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第四章「再会」その4

フレアが以前助けた少女との再会。

何だかぎこちないフレアだが、彼の弱点とは一体?

「フレア。私は君の弱点を知っている」

「弱点? フレア殿に弱点があるとは初耳であるが?」

「隠しても無駄さ。君は――」

「ちょっと! 言わないでよ!」


 勘づいたフレアの制止の言葉をさらりと受け流し、リナウスは口を動かす。


「メイド服に弱い」


 言葉の意味が分からず、エシュリーはフレアを注視する。

 大方冗談なのだろうと思っていたが、彼の反応がどこかおかしかった。

 不自然に身体を震わせ、その視線はまるで訃報でも聞かされたかのように虚ろだった。


「フレア殿?」


 エシュリーが声を掛けると、フレアの反応はない。もう一度声を掛けると、ようやく返事があった。


「エシュリー。いやあ、今日はいい天気だにゃぐ――!?」

「にゃぐ?」


 どうやら舌を強引に噛んだらしく、フレアはその場でごろごろと泥遊びをする豚のように転がり、全身でもだえ苦しんでいる。


「フレア様! 大丈夫ですか!?」

「いや、僕は大丈夫、大丈夫だから」


 セインがフレアを介抱している最中、エシュリーはリナウスへと尋ねた。


「フレア殿がメイド好きとは意外であるな」

「ふふ、もはや珍獣レベルと言っても過言でない位に真面目なフレアだが、年頃の男子諸君の一人であることには変わりないさ」

「年頃の男子諸君は皆メイドに憧れを抱いているものなのであろうか?」

「全員が全員ではないけれどもね。まあ、フレアの場合は旅先で可愛らしいメイドさんを見ると、小さくガッツポーズをしているぐらいにミーハーさ」

「そうであったのか……」


 エシュリーは何か感慨深い顔をしながらもセインのメイド服を注視していると、フレアが墓の下から這い上がってくる死体のような動作で起き上がる。


「セイン、驚かせてごめん」

「いえいえ」

「ところで、セインが部屋を片付けてくれたの?」

「はい。これからフレア様専任のメイドとしてお勤めしたいと思うのですが……」


 セインの申し出を受けたその瞬間、フレアは――その場で卒倒した。


「フレア殿!?」

「フレア様!?」


 二人の女性がフレアに駆け寄るのを眺めながらも、リナウスは肩を竦める。

「専任、というワードの破壊力は卒倒するほどのパワーを秘めているのかね。まあ、フレア君も幸せなものだよ」


 リナウスは小さく呟いていると、書斎の扉の開く音が聞こえる。

 そちらに目線を向けると、アルートが扉の隙間から部屋の様子を覗いていた。


「アルート。どうしたんだい?」

「えっと、その」


 アルートは書斎の中に入ると、モジモジとしながらも、何か言いたげな様子だった。


「アルート。何かあったのであろうか?」

「あなたがアルート様ですか? 初めまして。メイドとしてやって来ましたセインと申します」


 セインが自己紹介をすると、アルートはオドオドと言葉を返す。


「ど、どうかよろしくお願い、します」

「そんなに怯えることないであろうに」


 エシュリーが呆れていると、アルートは不満げな顔をしている。


「ふふ、ますますこの屋敷も賑やかになりそうだ。ところでアルート。例の件は?」

「え、うん……」


 アルートはつっかえつっかえになりながらもリナウスに何かを告げる。


「そうかい。収穫はあった、というわけだ――ん?」


 リナウスは何かに気がつくと、猫のように機敏な動作で窓へと近づいてこう言った。


「客が来たようだね」

「うん。来ているみたい。それで、呼びに来た」

「そいつはどうも。もう少し早く告げてくれたまえ」


 リナウスは未だ倒れているフレアへと近づくと強引に揺すり起こす。


「フレア。とっとと起きたまえ。客だよ、客」

「うーん。お客さん?」

「そうさ。仕事の時間だ。メイドさんとの楽しいじゃんけん遊びはその後だ」

「いや、しないけれども」


 ようやく調子を取り戻したフレアはふらつく頭で身支度をする。


「えっと、まずは僕とリナウスが出迎えるから、エシュリーとアルート、それとセインはコーヒーを用意してくれない?」


 コーヒーというのはクロミア大陸全土に生息しているクロミアタンポポの根を焙煎させた、所謂タンポポコーヒーのことで、貴族から庶民まで親しまれている嗜好品として知られている。


「了解した。二人は私に付いてきてくれ」

「はい」


 エシュリーに続く形で客間へと向かっていく。


「さてと、私達も行くか」

「うん」


 フレアとリナウスが屋敷の外へと出ると、遠方から誰かがやって来る。

 やけに背丈が高く馬に乗っているのだな、とフレアが納得するも近づくにつれてその正体に気が付いた。


「あれは、サジルタ族?」


 サジルタ族は上半身が人で下半身が馬の胴を持つ亜人であり、メルタガルドでも名の知れた存在だった。

 あまり人前に姿を現さないはずなのだが、こうして目の前にいるとフレアも驚きを隠せない。

 そのサジルタ族の男を注視してみると、茶色の髪に混ざって白髪が紛れており、深い皺の刻まれた顔とあわせて年齢的には初老なのだろうかとフレアは察した。


「あなたがフレア財団の者で間違いないか?」


 丁寧な口調で共通言語を話すが、身長差があるためか威圧感がある。

 彼の背には長い柄の付いた斧を担いでおり、その武骨な外見からすると、重量で鎧兜ごと叩き壊す代物なのだろう。


「はい。僕が財団の代表のフレアと申します」


 その言葉を耳にして、サジルタ族の男は深々と頭を下げる。


「お初にお目にかかる。私はサジルタ族のクーザーという者だ。そちらの方は――」

「私は秘書のリナウスというものさ。ん? 私の顔に何かついているのかい?」

「い、いえ。滅相もございませぬ」


 本能でリナウスの危険性に気が付いたのだろう。

 何度も頭を下げるクーザーを見ていると、フレアは思わず同情してしまう。


「えっと、クーザーさん。遠路はるばるお疲れのところ申し訳ないのですが、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「お恥ずかしながらも、実は協力していただきたいことがある」

「協力?」

「ほう、これはこれは」


 リナウスが楽しそうに微笑んでいるのを目にして、フレアはやれやれと顎を掻く。

 弱みにつけこむというのは立派な商法の一つだ。人類が栄えていく以上、これからもこの先もずっと使われていくに違いない。ある意味伝統的方法とも呼べるだろう。

サジルタ族のクーザーは一体どんな用事でフレアの元へやって来たのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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