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第三章「起業」その6

亜人達からの相談の手紙を確認していたフレアは気になる文面を発見する。

果たして、そこに書かれていたものとは?

 フレアが文面をもう一度読み返しているうちに、彼の目つきが段々と鋭くなる。

 普段は穏やかな彼であるものの、急を要する事態となると話は別だった。


「これは一体?」


 リナウスが翻訳してくれた文面から目を離して元の手紙を見比べてみると、ミミズがのたくったかのような文字が書かれていた。


「リナウス。この手紙に書いてあることって本当?」

「ああ。本当みたいだね。すぐにでも助けに行くかい?」

「勿論行くよ」

「む、出撃であろうか?」


 やることが無く様子を伺っていたエシュリーがどこか嬉しそうに声を上げる。

それに対して、やはりというべきかアルートはどこか嫌そうな顔をしていた。


「付いてきてくれる?」

「無論である」


 エシュリーは張り切りながらも、その左手はしっかりとアルートの手を握っており、引っ張ってでも連れて行くつもりなのだという気概が表われていた。


「それじゃあ、出発だね」

「ところで、場所はどこであろうか?」

「えっと、イーストフロンティア付近と言えばいいかな」

「イーストフロンティアであろうか? ここから普通の馬でも二日は掛かるぞ」


 文字通りクロミア大陸の東にある開拓地であり、農業に適した肥沃な大地が広がっているところから、『新たな郷土』とも呼ばれていた時代があった。


「まあ、便利な移動手段があるからその辺りは大丈夫さ」

「本当であろうか?」

「まあ、私を信じてくれたまえ。詳しくは表で話そう」


 リナウスはコート掛けにぶら下げていた自身のバッグを手に取りながらも、屋敷の外へ出るよう促す。

 一同が外へ出ると、リナウスはバッグから角笛を取り出した。


「何をするのであろうか?」

「いやいや、笛を吹く以外の方法と言ったらあれか? 鈍器にでもしろと言うのかい?」


 リナウスは呆れつつも、大空に向かって角笛を吹いた。

 低い音が鳴り渡る中、エシュリーは何が起こるのかと心待ちにしているのか、何度も空を仰いでいた。

 しばらくすると、空から何か素早く動く影のような物が見えたかと思うと、フレア達の元へと降り立ってくる。

 近づくにつれてその大きさに圧倒されたのか、彼女は酸欠の魚のように口をパクパクと開閉させていた。

 空からやって来たものが地面に着地したその瞬間、その風圧により彼女は大きく体勢を崩した。


「大丈夫?」

「大丈夫であるが、あれは――」


 フレアが答えようとする前に、リナウスがその生物に声を掛ける。


「ロバート君。悪いね」

「ろ、ろばーとくん?」


 エシュリーは素っ頓狂な声を上げているのも無理はない。

 何せ、彼女の目の前にいるのは巨大な生物がいたからだ。

 は虫類を彷彿とさせる姿をしているが、その背には墨色の翼が生やしており、力強く輝く瞳には知性が宿っていることが伺える。


「りゅ、竜ではないか!? まさか、実在していたとは……」


 本来ならば誰もが恐れる存在――のはずだ。

 だのに、リナウスはそれこそ馬車馬のごとくこき使っており、ロバート君もまたリナウスを目の前にすると借りてきた猫のように大人しくなる。


「ふふ、ロバート君と仲良くなるにはちょいと手間が掛かったがね」


 リナウスが朗らかな笑いを浮かべる一方で、アルートは恐怖で腰を抜かしている。


「仲良く、ね」


 フレアはリナウスとロバート君が初めて出会った時のことを思い出す。

 亜人達からの頼みで、フレア達は十数年に一度目覚めて暴れ回る竜の退治へと赴いた。

 密林の秘境の奥深くをさまよいながらも、出会った竜の威圧感に彼は圧倒されるも、リナウスはまるで恐れることはなかった。

 それどころか、こんな見つけにくいところで眠るなと竜に逆ギレし、しまいには平手打ちを食らわせる始末であった。

