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第三章「起業」その9

ウサルサ族の住処に入り込んだフレア達。

はてさて、彼らを待ち構えているのは――。

 湿った土の臭いが充満しており、やはりというべきか中は真っ暗で何も見えない。

 フレアが一旦引き返そうかと思っていると、エシュリーが何やら唱え始める。

 すると、彼女の周囲に煌々とした光を放つ鳥――に似たものが現われた。


「えっと、エシュリーそれって――?」

「カミツキだからこそ、私もアルートの力の一部が使えるのである」


 人間が神魂術を使っているのを初めて目にして、フレアは驚きを隠せなかった。

 それよりも彼が驚いたのが、エシュリーのあまりのセンスの無さだった。

 エシュリーの作り出した鳥はまるで子どもの落書きに命を吹き込んだかのようで、ボロボロな羽でかろうじて空を飛ぶ姿は滑稽すぎて笑えない代物だった。


「フレア殿は試みたことはないのであろうか?」

「いや、そもそもリナウスがどんな神権を持っているのかすらわからないんだ」

「そうであったか。リナウス殿が神魂術を使っているのを見ているのならば、どんな神権を持っているのか察しが付くのではなかろうか?」

「察し、か……」


 フレアは初めてリナウスが神魂術を使っていた時のことを思い出す。

 あの蟲が見せた光景は一体何を意味していたのだろうか……。

 その後もリナウスの神魂術を見る機会はあったものの、やはりどういうものかが彼にはまるで理解できなかった。


「全然わからないよ」

「そうであるか。同じ異法神であるアルートならば何かわかるのではないだろうか?」

「え?」


 アルートはビクリと身を竦めると、先行しているリナウスの様子を気に掛けながらもゆっくりと喋り出す。


「その、私も神魂術を見ていないからわからないけど、あの方は本当に恐ろしい力を、持っていそう――」

「恐ろしい力?」

「なんとなくわかるのは、人間の存在そのものに怒りに近い何かを抱いているような――」


 アルートの言葉を聞き、フレアはごくりと息を飲む。

 言われてみれば、確かに的を射ている。

 だが、そうなるとフレアとして必然的に次の疑問が生まれる。

 だったら、どうして僕の味方をしてくれるのだろう――。


「おいおい、何をぼんやりとしているのだい? あんまり私ばかりに働かせると、強引に有給を取ってどこかに遊びに行ってしまうのだがね」


 ぬっと現われたリナウスの姿に、フレアはぎょっと驚く。


「ご、ごめん。有給が欲しかったなんて」

「フレア殿。恐らくそれは冗談かと思うのであるが?」

「まあいいさ。連中はこの奥にいる」


 リナウスは親指で通路の先を示す。


「なるほど。作戦は如何にすべきであろうか?」

「作戦? 真正面からこんにちは、をするだけさ」

「連中が襲いかかってきたらどうするのであろうか?」

「襲いかかってくる前にぶっ倒す。以上さ」


 リナウスはケラケラと笑いながらも、悠然と歩いていく。

 その様子を見て、エシュリーは心配そうにフレアへ尋ねた。


「いつもあのような感じであろうか?」

「うん。まあ、退屈はしないよ」


 暗闇をものともしないリナウスとアルートを先導にして進む。

 フレアはエシュリーの作り出した鳥の放つ光を頼りに神々の後を追いかける。

 やがて通路の先にぼんやりとだが灯りが見える。

 どうやら部屋のような空洞があり、淡い光を放つ苔が光源となっているようだった。

 その灯りに照らされ、通路にいる見張りの姿をフレアは捉えた。

 全身毛むくじゃらで顔はアナグマにそっくりな印象があるが、二本足で立っており、手には槍のような物を携えていた。

 またその指先には土砂も簡単に掘れそうな鋭利な爪が伸びており、背丈はフレアよりも低いが、その全身は光沢感のある鎧に包まれていた。


「あれが件のウサルサ族であるか。妙な素材の鎧であるな」

