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第四章「再会」その6

サジルタ族のクーザーは同じ亜人であるヘイクス族に苦労しているとのことだった。

さて、待ち合わせ場所についてリナウスは何か知っているのでしょうか?

 フレアと一緒に地図を覗き込んでいたリナウスが肩を竦める。


「ああ、あの遺跡ね。大丈夫さ、すぐにわかるよ。それじゃあ、当日は現地集合でいいかな?」


 リナウスはフレアとクーザーの双方に問いかける。


「大丈夫だけれども」

「了解した」


 フレアは了承してから、クーザーに語り掛ける。


「えっと、事前に打ち合わせをしておきませんか? 参加者について詳しく知りたいんです」

「む、確かに。まずヘイクス族の参加する面々だが――」


 フレアとリナウスはクーザーの話に耳を傾ける。

 ヘイクス族が参加するのは、族長のアトルスと祈祷師のエウステの二名の男性で、それに対してサジルタ族はクーザーとその息子のカイルが参加するとのことで、リナウスの言っていた通り双方武器を持たないのが条件だった。


「ところで祈祷師っていうのは?」

「祈祷師が彼らの狩りの運勢を占って貰っていると聞いている。共通言語を話せるため、我々の話を通訳できるのは彼だけだ」

「どこで共通言語を学んだのやら。まあいいさ、フレアと私に任せて貰いたい」

「そう言っていただけると助かります」


 クーザーが帰っていくのを見送りながらも、フレアはホッと胸を撫で下す。


「お疲れであったな」


 遠くで見守ってくれていたエシュリーがフレアの元へと近づく。


「緊張したよ」


 脇や背中から流れる汗が肌を伝わるのを感じながらも、フレアは安堵のため息を零す。


「うん、私も怖かった」


 アルートが小さく頷いており、その手はエシュリーの服の裾をギュッと掴んでいた。

 そしてそのアルートの隣にはセインの姿がある。


「フレア様。その、私――」


 だらんと下がった尻尾から申し訳ないという感情がダダ漏れになっていた。


「怖がるのも無理はないよ」


 フレアも色々な亜人達と交流を持つようになったが、やはりいまだに慣れない事が多い。


「ど、努力はしております。はい」

「すぐに慣れるのは難しいであろう。最初の頃はアルートも人見知りが激しく、子どもにすら近寄れない有様であったが、努力の結果普通に会話することはできるぞ」


 その言葉を聞き、フレアもまた似たような境遇だったことを思い出す。

 かつて他人と目を合わせるのが怖く、脆弱な自分の心の底まで見透かされそうな視線に耐えきれなかった時期もあった。


「努力、ですか?」

「うん、為せば成る」


 アルートが小さく囁く。


「やはり、そうでございますか! 私も頑張らなければ――!」


 元気が出たのかセインは尻尾が千切れんばかりに振っていた。


「ふふ、その意気だ。それにしても、サジルタ族がわざわざ来るとは。貴殿らの活躍も素晴らしいものなのだな」

「僕も驚いたよ」


 風の噂というのは恐ろしいものだとフレアは改めて自覚する。

 いずれかはサジルタ族とも交流を行おうと思っていたが、まさかあちらから来るとは思ってもいなかったからだ。


「どうやら、族長としての独断かもしれないね。わざわざ一人でお越しくださったのだから」

「僕達を頼ってくれたということ?」

「ふふ、あのサジルタ族も手を焼くヘイクス族が相手である以上、猫の手ならぬ神の手も借りたいということじゃあないかな?」


 ふと、フレアはリナウスの手を注視する。

 白く繊細な指は力仕事が苦手に見えるが、実際は岩をも砕く、いや手刀でスライス出来るのだから単純な殴り合いでは人間が敵うはずがないだろう。

 神の手とは人間にとっては過ぎたるものであることはフレアもよくよく理解している。

 それでもリナウスの力を借りなければ財団の運営そのものが不可能であるのだから、今後もこの手に頼るしかないのだろうと、フレアは改めて思いなおす。


「はてと、君の決済が必要な書類が山積みでさ、とっととやって貰わないと困るのだよ」

「う、うん。それじゃあ、僕は書斎に戻るよ」


 書斎に戻ったフレアは早速書類の束と対峙することになった。

 彼が亜人達から送られてくる嘆願書に目を通すと、いつも通り水や食料についての相談が多かった。

 基本的に亜人達の殆どが自給自足のサイクルの元で生活している。

だが、強風や日照りといった自然災害により、そのサイクルはいとも簡単に崩れてしまう。

 財団の資金にて水や食料を調達するのが手っ取り早いのだが、井戸の掘削方法や長期間保存出来る燻製の作り方といった技術も提供してきた。

 しかし、地下の岩盤が固い土地だと井戸を掘るのが難しかったり、燻製を作ろうとしたら火事になってしまったという話も出てきている。


「うーん、難しいな」


 自分の力不足を嘆きながらもフレアはリナウスの挙げた解決策を読み返す。

 その方法に賛成ならば決済の印を押し、意見があるならばフレアの意見を添えた上で差し戻すというのがいつもの流れだった。


「どうしたものだか……」


 風邪の治療及び予防法の相談についての嘆願書を読んでいると、すぐさま背後からのノックの音に気が付いた。


「誰?」


 フレアが声を掛けると、セインが恐る恐るといった様子で室内へ入ってきた。


「どうしたの?」

「ええっと、フレア様のために何か他にしてあげることはないかと思いまして……」

「僕のために?」


 その瞬間、フレアは顔を赤らめる。

 財団の代表としてメイドさんに現を抜かしている場合ではないと今の今まで思っていたが、実際にいると緊張と興奮のあまり心臓が勝手に高鳴ってしまう。


「そ、その。悪いけれども、タンポポコーヒーを一杯もらっていいかな?」

「はい。かしこまりました」


 笑顔で一礼すると、セインはどこか嬉しそうな足取りで退室する。

 その後ろ姿を見て、フレアは思わず頬を緩めた。


「ふふ、嬉しそうだね」

「ちょ、リナウス!?」


 完全に油断していたことにフレアは反省しながらも、いつの間にか室内に侵入していたリナウスの方を注視する。

嬉しそうなフレアですが、彼の日常がもっと騒がしくなりそうな気がします。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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