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第三章「起業」その5

果たして、フレアはエシュリーに対してどんな返事を伝えるのでしょうか?

「手伝ってくれると助かるよ」

「ほ、本当であろうか? それはありがたい!」

「ど、どうかよろしくお願い、いたします……」


 エシュリーの横でアルートもまた丁寧に頭を下げている。


「はてと、フレア財団に新しいメンバーが加わったところで悪いんだが、今日の仕事はどうするのだい? ちょいと忙しくてね、新人歓迎会を開くのは大分後になりそうさ」

「ああ、仕事ね。わかっているよ」

「む、それでは早速手伝わせてもらえぬか?」

「それじゃあ、書斎まで来てくれないかな」

「了解した」


 フレアはエシュリー達を自分の書斎まで案内する。


「ここが貴殿の書斎か」


 扉を開いた瞬間、エシュリーは困惑した表情で呟く。

 社交辞令としてどうにか褒めようとしているのだが、床にも書類が散乱しており、あちらこちらに鳥の羽が舞い散らかっている有様だ。

 フレアの使っている書斎机には人一人寝そべれるほど広いものの、その上には物が散らかっており、空のインクの瓶や食べかけのクッキーや汚れを拭いた布が嫌でも目に付く。


「ま、まあ散らかっているのは気にしないで」

「私は気になって仕方ないのだがね」

「まずは片付けを先決すべきだと思うのであるが……」


 呆れているエシュリーの目線が痛いものの、フレアは咳払いをしてごまかす。


「取りあえずは窓にいるホウロウバト達を確認して貰いたいんだ」

「ホウロウバト? よもや伝書鳩代わりに使っているのであろうか?」

「そうだけれども」

「気まぐれと聞くぞ。私はクロミアギンバトの方が好きなのであるが」

「どうして?」

「鳥の中でも五本指に入るほど賢い鳥と聞く。訓練をすれば道具も使えるそうだが……」

「本当に?」

「う、噂は噂である――」


 エシュリーは不満げに口にしながらも窓を開けると、窓枠付近に設置された止まり木には鈍色の翼の鳥達が止まっていた。

 地球で見られるカワラバトよりもやや大きく、その足には手紙を入れられる筒が取り付けられていた。


「随分と大人しくしているのだな」

「ふふ、その辺りは私が言い聞かせているからさ。異法神は人間にはない特権があってね、その一つがどの世界においても知能を持つ存在ならば会話や文面での意思疎通が可能なのだよ」

「そのおかげで随分助かっているよ」


 亜人達と交流する際には当然ながら会話が必須なのだが、独自の言語を翻訳するだけでも時間が掛かってしまう。

 それ故に異法神の特権なくしてはフレア財団の設立も夢のまた夢の話だったに違いない。


「会話を行なえたとしても、説得力がなければリナウス殿のような芸当は出来ないということであろうか」


 エシュリーが何を言いたいのかフレアは一瞬理解できなかったが、彼女の目線の先にいるアルートを見てようやく合点がいった。


「まあ、動物を手懐けるにはコツが必要さ」

「そうであるか。ならば仕方あるまいか」


 エシュリーは伝書鳩達から筒に入った手紙を回収している一方で、フレアは既に回収した手紙に目を通していく。

 手紙に書かれてある文字を彼が読めるならばともかく、何と書いてあるかわからないものは全てリナウスへと渡している。

 リナウスはフレアの机の上の空いているスペースを使い、手紙を翻訳し終えるとその文章を別の紙に書き写して彼へと渡し返すのだが、この日ばかりはどこか違っていた。


「アルート。君も仕事をしてくれたまえ」

「え?」

「文字の翻訳という実に簡単な仕事さ。インクと羽ペンならばフレアの机の上に転がっているから、とっとと取りかかってくれたまえ」

「え、うん」

「そうそう、文章を翻訳する時はユーモラスを交えたまえ。かたっくるしい文章ばかり見ているとモチベーションが下がって困るのだよ」

「が、頑張る」


 リナウスの教育は早くも始まっているらしいのだな、と思いながらもフレアは翻訳された手紙の文面に目を通す。

 手紙の多くは亜人達の相談事が書かれている他に、フレア財団に力を貸している亜人達からの定期報告があり、主に製品の売り上げや生産状況、新製品のアイデアや、または各地域での異端狩りの動きの報告ものもあった。


「それにしても……」


 フレアは報告の内容を二度ほど見直してから小さく唸る。

 フレア財団に力を貸してくれる亜人の中にリーオ族がいる。

 外見は後ろ足で直立している猫のようであり、その他の外見的な特徴としては、新雪のような白い毛並みと、大人の雄には立派なたてがみが生えていることが挙げられる。

 一番の問題は好戦的な点だろうか。背丈が倍以上もある人間相手だろうが怯まずに戦いを挑む姿は勇敢というよりも無謀にしか見えない。

 リーオ族の中でも一番血の気の強いマルマークは族長として積極的に力を貸してくれる反面異端狩りを憎んでおり、たまに異端狩りを武力で倒そう等の発言にはフレアも冷や汗をかいてしまう。

 マルマークにはくれぐれも危険な真似はしないよう話してはいる。いるのだが、どうにも不安で仕方なかった。


「他には、アムーディか」


 アムーディは下半身が蛇のオフィーヌ族の族長だ。

 フレアが地球で目にしたファンタジーでの定番のラミアに酷似しているも、尾の先にエイのような毒針が付いているのが特徴だ。

 その中でも研究熱心なアムーディはよくよくフレアに対して独自のアイデアを送ってくれる。

 どうやら翻訳が難しかったようで、リナウスの注釈と文章を見比べつつも、フレアは思わず目頭を押さえる。

 見慣れない単語が多く、アムーディが考えた造語が多数使用されているせいで文章を理解するのにとにかく頭を使う。まるでパズルを解いているかのようで、リナウスの『頑張って解読したまえ』というメモ書きすらある。

 ざっと読んでみると、どうやら堰堤に近いものを考えているらしかった。


堰堤(えんてい)、つまりはダムのようなものか……」


 かなりの予算が必要となる他、やはり周辺環境の悪化も予想される。

特に河川の付近の住民の協力を得ないと争いになる可能性も高く、アムーディとは一度よく話し合おうと考えつつも、フレアは次の手紙を目にする。


「これはユケフからか」


 ユケフはラクセタ族の族長で、フレアとも長い付き合いがある。

 ラクセタ族は人によく似ているが、トカゲのような尻尾と尖った犬歯、右目の瞳孔が爬虫類のように細長く、生肉を好んで食べるといった特徴が挙げられる。

 人も入らない深い山奥に住んでおり、彼らの独自の医療技術はリナウスも関心を寄せるほどだった。

 ユケフには亜人達の売り上げを取りまとめて貰っており、今回も月間の報告の件で手紙を送ってくれたとのことだ。

 フレアは算数の類は嫌いではなかったが、七桁や八桁を超える数字が並ぶと流石に電卓の類が欲しくなる。

 無論、そんな電子機器があるはずもないため、フレアはリナウスが作ったソロバンを弾きながらも計算を行っており、ユケフもまたリナウスから使い方を教わっており、愛用しているそうだ。

 当初はソロバン工場も計画していたぐらいに、このソロバンの存在はありがたいものであり、いつでも使えるように今も引き出しの中で活躍の機会を伺っていた。

 ある程度手紙に目を通していくと、気になる文面を目にした。

フレアに新しい仲間が加わったところで早速お仕事のようです。

さて、最後にフレアが気になった手紙の内容とは?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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