第一章「始まり」その4
フレア達のやって来た異世界メルタガルド――。
彼らのいるクロミア大陸には人間の他にも亜人という種族がいる模様。
クロミア大陸の歴史が今語られます。
人間達が虐げられる中、ある奴隷が立ち上がった。
その男の名はランメイア、後にランメイア王国の初代国王となった英雄でもある。
ランメイアは繁栄と団結の神オースミムから加護を授かり――と説明したところでフレアは手を上げる。
「繁栄と団結の神? どういう神様なんですか?」
「フレア、異法神については私がゆっくり説明してあげよう。まずはモーリーの話が先だ」
「う、うん」
フレアは逸る気持ちを抑えながらも、モーリーの話に耳を傾ける。
ランメイアはオースミムの名の下に、同じ境遇の奴隷達と共に亜人達に挑み、後にオースミム戦役とも呼ばれる大きな戦いが勃発した。
亜人達もまた抵抗するも、オースミムの力と人間達の優れた知恵によって生み出された武器には敵わず、ついに人間達は自由を勝ち取った。
「それで、そのあとは!?」
フレアは身を乗り出しながらもモーリーに問いかけると、その反応が可愛らしかったのか、彼女はリナウスを通して弾んだ声で語りかける。
役目を終えたオースミムは再びメルタガルドへ戻ると告げた上で神々の世界へと帰ったそうだ。
その後、人間と亜人との間で、互いに戦争行為の一切を禁止するという和平条約が結ばれ、それ以降クロミア大陸では大きな戦争は起きておらず、皆平和に暮らしているとのことだった。
「そうか、今は平和な時代なんだね」
フレアが安心する一方で、リナウスはキョトンと天井を見上げていた。
何か腑に落ちない、と言った様子をしており、彼は思わず尋ねてみる。
「どうしたの?」
「いいや、ちょいとね。おっと、モーリーが一旦手洗いに行きたいそうだね」
「あ、うん」
モーリーは軽く頭を下げると、手洗いのある外へと向かっていった。
彼女が席を外したことを確認してから、リナウスはフレアに向かって話しかける。
「はて、異法神の話をするとしようか。まあ、私以外の異法神に遭遇する機会は少ないとは思うがね。まず話すべきは、異法神達は結構自由気ままな所かな」
「自由気まま?」
「人間に積極的に関わる奴もいれば、人間なんて微塵も興味がないのもいる」
「リナウスはどっちなの?」
「ふふ、どっちだろうね。はて、次は神権の話かな」
「しんげん?」
「いわゆる素質のことさ。異法神は世界の理に干渉できるが、その範囲は各々の神権によって決まっているといったところかな」
「強い神様と弱い神様がいるってこと?」
フレアの率直な意見に、リナウスは苦笑いを浮かべる。
「超えられない領域というのはどこにでもあるものさ。話を戻そう、異法神は二つの神権を持ち、それらの組み合わせにより様々な神魂術を扱えるのだよ」
「しんごんじゅつ? 魔法みたいなもの?」
聞きなれない単語が出て戸惑うも、フレアは急いで理解しつつも聞き返す。
「ふふ、まあそういう解釈でいいかな」
「じゃあさ、どうして神権を二つ持っているの? 一つじゃダメなの?」
「これまた難しい質問が来るものだね。ざっくり説明すると、万物には切っても切り離せない縁があるのさ。昼と夜、光と影、温暖と寒冷のようにはっきりと相反するものもあれば、扉と鍵や糸と針のように組み合わせることで意味を成す感じかな」
「そうなんだ。じゃあ、繁栄と団結の神様というのは――」
「まあ、繁栄するには皆で団結しろ、ということだろうが、それにしてもわっかりやすいものだ。何というか、スローガンだね、まったく」
フレアは大嫌いな運動会のことを思い出し、小さく身震いする。
あんな恐ろしい行事とは今後一切関わらないと思い直し、フレアは胸を撫で下ろした。
「えっと、だったらリナウスはどんな神権を持っているの?」
「おいおい、私が簡単に明かすとでも思うかい? 生憎、私はそこまで安っぽい神でないのさ」
リナウスが皮肉げに肩を竦めていると、モーリーが戻ってきた。
彼女は申し訳なさそうに二人に頭を下げると、食卓の椅子へと戻る。
「それで歴史の授業を続けるかい?」
「えっと、この世界に魔法とか魔物がいるのか聞いてみていいかな?」
「構わないさ。ふんふん――」
リナウスが何点かモーリーに問いかけるも、彼女はさっぱりわからないと言った様子で首を傾げるばかりだった。
「すまない、フレア。悪いが、この世界には魔法はなくて、魔法使いや魔女の類はいないらしい。魔物はいないが、危険な野生生物はいるってさ」
その答えを聞いてフレアは少しガッカリする。
一度でいいから空を軽やかに飛んでみたいと思っていたからだ。
「そうなんだ」
「どうにも世界を選んでいる時間がなくてね」
「いや、大丈夫だよ」
よくよく考えると、魔物だらけの世界というのも怖いのでは。
フレアはそんな思いを打ち払うべく、話題を切り替えることにした。
「じゃあ、次はモーリーさんについて知りたいな」
「了解した」
リナウスがモーリーに話しかけると快諾してくれたらしく、彼女はフレアに対し笑顔を返す。
「一人暮らしをしているんですか?」
「ふんふん。かつて木こりをしていた旦那さんと住んでいたみたいだね。旦那さんが亡くなってから、一人で暮らしているんだってさ」
「そうだったんだ。寂しくないの?」
「どうやら、近くに町があるみたいだね、必要な物があったら町まで行って買うそうだよ」
「町があるんだ」
一体どんな町並みが広がっているのだろうか。
フレアはわくわくしながらも、勝手な妄想を広げ始める。
きっと新しい出会いが待ち受けているんだろう。
それからもフレアは様々な質問をモーリーへと投げ続けるも、モーリーは嫌な顔せずに答えてくれる。
次に何を質問しようか迷っていると、リナウスが肩を竦める。
「フレア、悪いがもう遅い時間だ。今日はそろそろ寝たらどうだい?」
「うん。そうだね。えっと、モーリーさんにありがとうって伝えてもらっていい?」
「了解した。では、君の寝床を用意してもらうようにも伝えておく」
リナウスがモーリーに何かを話しかけると、
ソファーにクッションを敷き詰めた簡易的なものだが、フレアの実家のせんべい布団よりはかなり寝心地がよかった。
ランプの灯りが消えた真っ暗な室内で眠りに就こうとすると、彼はあることに気がついた。
フレアが平和な世界に来られてホッと一安心というところです。
謎多き異法神についても説明があり、これから物語はますます楽しくなりそうです。
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それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。