第三章「起業」その12
強引にウサルサ族を説得し、問題は解決したかと思いきやリナウスが何かを探しに行くようです。
果たして、その何かとは?
足場は泥でぬかるんでおり、フレアがようやく追いついたかと思うと、リナウスは一番大きな沼の水面の上を歩いていた。
異法神だからこそ水上を歩くことなど造作もないことなのだろうか。
彼がそう思っていると、リナウスが沼の中央に向かって必死に何かを唱え出す。
何も起きないと思いきや、突如リナウスの眼前に石像が現われた。
「あれは休眠中の異法神?」
その石像は音もなく宙を漂っており、どこか神秘的な印象を放っていた。
リナウスはその石像に何かを話しかけ続けるも、暫くすると首を横に振る。
反応がなかったのだろうか、リナウスが最後に何かを唱えると石像は何事もなかったかのように姿を消した。
「いやあ、悪かったね」
フレアの元へと戻ってきたリナウスが開口一番にそう口にした。
「あの異法神は?」
「アクアノ族の崇めていた異法神だね。名前はブレルモといったか。本来ならば私の代わりにアクアノ族達を守ってくれないと困るのだがね」
「話は聞けなかったんだね」
「いや、話は出来たさ。ただ、どうやら記憶が曖昧のようで、力も殆ど残っていないようだ」
「そうなんだ……」
フレアが落胆していると、リナウスもまた残念そうに肩を竦める。
「どいつもこいつもしっかりして貰いたいものさ。話が出来るだけマシな方だし、中には熟睡しているのもいるし――」
そこまで口にして、リナウスは何かを思いついたらしく、顎に手を当てて考えこんでいる。
「どうしたの?」
「もしかして、中には寝たふりをしている奴がいるかもしれない」
「何で?」
「さあね。異法神同士簡単には仲良くなってくれないだけかもしれないね」
フレアは脳内でリナウスとアルートの姿を思い描く。
個性が強すぎるせいか掴み所がなく、本心では何を考えているのかすらもわからない。
そう簡単に話が通じないのも無理からぬものだと、彼は自然に納得してしまう。
「グヌムがアクアノ族を襲うように命じたのも謎だね?」
「うーん。その辺りはさっぱりさ。ただ……」
「ただ?」
「裏切り者であるアクアノ族を罰するのは当然のこと、とグヌムの奴は言っていたね」
「どういう意味?」
「さあ? ともかくは調査を続ける他ないようだ」
「何だかモヤモヤするね」
「ふふ、私もだよ。フレア、悪いがロバート君のところへ向かってくれたまえ」
「え、リナウスは?」
「私かい? メノメノ達に技を伝授しにいくのさ」
「あ、本当のことだったんだね。じゃあ、先に戻っているよ」
「ふふ、気をつけて帰りたまえ」
リナウスは走って帰ってくるから何ら問題はない。
ロバート君の元へと歩きながらもフレアは考える。
これから一体何が起ころうとしているのか。
どんなに考えたところで判断する材料が余りにも少なく、いくら仮説を上げようとも実証のしようがない。
いつか、答えの見つかる日が来るのだろうか。
ロバート君の背中の上でぼんやりと空を眺めながらもそんなことを考えていた。
彼の目線の先には太陽があり、それが地平線へと吸い込まれるように沈んでいる。
光が大地を黄金色に染めているも、やがて夜の帳が一面を墨色に塗りつぶしてしまうのだろうと思うと、彼はどこか虚しい気分に陥ってしまう。
屋敷に戻ったらエシュリーには簡単に報告書をまとめて貰ってから今日の仕事を終わりにしよう。
フレアがそう考えていると、エシュリーもまた彼と同じようにどこまでも続く黄金色の大地を眺め、その横ではアルートがエシュリーにもたれかかる形でうつらうつらと船を漕いでいる。
彼女もまたこの夕日に思いを馳せているのだろうか。
彼が小さく苦笑していると、ロバート君の真下で何か高速で動く影を見つける。
それは言わずと知れたリナウスの姿であり、木々に飛び乗り、谷をも助走無しで飛び越えている。
彼が手を振ると、リナウスも手を振り返してくれる。
明日がどんな一日なるか分からないが、リナウスとエシュリー達がいる以上、きっと乗り越えられるだろう。
彼がそう確信していると、ロバート君が降下を始める。
どうやらそろそろ屋敷に着くようだ。
今日の夕飯のメニューは何にしようかと考えながらも、彼は屋敷へと降り立つ準備をすることにした――。
第三章 完
これにて第三章は完となります。
問題が解決したかと思いきや、また新たな謎が増えてしまいました。
これから先一体どんな困難がフレア達を待ち受けているのでしょうか?
面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。
それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。




