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第三章「起業」その10

フレア達はアクアノ族を襲ったウサルサ族の族長に会いに、住処の奥へと辿り着く。

さてさてどんな展開が待ち受けているのでしょうか。

 扉には様々な仕事がある。

 その一つは邪魔者を内部へと入れないようといったものだ。

 フレア達の前にある扉は岩をくりぬいたのか粗雑な出来のものであったが、簡単には開きそうにないのは一目瞭然だった。


「む、どうするのであろうか?」

「開けるけれども?」


 そう、リナウスの前ではどんな扉だろうが見掛け倒しにしか過ぎない。

 リナウスはその細い脚で扉に叩き込むと、豪快な音を立てて扉がふっ飛び、鼓膜が破れんばかりの音が空間をやかましく反響し合う。

 扉の先には玉座らしき椅子に座ったウサルサ族とそれを守る護衛兵がおり、発光する苔のおかげで玉座の間は洞窟内とは思えないほど明るかった。


「はいはい、お邪魔するよ」


 こんなに厚かましい押し込み強盗はどこにもいないだろう。

 フレアはそう思っていると、ウサルサ族達が当然のごとく抗議の声を上げ始めた。


「やあ、どうも」


 リナウスが共通言語で語りかけると、椅子に座ったウサルサ族がたどたどしい口調でこう言った。


「なんだ、貴様らは! 黒鉄と凶刃の神であるグムヌ様に仇成す者か!」

「えっと、先日君達が襲ったアクアノ族達の件でちょっと聞きたいことがあるんだ」

「あの青い奴らの仲間か!? 族長であるわしが直々に成敗してくれよう!」


 会話するつもりは毛頭無いらしく、族長は椅子から立ち上がりつつも口早に何かを唱える。

 どこかで聞き覚えのある言語だ、とフレアが思った瞬間、全身が石のように強張った。


「これは神魂術?」

「ご名答。神の言葉を知ることが、神魂術を扱う第一歩さ」

「いや、危ないんじゃ――」


 その瞬間、リナウスの足下の地面が盛り上がったかと思うと、土中から何かが飛びかかってきた。


「これは――!」


 突如現われたのは、黒光りする金属片だった。

 その先端は室内の光を反射して煌めいており、それらが生き物のように襲ってくる。

 アルートも身を震わせて怯えており、今すぐにでもその場から逃げ出したいが、ぐっと我慢をしているようだ。

 いくらリナウスでも危ないのじゃあないだろうかとフレアもまた心配するが、リナウスは彼が思っている以上に強かった。


「ふふ、今時こんな手品じゃホームパーティーでも盛り上がらないさ」


 リナウスは笑いながら両手を動かす。その動きは精密な機械そのものだ。

 フレアが眼を見開くと、リナウスは瞬く間に空中の金属の刃を掴み、すべて地面へと叩き落していた。


「何だと!?」

「もう少し鍛錬を積みたまえ。せめて観客の拍手を得られるくらいには」


 リナウスは大袈裟に肩を竦めている。


「く、くそ!」


 族長はその場からの逃走を図ろうとするも、その前にリナウスが何かを唱える。

 その言葉一つ一つに怨嗟の叫びが濃縮され、強引に鼓膜を通り抜け内耳の奥にまで粘着性の液体を注ぎ込まれたかのような不快感が脳を襲い、フレアが目眩を感じていると族長の全身に何かが絡みついているのが目に入った。


「え?」


 目をこらしてみるとそれは髪の毛のような細い糸であり、糸の先にはリナウスの右手の五指に結びついている。

 族長がその糸から逃れようともがくも、その拘束は解けそうにない。

 惨めに抗う姿は、神に挑むということが如何に滑稽であるかを表しているかのようで、まさに道化そのものだ。


「おいおい、逃れられるわけ無いだろう? 生きとし生ける者が生まれてから死ぬまで向き合わなくちゃあならないものだからね」


 リナウスが糸を引っ張り、そしてたぐり寄せるその姿は、巣に捕らえられた蝶を捕食する蜘蛛のようで、その指先と舌舐めずりをする顔つきがあまりにも蠱惑的であり、フレアはとっさに目を逸らしてしまう。


「フレア殿?」

「え?」


 フレアがエシュリーに呼ばれてそちらを振り向くと、そこにはサーベルを喉に突きつけて既に護衛のウサルサ族の武装解除を済ませている彼女の姿があった。


「しっかりしてもらいたいものであるぞ」

「ご、ごめん」


 リナウスの術にすっかり魅入ってしまったとは言えず、フレアは何度も頭を下げる。


「あっさりと鎮圧出来たようだね」


 隅っこで丸くなっているアルートに目をやりつつ、リナウスは改めて族長へ向き直った。


「はいはい、とっとと起きてくれたまえ」


 リナウスが族長の毛むくじゃらな頬を引っ張って強引に起こすと、思ったよりもつぶらな眼でにらみ返す。


「お、おのれ……」

「ちょいと質問があってさ。答えてくれると助かるのだがね」

「誰が答えるものか!」

「おっと、説明が足らなかったようだね。助かる、というのは――お前の命のことさ」


 リナウスはそう宣告してから、神魂術を唱えようとしているのか口が動いている。

 その言葉を全て聞き終えた瞬間紛れもない死が訪れる――。

 それを本能で悟ったのか、族長は震えた声でこう尋ねる。


「な、な、な、何を答えればいいのだ?」

「ふふ、素直が一番さ。まずは何故アクアノ族を襲ったのか教えてくれたまえ」

「そ、それはグムヌ様のご命令だ」

「君達の崇めている神かい。どうして自分自身で戦わないのだか」

「まだ、グムヌ様は力が回復されていないのだ」

「ふうん。随分と人使いの荒いもんだね。じゃあ、とっとと会わせてくれたまえ」

「そ、それは――」

「出来ない、という答えはナシさ」

「こっちだ……」


 怒りの感情をあらわにすることも出来ず、族長は渋々といった様子で部屋の奥へと皆を案内する。

 部屋を塞いでいた木箱をのけると、隠し通路らしきものが見える。

 人が一人分入られる程の狭さで、フレアは頭をぶつけないようかがんだ状態で慎重に進んでいく。


「この奥だ」

「もう少し面白みのある隠し方を期待していたんだがね」


 リナウスが先導する形で通路を進んでいくと、最奥に祭壇らしきものがあった。

リナウスの圧倒的な力で何とかなったようです。

さて、次回はグムヌとのご対面となるようですね。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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