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第四章「再会」その1

ついに第四章が始まります。

さて、どんな再会が待ち受けているのでしょうか?

 エシュリーがフレア財団の下で勤めるようになってから三ヶ月ほどが経過した。

 真面目かつ効率的に仕事をこなし、すぐさま即戦力として大いに貢献してくれる――というフレアの目論見とは裏腹に、エシュリーは思った以上の活躍はしてくれなかった。

 それというのも、エシュリーはどこかおっちょこちょいな面があり、複数の仕事を頼むとどれか一つはすっぽりと忘れてしまい何も手を付けていなかったというのがままあった。

 むしろ、アルートの方が仕事は遅いものの的確かつ慎重に仕事をこなしてくれるため、フレアとしてはそちらの方がありがたかった。


『エシュリーについてはさ、暫く様子を見た上で今後の成長に期待するとしようかね』


 というリナウスのどこか複雑な感想を耳にして以降、フレアとしてもそれなりに指導したいとは思っている。

 だが、フレアが何よりも気にしていたのが、今の今まで自分と同い年くらいの女性と会話した経験が少ないことだった。

 特に厄介なのが、エシュリーの方が二、三年上である上、いつ如何なる時でもフレアに対して敬語を使ってくるので、尚更やりとりが難しかった。


『フレア、エシュリーは君の直属の部下だ。というわけで、教育は君が行うのだよ。今のうちに人を顎で使うことに慣れておいた方がいいさ』


 にやついた顔でそんなことを言うリナウスを思い出しつつも、フレアは右手に持った紙袋を持ち直す。


「フレア殿?」

「何?」

「いや、何やらぼんやりとしていたのであったが、風邪であろうか?」

「ちょっと考え事をしていただけだよ」


 フレアは周囲にいる大勢の群衆を眺めながらも、ここが改めてランメイア王国の首都ドゥバスにいた。

 大陸で最も人口密度の大きな街であり、王城付近にあるメインストリートの町並みは実に華やかなもので、まさに王国の栄華を象徴している。

 だがその一方、町外れにあるスラム街の治安は劣悪なもので路地裏を覗くと死体が転がっていることも珍しくなく、その異様な光景にメインストリートから排斥された異物を押し込めたかのような印象を彼は抱いていた。


「王都というのはどうにも疲れるものであるな」

「まあ、僕も人混みが苦手だよ。色々買いそろえたい物があるからさ」


 フレアは背中のバックパックにちらりと目線を向ける。

 その中には書類を書くのに必要なインクの替えや質の良い紙の他に日用雑貨などがぎっちりと詰められている。


「はてと、疾くアルートを迎えに行かねばな」


 エシュリーがフードを被り直しているのを目にして、フレアもまたそれを真似るようにフードを目深に被る。

 フレア財団に敵意を持つ者がいるため、フレア達は王都へ赴く際にはオースミム教のローブを身に着けて顔を隠していた。

 幸いにも、街中にてフードで顔を隠しても咎められることはないが、怪しい動きをしていると巡回している衛兵に目を付けられるため、フレアは常に周囲を警戒していた。


「うん」


 人混みに流されないように、フレア達は街道を進んでいく。

 様々な人の声が響き、楽器を奏でるかのごとく足音すらも多種多様に鳴り渡る。

 賑やかではあるが、誰もが笑顔という訳でもなかった。

 まるで日頃から抱いている不安を打ち消そうとしているかのような、そんな後ろめたさがあるからこそ、この物悲しい喧騒があるのだろうか。

 フレアはそんな感想を抱きながらも歩調を速め街の中心部へと向かう。

 中心部に近づくにつれ、図書館に博物館、植物園に劇場など、見て回るだけでも一日があっという間に過ぎてしまうような施設が集っている。

 他にも、かつて亜人達が闊歩していた時代に建てられた祭壇が見られるも、観光名所だったり、はたまた公園の一部となっているのが現状だ。

 そして、これらの中で一際異彩を放つ建物がオースミム教の本拠地の大聖堂であり、本日は祭日であるため礼拝に来た教徒達で溢れていた。

 大聖堂の敷地内にある礼拝堂にまでならば日中は誰でも自由に入ることができるため、遠方から来たと思しき巡礼者達の姿がチラホラと見られる。

 彼らは感謝の表情を浮かべながらも白い大理石の通路を進んでいくも、一つ一つ踏みしめているかのようにその足取りは慎重で重々しい。

 その様子を目にして、フレアはぽつりと呟いた。


「本来ならば、僕はあまりこの付近には近寄らない方がいいのだけれども」

「異端狩りの中には当然オースミム教の信者がいるであろうからな」

「フレア財団を目の敵にしている人もいて大変だよ」


 今のところフレアの人相はオースミム教に広くは知れ渡っていないものの、その反面リナウスの情報だけはやたらに知れ渡っている。

 噂によると暗黒の魔王と呼ばれているらしく、千の軍勢をも一蹴するとの冗談めいた話まで飛び交っていた。


「まあ、それでも逃げずに戦うことにしたよ」

「ふっ、貴殿は勇敢なのであるな」


 二人が大聖堂の出入り口付近で待ち構えるも、中々アルートが戻ってこない。

 場所が場所であるため、二人で会話をして暇つぶしする訳にもいかず、黙ったままぼんやりと立ち尽くす他なかった。

 フレアは内心焦りを覚えるも、周囲に人が多すぎるあまり不審な行動は出来ない。

 少しばかり伸びをしようとしたその時、か細い声が彼の耳に届く。


「アルート?」


 アルートもまたオースミム教のローブを身に着け、申し訳なさそうに頭を下げていた。


「ごめんなさい……」


 その悲しくなりそうなくらいにしょんぼりとした声を聞いていると、仕方ないなと許してあげたくなりそうだ。

 だが、アルートの後ろにいる二人の男を見ていると、どうにも詳しい事情を聞かざるを得ないらしい。

はて、アルートが何かをしでかしてしまったのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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