 神には体格や質量の差など物ともしないようで、その一撃で倒れ伏せる竜を目にして彼は密林の中で茫然と佇んでいたことを今でも覚えている。

 リナウスがロバート君に何かを告げると、フレア達に対して背中を向ける。


「よ、よもや竜に乗れ、というのであろうか?」

「こ、怖いよ」

「大丈夫さ。竜から転落死する死亡率は極めて低いそうだよ」

「そういう問題ではないのであるが」


 エシュリーは呆れながらも仕方ないといった顔つきでロバート君の背へとよじ登る。

 アルートは置いて行かれるのが嫌なのか、渋々とした様子でエシュリーの後を追いかけている。


「はて、私達も行こうか」

「うん」


 フレアとリナウスもまたロバート君の背へとよじ登る。


「ここなら落ちないよ」

「本当であるか?」

「鱗と鱗の間に隙間があるだろ? そこをしっかり掴んでいれば余裕さ」

「結構揺れるから気をつけて」

「嫌な予感しかしないのであるが」


 フレア達の格好を真似るようにエシュリーとアルートがしがみつくと、ロバート君は翼を大きく広げると、その巨体は悠々と蒼い大空へと向かって舞い上がる。

 当然慣れていないとその反動に全身が揺さぶられ、内蔵がひっくり返るような衝撃に驚かされる。

 やはりというべきか、エシュリーは甲高い悲鳴を上げ、ようやくロバート君が高度を維持できると、彼女は荒い息を吐きながらも虚ろな目をしていた。


「だ、大丈夫?」

「な、なんのこれしき……」


 エシュリーの気丈な様子にフレアも感心する他なかった。

 一方アルートはケロリとしており、彼と同じようにエシュリーのことを気遣っている。

 異法神である以上、人間とは身体の構造が根本からして何もかもが違う、というリナウスの話を彼は思い出していた。


「はて、目的地に到着するまで時間が掛かるから、それまで辛抱したまえ。辛いならば、途中で降りてもいいのだがね」

「だ、大丈夫である」


 エシュリーは返事をするも、その声には力が籠もっていない。

 この辛抱強さはどこから来ているのだろうか、とフレアは不思議にすら思えてきた。


「しっかし、整理する書類が多くて困るものだよ」


 困ると口にしてはいるが、リナウスはどこか楽しそうだ。

 持ってきた書類を風で飛ばないよう押さえつけながらも、奇妙に読み進めている。

 その長い黒髪が風に吹かれ、身につけている衣服が靡くのを見ていると、どこか危なっかしくて仕方ない。


「こんな場所で仕事をしなくてもいいんじゃあない?」

「ふふ、私は優秀な秘書だからね。どこであろうと仕事をこなす自信はあるさ」


 リナウスのその言葉を聞いているだけでも、フレアは複雑な気分に陥る。

 プライドの高いリナウスが秘書の仕事をやってくれるとは思っておらず、その仕事ぶりについても文句のいいようがないくらいに完璧であり、むしろリナウスがいなかったらフレア財団の運営自体が不可能とも言えた。

 

「なんだか悪いね」

「私は疲れないからね。七千二百時間フルタイムで働いても問題はないさ」

「そこまで財団をブラックにしたくはないのだけれども……」

「なあに、私がホワイトと言えばどんなに薄汚れていようがホワイトさ。っと、アルート。そっちの書類に誤字がないか見てくれたまえ」

「う、うん」


 神々の仕事の光景をぼんやりと見つめながらも、ここまで急いで仕事をしなくてもいいんじゃないのか、とフレアは思わざるを得なかった。

 やがて、ロバート君が目的地まで辿り着いたらしく、徐々に飛行速度を落とし平地へと着地する。


「着きましたよ、お客さん」

「う、うむ」


 エシュリーは少し元気を取り戻したらしいが、その足取りはやはり重かった。

 フレア達がロバート君の背中から降りた後、彼女は驚きの声を上げた。

ロバート君という新たな仲間も登場いたしました。

さて、これからどんな事態が彼らを待ち受けているのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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