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第四章「再会」その5

サジルタ族のクーザーがフレア達に協力を申し出にやって来ました。

果たしてその内容とは――。

 緊張しているクーザーに対し、フレアはまずこう申し出た。


「わかりました。それでは詳しいお話は中でお伺いしましょう」

「いえいえ、このままで私は構いませぬ」


 フレアがどうしてだろうと思っていると、クーザーの背丈が高いせいか身を屈めないと、玄関の扉をくぐることができないだろう。

 例え強引に入ったとしても、天井や梁に頭をぶつける、という惨事が予想できてしまう。


「ふふ、そう言ってくれると助かるよ」

「では、まずは何から話せばいいものか。あなた方はヘイクス族を知っているだろうか?」

「ヘイクス族って、あの?」


 筋骨隆々なヘイクス族を思い出し、フレアは軽いめまいを覚える。

 外見は最も人間に近い亜人なのだが凶暴な性格をしており、一度暴れると手がつけられない。

 リナウスが辛うじて会話出来るだけ幸いだが、以前会ったヘイクス族がフレア達のことを覚えているのかすら疑問だった。


「何? 喧嘩でもしたのかい?」

「いえ、この所彼らが我々の狩場の獲物を狩っているのです」

「え。ヘイクス族が?」


 ヘイクス族が住んでいる場所は限られており、特に雨風を凌げる洞穴を好んでいる。

 当然彼らの狩場も住処の周辺となっているため、他の亜人達と狩場が重複することはほぼないはずだ。


「近くで獲物が取れないから、遠方まで狩りに赴いているのかね」

「そのようです。我々も手荒な真似はしたくないのですが――」


 クーザーは担いだ斧に視線を移してから肩を竦める。

 その疲れた顔からすると、フレア財団へ相談しに来たのも苦渋の決断からなのだろう。


「下手をすると、サジルタ族とヘイクス族の全面戦争となってしまうからね。まあ、私達を頼って大正解、とだけは言っておくよ」


 そう言いながらも、リナウスはクーザーにカップを手渡す。

 カップの中にはコーヒーが注がれており、湯気が立っている点からもアツアツのようだ。


「い、いつの間に……」

「ふふ、私は優秀な秘書だからね」


 カップを渡されたクーザーは呆気に取られているのか、無言でコーヒーを啜っている。

 あまりにも速い動作にフレアも気が付くことができなかった。

 最も、リナウス自身はロクにコーヒーを淹れることすらできないため、エシュリー達が淹れた物を拝借したに違いない。


「馳走になった」


 空になったカップを受け取りながらも、リナウスは玄関の方を指さす。


「お礼ならば彼女たちに言ってくれたまえ」

「素晴らしい味だった。ありがとう」


 そこにはエシュリーとアルートがこちらの様子を伺っていた。

 よく見ると、玄関の戸の陰からセインの尻尾がはみ出ている。

 クーザーの姿に怯えているのだろうか、彼女の尻尾の先が小さく震えていた。


「では、空いたカップは私が片づけよう」


 近づいてきたエシュリーがカップを片づけたのを確認してからクーザーは話を再開する。


「どうにかヘイクス族と対話する機会を得た。我々としては狩場を共有しても構わないが、獲物を取りつくさないようにだけお願いしたい」

「なるほど……」


 亜人達の生活様式も狩猟型から農耕型へと遷移している者達が多い中、農業の知識の不足や生活している気候や土地柄の関係で狩猟に依存せざるを得ない者達もいる。

 ヘイクス族達に農業のノウハウを教えるのには長い時間が必要だと思うし、そもそも彼らが受け入れてくれるかどうかもわからない。


「彼らが大人しく話を聞いてくれるかどうかが……」

「ほうほう、平和的に解決しようとしたいけれども、対話と見せかけてヘイクス族が襲ってくる可能性を心配している、ということかい」

「襲うってそんな……」


 遠くで話の邪魔にならないよう見ているエシュリー達も険しい顔つきをしている。


「対話にはそれぞれのトップが顔を合わせることになる。当然、建前として武器の持ち込みも禁止だろう。奇襲するには絶好の機会さ」

「断言は出来ないよね?」

「フレア、これは生存競争さ。彼らも真剣に生きている以上、命を賭して戦わねばならない。そもそも、あのヘイクス族が平和的な解決手段を考えるのか甚だ疑問なのだがね」

「うっ、それはそうかもしれないけれども」


 フレアは初めてヘイクス族と出会った時のことを思い出す。

 最初は遠くから彼らの様子を眺めていたのだが、ちらりと目が合ったその瞬間に猛然とフレアへと襲い掛かった。

 野生動物の中には目を合わせると襲い掛かって来るものがいると聞くが、彼が感じとったのはまさにそれだった。

 リナウスがいなかったらあの時どうなっていただろうか。

 眼前まで迫ってきたヘイクス族の凶暴な面構えを思い出し、フレアは小さく身震いする。


「それで、クーザーさんは話し合いが無事に行われるよう、僕達に同伴して貰いたい、ということですか?」

「お恥ずかしながら、そういうことになります」

「わかりました。協力しましょう」


 即答してから、フレアは思わずリナウスに目をやる。

 もし、リナウスが協力をしてくれなかったら?

 自分一人ではとてもヘイクス族に太刀打ちもできない、という彼の心配を余所にリナウスは肩を竦めている。


 ――私が同行しないわけがないだろうに。


 短い仕草ではあったが、長い付き合いである以上それだけで全てが伝わってしまう。


「申し訳ございませぬ」

「えっと、その対話はいつを予定されているんですか?」

「今からちょうど二週間後の午後三時を予定しております。場所はここより南東にある林の近くにある遺跡の前です。こちらが目印の地図です」


 フレアは手渡された羊皮紙を見て思わず首を傾げる。

 その地図は見る者が見ればわかるのだろうが、描かれている範囲があまりにも狭い。

 目印となるのも、林に生えている樹種がどうのこうのと走り書きがされているも、フレアもそこまで樹種に詳しい訳ではない。

 フレアが事前に下見をしようか迷っていると――。

どの亜人達も様々な悩みを抱えているようですね。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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