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第四章「再会」その3

屋敷へと戻ってきたフレア達。

さて、ゆっくりと休憩を取るのでしょうか?

 屋敷の中へ戻ったフレア達はまず身に着けていたオースミム教のローブを片付ける。


「あまり身に着けたくないものであるな」

「うん」


 フレアは身に着けていたローブを見ながらも考える。

 オースミム教では、羊の皮を被った野犬に気を付けろとの教えがある。

 しかし、その野犬はひょっとするとやむを得ない事情で嫌々皮を被っているかもしれない。

 いずれにせよ、この辛い世の中では誰もが賢く生きたいと願うのも無理はないと彼自身思っていた。



「では、私は部屋で休ませて貰おう」

「私も」

「僕は仕事の続きかな」


 フレアはエシュリー達と別れてから書斎へと向かう。

 エシュリーとアルートが住むようになってから賑やかになったのはいいものの、色々と気を使うことが増えて困っていた。

 特にエシュリーはテーブルマナーについて手厳しく、楽しい食事の時間が面倒くさくなるのが彼にとって苦痛でもあった。


「どうして、テーブルクロスで手の汚れを拭くのだろうか……」


 貴族の間ではきちんとしたマナーであるとのことで、フレアとしては何も反論が出来ないものの彼としてはどうにんも納得がいかなかった。

 どの仕事から片付けようかと思いながらも彼は扉を開け、そして――叫んだ。

 それは彼自身も驚いてしまうぐらいの大きな声だった。


「フレア殿! どうしたのであろうか?」


 ドタドタと勢いよく駆けてくるエシュリーの足音で、フレアは我に返る。


「いや、その」


 フレアが説明するよりも前に、エシュリーが彼の部屋を目の当たりにした瞬間、驚愕の表情を露わにする。


「これはどういうことであろうか!?」

「僕に聞かれても困るのだけれども」


 フレアは改めて書斎を見回す。

 不思議なことに書斎は綺麗に片付けられていた。

 書類の類いも整理されているだけでなく、フレアが愛用しているカップもきちんと磨かれた上で机に置かれている。

 ただ単に机の上のゴミを取り除いたという雑な仕事で無いことは一目瞭然で、まるで元から散らかっていなかったかのようであり、どこか寂しさすらも感じてしまう。


「リナウスの仕業かな?」

「しかし、こんな手の込んだイタズラをするものであろうか?」

「た、確かに」


 彼からすれば、リナウスのイタズラにしてはユーモアに欠けている点が気がかりだった。

 もしイタズラをするならば、びっくり箱に得体のしれない毛のようなものを詰め込んだり、目覚まし代わりにどこから呼んできたかわからない怪鳥の鳴き声を響かせたりといったリナウスならではの特徴があり、彼も引きつった笑いを返すしかなかった。


「ふふ、驚いているようだね」


 すると、待っていましたとばかりに、どこからか声がする。

 それは間違いなくリナウスのもので、フレアは肩を竦めながらも迷うことなく衣装ダンスを開ける。


「おいおい。空気を読んでくれたまえ。そこは、どこにいるんだ、と言って慌てふためくのがセオリーではないかね?」


 タンスの中に隠れていたリナウスが不満そうに愚痴を漏らす。


「だったら、いつもここに隠れないで貰いたいのだけれども」

「ふふ、隠れるのは苦手でね」

「偉そうな顔で言うようなことでもないのだけれども」


 フレアはやれやれと思いながらも、リナウスへと尋ねる。


「これって、リナウスが片付けたの?」

「まさか。私は隠れるのも苦手だが、片付けはもっと苦手さ」

「じゃあ誰が?」

「ふふ、紹介しよう。出てきたまえ」


 リナウスはパチリと指を鳴らす。

 フレアとエシュリーはとっさに身構えるも、誰も現われる気配がない。


「リナウス?」

「えっと、出てきてくれたまえ」


 リナウスが再度指を鳴らすも、やはり何も反応はない。


「リナウス殿? からかうのは止めていただきたいのであるが」

「ふふふふ、からかっているつもりは微塵も無いさ。うん、ないんだよ」


 タンスから抜け出したリナウスは書斎机の元へと足早に向かう。

 どうやらその誰かは机の下に隠れていたらしく、リナウスが手を引っ張ってフレア達の前へと引きずり出した。

 その姿を目にして、フレアは小さく声を上げた。


「君はもしかして?」

「君が助け出したあのかわい子ちゃんさ」


 リナウスに促され、褐色の肌の少女はぺこりと頭を下げる。

 白と黒を基調としたメイド服を身に着けており、ヤギの角と魚のような尾と合わせて非常に愛くるしい姿をしていた。


「彼女はカプリアノ族と呼ばれる亜人らしいね。深い山奥に生息しているため滅多にお目に掛かる機会がないそうだよ」

「セインと申します。あの時は助けていただき、どうお礼を言えばいいのでしょうか……」


 モジモジと話している点から察するに、セインの緊張感がヒシヒシと伝わってくる。

 フレアもまた色々と積もる話をしたかったが、緊張のあまり何と声を掛けていいかわからず、とりあえずは頭に浮かんだことをとっさに聞いてみた。


「えっと、君はモーリーさんの所にいたけれども……」

「フレアにどうしても会いたいらしくてね。わざわざ、ここまで来てくれたのだよ」

「あ、うん。そうだったのか」


 フレアの歯切れの悪い発言に、エシュリーは違和感を抱く。

 肘で軽く小突いてから、彼女は呆れた口調で窘める。


「どうしたのだ? いつもの貴殿らしくないぞ」

「い、いやあ。そんなことはないって」


 フレアは平静を保とうとしているが、その顔は明らかに不自然だった。

 その様子を見て、リナウスはぼそりとこう告げた。

何とフレアがずっと前に助けた亜人の女の子と再会することに。

ちなみにセインは二章にて登場しています。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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