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第五章「不穏」その4

フレア達に襲い掛かる異端狩り達。

さて、フレア達はこの危機をどう乗り越えるのでしょうか?

 フレアが一旦退却だと思っていたその矢先だった。


「どけい! 三下共!」


 エシュリーが敵へと向かって行ってしまった。

 強引に突撃する姿は勇敢な騎士を彷彿とさせるが、彼からすれば無謀な狂戦士にしか見えなかった。


「はあっ!」


 高々と叫ぶのはやはり無謀ではあるが、アドバンテージを取るという意味では、戦い慣れしていない相手を大声で牽制するのは効果があるだろう。

 彼女は持ち前の瞬発力を活かし、するりと一番近くにいた敵の懐へと潜り込む。

 リーチ差があるのならば、それを強引に埋めればいい、という無茶苦茶な戦法だ。

 エシュリーはニタリと笑うと、容赦のない膝蹴りを敵の腹部へと叩き込む。

 泡を吐き悶絶した男に足払いを仕掛けると、敵の持っていた長剣を奪い取ってから、また次の敵に攻撃を仕掛けていく。

 命を奪わないよう慎重にかつ大胆な暴れっぷりに、足並みの揃っていなかった異端狩り達はさぞ混乱しただろう。


「これを!」


 エシュリーは敵から奪い取った槍をクーザーへと投げ渡した。


「助かる!」


 槍を手にしたクーザーは、水を得た魚のごとく突撃を敢行する。

 風車のごとく槍を振り回し、躊躇いもなくど真ん中へと突き進むだけで、敵は悲鳴を上げて四方八方へと散らばっていく。

 騎馬兵が雑兵を蹴散らす様は実際もこんな感じなのだろう。

 フレアが素直に感心していると、ヘイクス族の二人が咆哮を上げる。

 どうやら、エシュリー達の戦っている姿に興奮したらしく、素手の状態で敵へと向かって走り出してしまった。

 その鬼気迫る勢いはただただ本能を剥き出しにしただけであり、どこか生物としての浅ましい一面を露わにしているようでもあった。


「ひ、ひ、怯むな!」


 そんなことを言われても無理な話だ、とその場にいた者の殆どが思ったに違いない。

 我先へと逃げ出す異端狩りに対し、フレアとセインを除いた皆がそれを追い回す。


「皆! ちょっと!」


 フレアが声を上げるも、興奮した一同がそう簡単に止まるはずもない。

 真面目に得物を構えてその場に留まる異端狩りに対し、エシュリーは強襲を仕掛ける。

 体勢を低くしてからの足払いと見せかけてからのショルダータックルをぶちかます。

 随分と手荒な戦い方だが、戦いの美学がどうのとのたまっている場合でもない。

 体当たりで倒れた敵を足蹴にしつつも、彼女達は勢いのまま進んでいくその姿は革命を先導する乙女そのものだ。

 思わず拍手を送りそうにもなるが、不安な気持ちの方が強いせいかその気力も失せてしまう。


「どうしたもんだかな」


 困っているフレアに対し、セインは不思議そうに尋ねる。


「フレア様。このままの勢いで敵を追い返してしまえばよろしいのではないでしょうか?」

「いや、調子に乗っていると痛い目を見るものだから」

「でも、好機を狙わないのは損かと……」

「人生さ、何もかもが思い通りに行くものじゃあないんだよ。ほら」


 フレアがやれやれとため息を零していると、エシュリー達が戻って来る。

 追撃を中断して引き返した、という賢明な判断ではない。

 目を凝らしてみると、彼らの背後には異端狩りの大群が押し寄せている。

 その数はざっと五十以上はおり、巻き返された結果での敗走であった。


「おのれ!」


 彼女の手にした長剣が赤銅色の光を放ち、一閃と共に眩い光が周囲を強く照らす。

 恐らくは神魂術なのだろうか、それにしては格好がいいな、とフレアは思わず見とれてしまう。

 異端狩りも驚いた声を上げるも、それでも敵の勢いを止められそうにない。


「これは、まずいかな」

「まったく、自重はするものでございますね」

「そうだよね」


 フレアは小さく肩を竦める。


「あの、フレア様?」

「何?」

「今のは私の声ではないのですが……」

「え、だって」


 フレアがセインの方を向くと、そこには――。


「えっ! リナウス!?」


 セインの隣にはいつの間にやらリナウスの姿があった。


「ふふ、私の声真似はどうだったかね?」


 また妙な趣味を持ったものだとフレアは小さくうな垂れる。


「うん、そっくりだったよ」


 そうこうしているうちに、エシュリー達がフレアの元へと戻って来る。

 無論、その目と鼻の先には異端狩り達が迫っていた。


「フレア殿、それにリナウス殿! すまない!」


 開口一番に自分の失敗を認め、謝るのは良いことだと思う。

 謝罪の意思があるならば、相手の怒りも多少は収まるかもしれないからだ。

 しかし、当然ながら逆効果になる場合もあるし、相手が気まぐれな神ならば逆鱗に触れる恐れもある。

 リナウスは小さく笑う。

 しょうがないな、というヤンチャな子供のイタズラを許してやるような、そんな笑いに見えなくもない。

 だが、フレアにはその笑みの意味がわかっていた。

 彼はセインを後方へ下がるように目配せをしたその瞬間だった。


「死にやがれ!」


 そして、こんな時だというのに、異端狩りの連中は空気を読んでくれないのだから困りものだ。

 フレアが頬を掻いていると、リナウスがまたも笑う。さっきよりも小さい笑みだ。


「あのさ、私も怒るのだがね」


 朗らかにそう言った後に、リナウスはハミングする。

 ピクニックでテンション全開の年頃の女の子とはこんなものだろうか。

 殺伐とした雰囲気をぶち壊すかのようだが、その声色はやけに野太く、耳にする者達を震え上がらせる。

 フレアは怯えているセインを庇いつつも様子を窺うと、リナウスの背後に何やら巨大なものが蠢いていることに気が付く。

危機を乗り越えたと思ったら、逆転されるというとんでもない事態に。

でも、リナウスが来てくれた以上もう安心でしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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