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第六章「分岐」その6

果たして、フレアの仲間の中に本当に裏切者がいるのでしょうか……。

重苦しい雰囲気が続きますが、今回はほんわかとするお話となります。

 フレアは屋敷へ戻る最中、ロバート君の背中でうとうとと舟を漕いでいた。

 人と話すのは疲れるものだ。

 それも元気よく振舞うとなると猶更疲れてしまう。

 そんな彼を気遣ってか、ロバート君はあまり揺らさないよう丁寧に翼を動かす。


「しまった、ぼんやりとしていた!」


 フレアが慌てて覚醒すると、既にロバート君は屋敷付近へ到着しており、彼に対して『休憩でもしたら?』という目線を送る。


「うん、そうしようかな。ロバート君ありがとう」


 ロバート君を見送った後、屋敷へ戻ったフレアは自室で仮眠を取ることにした。

 考えなくてはならないことが山のようにある。

 しかし、その前に休まなければ前に進めない。

 彼がうとうと眠ってから暫くすると、ノックの音が聞こえた。


「ん、どうぞ――」

「失礼いたします」


 一礼と共に部屋に入って来たのはセインだった。


「フレア様。お時間大丈夫でしょうか?」

「だ、大丈夫だよ」


 フレアは目を擦ってから目線をセインへと向ける。


「実は折り入ってご相談がございます」

「相談?」


 何やら深刻な話の雰囲気がする――。

 フレアは眠気を振り払ってセインの話に意識を集中させる。


「実はロバート様をお借りしたいのです」

「ロバート君を? 別にいいけれども。ひょっとして遠くに買い出し?」

「いえ、前々から考えていたのですが、一度実家に戻ろうかと思っています」

「実家……」


 フレアはカプリアノ族であるセインが元々山深くに住んでいるという話を思い出す。


「そう言えば、セインは異端狩りに捕まっていたけれども……」


 セインは恥ずかしそうに顔を伏せてから、ポツリポツリと語り出す。


「実は、家出をしたのでございます」

「家出?」


 家出という単語にフレアは感心を抱く。

 過去には何度も家出を計画していた時期もあったが、遠出をしようにも手助けをしてくれる知人もいなければお金もない。

 狭い鳥かごに押し込められているような心境であったのは随分昔のことではあるが、それでも彼にとって忘れように忘れられない過去の一ページだった。


「はい。それも本当に些細な喧嘩が原因なのです。以来、家族と顔を合わせようかどうか迷ってしまって……」

「そうだったんだ。それですぐに向かうの?」

「はい。よろしいでしょうか?」

「うん。大丈夫だよ。ところで、僕も一緒に行っていい?」

「フレア様、お疲れではないのでしょうか?」

「疲れはもう吹っ飛んだよ」


 フレアとしては果たしてセインは両親と仲直りできるのだろうかと考え、何か手助けができればと思っていた。


「では、早速参りましょう。準備をして参りますので、玄関で待ち合わせましょう」

「うん」


 返事をしたもののフレアはあまり準備をするものがないことに気が付く。

 外套を身に着け、ロバート君を呼び出すために角笛を取り出す。

 またも襲撃に遭うかもしれないが、その時には全力でセインを守らなければ。

 護身用の杖の握りの部分に力を込めてから、彼はあまり急がないよう屋敷内をぶらつきつつも玄関へと向かう。

 セインが丁寧に掃除をしてくれているおかげで、蜘蛛の巣一つすらないと彼は感心しながらも玄関へと向かうと、ちょうど彼女と行き会った。


「お待たせしました」

「いや、僕も今来たところだよ、う、ん?」


 フレアはセインの服装がメイド服のままであることに疑問を抱くも、それよりも彼女が左右の手にそれぞれ持っているバスケットに興味が移った。


「その荷物は?」

「はい! これはお土産です!」


 フレアは目を瞬かせる。

 何故ならバスケットからは物がはみ出ており、よくよく見ると野菜や果物の他、どこで入手したかわからないようなガラクタらしき物までもがぎっしりと詰められているようだった。


「ちょっと多すぎない?」

「大は小を兼ねると申しますから」

「う、うーん……」


 セインの性格からすると、どれを持っていくか迷いに迷った挙句、全部を持っていこうと思い至ったのだろう。

 整理してみたらというアドバイスをしようかとも思ったが、選ぶだけでも日が暮れてしまいそうだった。


「と、とりあえず行こうか」

「はい!」


 元気よく返事をするセインを連れ、フレアは屋敷の外へと出る。

 敷地内から出て角笛でロバート君を呼び出すと、まるで待っていたとばかりにロバート君が空から舞い降りてくる。

 機嫌が大層よかったらしいが、セインが背に乗った瞬間、彼の機嫌は一気に反転する。


「ロ、ロバート君!?」


 フレアが頭を撫でて宥めようとしても、猫が威嚇するような唸り声を上げ、明らかに嫌がっている。


「おなかが減っているのでしょうか?」

「いや、セインの荷物が重いからじゃないかな?」


 フレアの言葉に対し、ロバート君はうんうんと頷いでるような気がした。


「そんなに重いのでしょうか?」

「僕も信じたくはないけれども……」


 フレアが試しにバスケットを一つ持ってみると、得体の知れない重みが彼の腕を襲った。

 何気ない表情でバスケットを返すも、セインはキョトンとした顔をしており、特に苦痛は感じていないようだ。


 ――自分の鍛え方が足りないのだろうか。


 フレアは動揺しながらもロバート君に出発をお願いすると、如何にも渋々といった様子で翼を大きく動かして青空へと舞い上がった。


「場所は私が指示いたしますので、フレア様はお休みくださいませ」

「あ、うん」


 僕はそんなに疲れた顔をしているのだろうか――。

 彼自身不思議に思うも、やはりまだ疲れが完全に取れていなかったせいか、自然と睡魔に肩を叩かれる。

 重い瞼の間から、微かに悠々とした山々の連なる姿が見え、目を凝らすと広葉樹林が青々とした葉を伸ばしていた。

 紅葉の時期になるとさぞ見物だろう。

 ぼんやりとした頭で考えていると、セインが彼に何かを告げる。

 フレアは特に意味もなく曖昧に返事をすると、再度セインが心配そうな声を出す。


「大丈夫。大丈夫だって」


 彼が返事をしてしばらくするとロバート君が降下をしているらしく、フレアはバランスを崩してしまった。


「うええ!?」


 奇声を発しつつも、本能的にロバート君の背中の鱗にしがみつくことで何とか落ちずに済んだものの彼の心臓はバクバクと跳ね上がっていた。


「フレア様!? 忠告をしたのですけれども……」

「そ、そうだったよね? ごめんごめん」


 ただの空返事とは口が裂けても言えるはずがない……。

 フレアは赤面したのがバレないように顔を伏せていると、ロバート君は山間にある岩場へと着地を試みていることに気が付いた。

 一面森なのに、何故か不自然に大岩が置いてある。

 まるで誰かが目印として置いたかのようだ。

 ロバート君は何なく着地に成功し、二人はロバート君の背中から岩へと降り立つ。


「ロバート君はここで待っていてね」


 ロバート君が大きなあくびで返事をする。

やはりセインの荷物が重かったせいなのだろう。


「では、こちらです」


バスケットを両手に持ったセインに誘導される形で、フレアは森の奥深くへと向かっていった。

今回はフレアとセインのお出かけ回となりました。

さて、次回はどうなるのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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