

 そして、いても立ってもいられず、彼は屋敷の外へと飛び出た。

 屋敷からしばらく歩いた先にブレザー姿のリナウスがロバート君と一緒にいた。

 リナウスはロバート君の歯をブラシで磨いており、大型なペットと遊んでいる睦まじい光景にも見える。

 そして、フレアに気が付くと、リナウスは黒髪をかき上げてから元気よく挨拶をしてきた。


「おはよう」

「あ、うん。おはよう」

「昨晩はよく眠れなかったようだね」

「もう少し神経が図太ければよかったと思うよ」


 フレアは自虐的に呟きつつも、気持ちよさそうに歯を磨かれているロバート君の頭を撫でる。

 本当に竜なのかとすら疑ってしまうほど、実に可愛げのある笑顔を彼へと返してくる。


「ふふ、私としては、君は君らしくいて欲しいとは思っているよ。はて、エシュリーはまだなのかい?」

「うん」

「ま、焦りすぎても仕方ないさ。ただ、フレア。君は留守番でもいいんじゃないかい?」

「いや、リナウスだけに任せる訳にはいかないよ」

「戦いにもなるかもしれないんだがね?」

「その時は上手く逃げ回るよ」

「ふふ、わかっているじゃないか」


 リナウスは含み笑いをする。

 艶やかで柔らかく、心の底から喜んでいるかのようで、フレアがそれに見とれていると慌ただしい足音が聞こえてきた。


「待たせた!」


 息を切らせてやって来たエシュリーはしっかりと髪を整えており、胸当てを身にまとっていた。

 彼女の後ろにはアルートの姿があり、無表情のままじっとロバート君を見つめている。


「準備は万端かい。じゃあ行こうか」


 皆でロバート君の背に乗ると、その巨体は翼を羽ばたかせ、日が昇り始めたばかりの空へと向けて飛び立つ。

 フレアはその身に朝風を浴びるも、少しも爽やかに感じられず、厳しい冬を思わす冷気を存分に含んでいた。

 ロバート君が欠伸交じりに空を飛んでいる最中、エシュリーが何かに気がついたらしく声を上げる。


「ちょっと待ってもらいたい。目的地と方角が違う気がするのであるが」

「ああ、それね。ちょいと野暮用があってさ」

「野暮用、であるか?」

「うん。どうしても必要なんだ」

「それならば仕方ないであるが」


 それからしばらくして、野暮用を済ませてから、ロバート君は再度目的地まで向かって飛び立つ。

 その間、一同は一言も喋ることもなく、あまりの静かさにロバート君は気味悪がっているのか不審そうに首を左右に振っている。

 フレアはそんなロバート君を宥めながらも、早く着かないものかと、彼もまた落ち着かない心境にあった。

 やがて、長い沈黙にひたすら耐えていると目的地へ着いたらしく、ロバート君の下降に合わせてフレアは胸を撫で下す。


「ん? ここでいいのであろうか?」


 降り立った場所は川岸にあたる場所で、そのすぐ近くにはジフシム川が緩やかな勢いで流れていくのが見て取れる。

 その川幅は泳いで渡るには広く、その他にも危険な肉食魚がうようよ泳いでいるとの話もあるとのことだった。

 近くには人家すら見られず、ここから先ひたすら草地を突っ切って歩かなければと思うと誰もがうんざりとするだろう。


「さっきも言ったけれども、手筈通りにここから彼らの里に向けて歩くから」

「ふふ、手筈通りにね」


 ニヤニヤと笑っているリナウスを見ていると、フレアもまた笑ってしまいそうになる。

 そう、これは敵の目を欺くための作戦なのだ。

 失敗した時のことはさておき、成功を願いながらもフレア達は目的地へ向かって足を動かす。

 その最中、フレアの心情は水面を漂う落葉のごとく上の空だった。


「フレア殿。どうされた?」


 エシュリーに肩を叩かれ、フレアは思わず背筋を反らす。


「あ、うん。考え事をね」

「そりゃあ結構さ。それで、何を考えていたんだい?」

「他国まで遠征する軍隊ってさ、こんな心境なのかなって」

「そうなの?」


 アルートが首を傾げながらも、その目線の先には困惑するエシュリーの姿がある。


「いや、どうなのであろうか? 少なくとも今の私は緊張しているのであるが」

「リナウスはどうなの?」


 すると、リナウスはそれぐらい自分で考えてくれとばかりにわざとらしく肩を竦める。


「まあ、虚しい気分で戦いに赴く者もいるだろう。ただ、これから始めるのは負け戦じゃないんだがね」


 リナウスはフレアへと近づくと、彼の頬を指の先でツンツンと突く。


「この私がいる以上、白旗降伏といった無様なことにはならないさ」

「何故、頬を突くの?」

「ふふ、何となくさ」

「ほう……」


 すると、何故かエシュリーもフレアの頬を突いてくる。


「ちょ、止めてよ。何で真似するの?」

「何となくである」


 フレアはその後もアルートに頬を突かれるという何故か散々な目に遭いながらも、彼らは徐々に目的地へと突き進んでいく。

 いつの間にかフレアの心の中に陰鬱な感情は消し飛んでいたものの、こんな緊張感のない状況で本当に大丈夫なのかと思ったが、後悔してももう遅い。

 何故なら既に彼らのテリトリーに着いてしまったからだ。

いよいよ戦いが始まりそうです。

既にこの時点で誰が内通者かわかったという方もいるかと思いますが、続きはまた次回となります。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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