第五章「不穏」その9
いつになく真剣なエシュリーの真意とは……?
エシュリーは一体どんな質問をするのだろうか。
フレアは黙って様子を伺うことにした。
「手短に言ってくれたまえ」
聞いておきたいこととなるとやはりこの度の襲撃の詳しい内容だろう、とフレアは予想するも大きく外れることになってしまった。
「その、お孫さんがいるのであるか?」
あの鋭い眼差しで一体何を考えていたんだ……。
フレアは脱力のあまり思わずその場でずっこけた。
「おう。オイラにそっくりの可愛い女の子さ。性格は似ても似つかないですがね!」
その答えを耳にしたせいか、セインの足元が大きくぐらつく。
ガハハ、とどこか親父臭い笑いをするマルマークを直視すれば、そのショックもさぞ大きいだろう。
ほろ苦い現実を味わうことで人は成長するのだろうと、フレアは他人事ながらも同情してしまう。
「セイン。大丈夫?」
「え、ええ。何とか大丈夫でございます」
他方、さしものリナウスも呆れてしまったのか、半眼でエシュリーを見据え返している有様であった。
「エシュリー。君の真面目な点は評価していたのだがね」
「ち、違う! 他にも質問はある! 異端狩りの数はどの程度だったのだ! 敵の規模の把握は重要であろうに」
「数ですかい? そうですね~。オイラはとりあえず十体ですかね」
「オイラは?」
「いえいえ、倒した数ですよ。どいつもこいつもへっぴり腰でしてね~。泣きながらてめえの母ちゃんの名前を叫んでいる奴もいましたね」
一人でそんなに倒せるものなのか、とエシュリーは疑問の目を向けているも、フレアは肯定するかのようにかぶりを振る。
「マルマークは強いんだよ。素早いし、神魂術も使えるし」
「神魂術を? 貴殿もカミツキであったのか! よもや、先程急に現れたのも……」
「へへっ! 幻影と隠密の神ユウジラミ様のお力ですぜ! まあ、オイラもまだまだ未熟ですがね」
謙遜しているような物言いだが、マルマークは胸を張って得意げに話している。
その自由奔放な姿にフレアが羨ましく思っていると、リナウスが小さく咳払いをした。
「ユウジラミも記憶を失っていなければ私も大助かりだったんだがね。そして、フレアに言っておきたいことがあったんじゃないかい?」
「そうそう! すっかり忘れていやしたぜ!」
すると、マルマークは表情を消してからフレアへと向き直る。
その円らな目は獣特有の殺気に近い物を放っていた。
「異端狩りの連中の一人が言っていやがったんです。これは、始まりにしかすぎない、と」
「始まり――」
改めてフレアは自分の口にした宣戦布告という言葉を心の中で繰り返してみる。
これから長い戦いが始まるのだろうかと考えるだけでも、フレアは不安で仕方なかった。
リナウスがいる以上、どんな戦いでも負けることはない。
負けることはないのだが、多かれ少なかれ財団側にも犠牲者の出る恐れがある。
誰かが亡くなったら、僕はその苦しみに耐えることが出来るのだろうか……。
フレアは気分が悪くなったと申し出る。
誰も咎めはしなかったが、後ろ髪を引かれるような思いを抱えつつも彼は逃げるように自室のベッドへと潜り込む。
明日から被害に遭った亜人達の様子を見て回らないといけない。
そんなことを考えていると中々眠れず、ようやく眠れたかと思うと外から鳥のさえずりが聞こえてくる。
あっという間に来てしまった今日を恨みながらも、彼はやむなく寝床から這い出る他なかった――。
第五章は終始不穏な展開となりました。
さて、暗雲が立ち込める中フレアは活路を見出すことが出来るのでしょうか?
次回から第六章が始まります。
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それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。