「恐らくは虫の外骨格を剥いだ物を加工しているようだね」

「む、虫であるか?」


 エシュリーは血相を変えながらも問い返す。


「そうさ。クロミア大陸には大きなムカデや甲虫がいるからね」

「よ、よしてくれぬか?」


 引きつったエシュリーの顔を見て、リナウスは肩を竦める。


「おっと、気が利かなくてすまないね。はて、まずはあいつをどうにかしないとね」

「うむ。アルート、何か策はあるか?」

「暴力は苦手――」

「やれやれ、立派な平和主義者のようだね。フレア、君の出番じゃないか?」

「わかっているよ」


 フレアは足下に転がっている小石を手に取ると、それをウサルサ族の足下へ放った。

 ウサルサ族は転がってきた石に気づくと、しゃがみ込んで拾おうとしたその瞬間だった。

 彼は静かかつ大胆に、それこそ獲物を狙うフクロウのごとく急襲をしかけ、その背後へ回り込んだ。

 ウサルサ族がフレアに気がつくも、既に時遅し――。

 フレアの腕が亜人の首元を力強く締め上げていた。

 幸いなことに、亜人と人間の身体の構造に大きな違いはないため、力加減に気をつけながらも頸動脈を圧迫していく。

 ウサルサ族は手足をばたつかせて抵抗するも、気を失ってしまったらしく口から白い泡を吐き出しながらもその場へと倒れ伏せた。


「ふふ、相変わらず見事な手際だよ」


 リナウスの静かな拍手を浴びながらも、フレアは自身の服についた埃を払い落す。


「フ、フレア殿?」

「何?」

「今の動きは何であろうか?」


 エシュリーから尊敬の眼差しを向けられ、フレアは少し照れながら答える。


「これ? リナウスに鍛えられたから、このぐらいはどうってことないよ」

「板に付き過ぎではなかろうか? そもそもリナウス殿がやってもよかったのでは?」

「それはちょいと難しい注文だね。万が一力の加減を間違えると、首をもいでしまいそうでね。お気に入りの服を血や臓物で汚したくはないのさ」

「そ、それは私も見たくはないぞ。まあよい。先へ進もう」


 見張りを通路の方にどかしてから、フレア達は空洞の奥へと進むが他には誰もおらず、土嚢や木製の柵らしきものが置かれていた。


「正面玄関、といったところかね。ここで迎撃をするにしても、ちょいと人数不足じゃあないかい?」

「メノメノ達が痛めつけたから、皆療養中なんじゃないかな?」

「それが正解かもね。まあ、無駄に身体を動かさなくて済むのは結構なことさ」


 フレアが周囲を見渡すと、三方向に道が分かれていた。


「うーん。どっちに向かう?」

「なるべくならば、族長とやらと話がしたいところだね」

「三手に別れた方がいいであろうか?」


 悩んでいるとアルートが何かを唱え出す。

 すると、掌ほどの赤々とした光が右手側の通路を照らした。


「えっと、あっち」

「おいおい。光っただけで正解の道がわかりました! とでも言うのかね? 納得のいく説明をしてくれたまえ」

「灯りの多くある場所を示しているの」

「しっかし、それで確信はできない気がするのだがね」


 アルートが返答に困っているので、助け船を出す形でフレアがフォローする。


「ないよりはマシじゃない? アルートが頑張ってくれるのだから無碍にはできないよ」

「そうかい。それじゃあ、せいぜい期待はしておくさ」


 皆は右の通路を進むと、その先にもやはり見張りのウサルサ族達がいたが、フレアは彼らを苦もなく気絶させる。

 苦悶の表情で気絶する亜人を見て、フレアは自身が強くなったのだと考えるも、リナウスの圧倒的な力を見ていると、自身がまだ非力であることを実感してしまう。

 やがて苦労することもなく最奥まで進むと、重厚な扉が彼らを出迎えた。


順序良く進んでいったところで、続きはまた次回となります。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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