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第三章「起業」その7

イーストフロンティアへと辿り着いたフレア達ご一向。

さて、エシュリーが驚いた理由とは――。

 エシュリーは何度も周辺をキョロキョロと見回していた。

 その忙しなく動く様子は何もかもが信じられないと語っているようだ。


「こ、ここで間違いなのであろうか?」

「うん」


 エシュリーが指さしている先を眺めながらもフレアは頷く。


「噂に聞く新たな郷土、で間違いないのであろうな?」

「いや、それは昔の話らしいよ」


 フレアも最初にこの場所に来て、エシュリーと同じ感想を抱いた。

 荒れ果てた土地に立ち枯れした木々、家々が並んでいたと思われる場所には焼け落ちた木材と黒ずんだ調理器具が取り残されていた。

 放置された畑には雑草が背比べでもするかのように伸びており、その合間をバッタ達が素知らぬ顔で飛び跳ね回っている。


「これは亜人と人間との領地争いの結果さ」

「な……」


 絶句するエシュリーに対し、リナウスはさらに言葉を続ける。


「というのは冗談さ」

「じょ、冗談であったか。そういうのはよしてくれぬか?」


 エシュリーが安堵のため息をこぼす最中、リナウスはクスクスと笑う。


「まあ、本当はランメイア王国開拓団内部での派閥争いが原因だがね」

「そうか、そうか。っと、派閥争いとな!?」

「うん。王国に物資の水増し請求が発覚して、誰に責任を押し付けるかで相当揉めたんだって」

「揉めに揉めて、こんな酷い有様になるのであろうか?」

「ふふ、そういうことだね。いつの時代、どの世界においても人間は争い事が大好きだということさ」

「むう、異法神が言うとまた説得力が違うということであるな。イーストフロンティアの開拓団は解散してしまったのであろうか?」


 噂と現実のギャップに驚いているのか、エシュリーが狼狽しているのが見て取れる。

 その手は自然とアルートの手を握りしめており、アルートも警戒するかのように辺りを見回していた。


「今はここから南の方にあるらしいよ。ちょいと砂が多くて、作物があまり育たないって話さ」

「さぞ難儀しているのであろうな」


 エシュリーはさぞ困惑しているかの、その言葉もどこか重々しい。


「それじゃあ、亜人達が住んでいる場所まで向かおう」

「うむ。ちなみにどんな亜人なのであろうか?」

「えっと、アクアノ族と呼ばれる種族で、とても神経質なんだ」

「平和が好きな良い連中さ。ただ、人見知りする点にも気をつけてくれたまえ」

「う、うむ」


 エシュリーとアルートが頷いたのを確認すると、フレアとリナウスが先導する形で先へと進む。

 道中木製の橋を渡っていくと、その途中でアルートがピタリと足を止めた。


「どうしたのであろうか?」


 エシュリーがアルートの指さす方を見ると、そこに看板があることに気が付く。


「ん、この先危険とな?」


 共通言語で書かれているも、ミミズがのたくったような文字であるため大変読みにくい。


「アクアノ族が立てた看板であろうか。どう危険なのだ?」

「そのうちわかるよ」


 エシュリーは訳もわからず首を傾げていると、前方に湿地帯が広がっていることに気がつく。

 至る所に生えたイネ科の植物が風に揺れる中、あちらこちらに沼があるのも見て取れる。

 彼女が濁った沼を眺めていると、湿地帯の植物の枝や葉が不自然に山積みとなっているのを見つけ、また櫓らしき物も建てられている所からあれがアクアノ族の住みかだと推測した。


「沼の中にアクアノ族がいるのであろうか?」

「うん。エシュリーとアルートはここで待っていて。それと、不用意に動かない方がいいよ」

「む、動くな、と?」

「ふふ、そのままの意味さ。君が賢明ならば素直に従うべきだがね」


 エシュリーは不安に思いながらも、フレアとリナウスが沼へと近づくのを見ていると、近くで何かのすすり泣く声が聞こえた。

 彼女が声の方に反射的にそちらの方へ振り向くと、五、六歩ほど歩いた先に何かが蹲っていた。

 薄布を身に纏っており、その肌の色は空のように青く、背丈と同じくらい伸びた髪は水を弾いているらしくヌラヌラとした光を放っている。

 なるほどこれがアクアノ族なのかと彼女が思っていると、アルートが服の袖を掴んで押しとどめようとしてくる。


「心配はしなくても大丈夫だ」


エシュリーはアルートにやんわりと宥めた上で声の主へと近づく。


「もし、何かあったのであろうか?」


 彼女が声を掛けた、その瞬間だった。


「む?」


 不意に何かが足下をかすめたかと思いきや、次から次へと何かがエシュリーめがけて飛んでくる。


「こ、これは?」


 いつの間にやら蹲っていたアクアノ族の姿は消えており、その代わりに複数のアクアノ族達がエシュリーに近づいていた。

 どうやら草陰に身を潜めていたらしく、紐の付いた革製の道具を手にしている。

 エシュリーは足下に転がっている石と見比べて、それが簡素な投石器であることに気がついた。

 取り囲んでいるアクアノ族達は成人らしく、背丈は高いものの華奢であるためか一対一では負ける気はしない。

 エシュリーは思わず腰に差したサーベルの柄に手が伸びるが、何とか押しとどまり、ちらりとアルートに目線を送る。

 どうかフレア達を呼んで貰えないかと思っていたが、残念ながらアルートはトンボを追いかけるのに夢中になっており、エシュリーの危機を察知すらしていない。

 彼女は静かな怒りを抱えたままアクアノ族達と対峙していると――。

一瞬即発の空気の中どうなってしまうのか、というところで続きはまた次回となります。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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