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第三章「起業」その4

リナウスの唐突な発言に混乱が広まる。

どう見てもか弱い女の子にしか見えないアルートの正体とは――。

 フレアとリナウスは長い付き合いだ。

 彼は時折リナウスの突拍子もない提案に四苦八苦することがあるものの、慣れてくれば大した問題ではない。

 だが、今回の発言に関してはフレアも首を傾げざるを得なかった。


「リナウス。何を訳のわからないことを言っているんだよ」

「おっと、生憎冗談じゃなく、大真面目さ」

「嘘、でしょ?」


 アルートはフレアの目からも弱々しい存在にしか見えず、様子を伺っているだけでも異法神としてやっていけるのか不安にすらなってくる。


「フレア殿からすれば信じられない話であろう」


 アルートを宥めている点から察するに、相当苦労しているのか――。

 フレアはそう思わずにはいられなかった。


「何だか、リナウスと雰囲気が全然違うというか」

「もう少し堂々としていて貰いたいものだよ。カミツキの方がしっかりしているなんて笑い話にもならないさ」


 リナウスの口から飛び出た聞いたこともない単語に、フレアは思わず顔をしかめる。


「えっと、カミツキって何? 初めて聞いたんだけれども」

「え、ああ、悪いね。神の祝福を受けている人間のことさ。見ただけじゃわからないけども、一緒にいるところからするとそうなんだろうね」


 エシュリーが無言で頷く中、フレアはあることに気が付いた。


「ちょっと待って? 僕もカミツキなの?」

「そりゃあね。神に付きまとわれている、というのが語源だとか。ちなみに神は同意がなくても人間へ祝福を与えることができるのさ」

「なんて傍迷惑なんだ……」


 事前に言ってくれればいいというのに……。

 フレアがやれやれと顎を掻いていると、リナウスがアルートの方に語り掛ける。


「アルートと言ったね。君はオースミムについて何かを知っているかい?」


 アルートは蚊の鳴くような声でこう答える。


「わ、わ、私は灯火と導きの神、で、その知らないです。私はただの後任です」


 リナウスの視線に耐えられないのか、アルートはすっかり怯えてしまっている。

 フレアもその気持ちは痛感出来るのだが、どうアドバイスをしていいのかわからなかった。


「変わった神権を持っているね。と、後任というのは君が守護神ということかい?」


 アルートは静かにうなずくも、まだ怯えているらしく膝から下がわずかだが震えていた。


「守護神?」


 またも聞き慣れない言葉が出てくる。

 フレアはメルタガルドでの日常会話はマスターしてはいるものの、聞き慣れない言葉にはてんで弱かった。


「世界によっては古くからの盟約によって、異法神が人間を交代で守っていこう、みたいな取り決めがあるらしくてさ」

「そういうのがあるんだ」

「単なるお節介さ。聞いた話によると最初の内は気合いのある神が頑張るんだけれどさ、後任になるにつれて段々とやる気のないのが守護神になるという傾向があるらしいよ」


 ああ、よくある自治会の内情そのままなんだ。

 フレアは内心で呆れた笑みを浮かべてしまう。


「そうなんだ。えっと、エシュリー。前任、つまりオースミムが守護神だったの?」

「恐らくはそのようである。ただ、引継ぎの類は受けていないそうだ。最もアルートがこの調子では、メルタガルドを守れそうにもないのであるが」

「そりゃあ、そうだろうね。そもそも、守護神だったら――」


 リナウスの目つきがほんの一瞬だけ鋭くなる。

 人一人の首を跳ね飛ばせそうな目線の先には縮こまっているアルートの姿があった。


「真っ先に私を排除すべきだからね」


 リナウスが笑いかけると、アルートは目を白黒させながらも首を横に振っている。


「で、出来ません――!」


 よもや守護神がこうもきっぱりと断言するとは。

 フレアはメルタガルドの民に明日があるのかすらさえ思えてしまう。


「これ、しっかりせぬか!」

「ううう……」


 口を尖らせているアルートは、まるで歯医者を嫌がる子どもそのものだ。


「リナウス殿、貴殿がメルタガルドに害を与える存在ならば、勝てぬ戦いといえども、私は剣を向けるぞ」


 毅然と言い放つエシュリーの姿を見ていると、もはやどちらが神なのかわからなくなってくる。

 リナウスと対峙するエシュリーの姿はどこか美しい反面、すぐにでも散ってしまいそうな儚さすらあった。


「生きとし生ける者で私に勝てる者がいるか甚だ疑問なんだがね。まあ、安心してくれたまえ。そう簡単にこの世界を滅ぼしはしないさ。最もフレアが命じてくれればすぐにでもやるけどね」

「え」


 エシュリーはフレアの方に目線を向ける。

 彼の瞳を見て安心したのか、エシュリーは肩の力を抜いてこう言った。


「リナウス殿とフレア殿を信じよう」

「ふふ、物わかりがよくて助かるよ」


 フレアはエシュリーの身体が小刻みに震えていることに気がつく。

 どうやら、啖呵を切ったのはいいものの、その身は死の恐怖と対峙していたようだ。

 本来ならば守護神が言うべき台詞なのだと思うと、フレアは彼女に同情してしまう。


「エシュリーも苦労しているんだね」

「そうである。ランメイア王国では守護神のカミツキになれることは最高の栄誉、とされていた。古来より、王国に仕えるザウナの家名を汚さぬよう、幼い頃から英才教育を叩き込まれ、厳しい試練に耐え、三日三晩眠らずに神に呼びかける儀式を行ったのだが――」


 エシュリーはそこまで言うと、目尻を拭い黙り込んでしまう。

 その結果が弱虫な神様なのだから、泣きたくもなるのだろう。


「まあさ、君に呼ばれて折角アルートが来てくれたのだよ」

「確かに私は人の進むべき道を照らす神を来てくれるよう願った。願ったのであるが……」

「異法神が手を差し伸べてくれるだけでも十二分にありがたいことだとは思うさ。君の目的はそのアルートが関係しているということでいいのかい?」

「うむ、まさにそうである」


 エシュリーは小さく咳払いをしてから、改めてフレアへと向き直る。


「それでなのだが、どうか貴殿らの手伝いをさせてもらえぬか?」

「え?」


 あまりにも唐突な申し出にフレアは戸惑う。

 どうして、とフレアが理由を聞くよりも早くエシュリーは喋り出す。


「見たところ、リナウス殿は相当力のある異法神なのだろう。貴殿らと行動を共にしていれば、アルートが異法神としての自覚を持てるようになると考えているのだ」

「そいつは買い被りすぎさ。異法神向けの自己啓発セミナーでも探した方が早いと思うよ」

「いや、どんなセミナーさ?」

「私に聞かないでくれたまえ。まあ、採用するかお祈りの手紙を送るかはフレアに任せるさ」


 フレアはエシュリーの熱意に溢れた目を見ると、その期待に応えたくなる。

 彼は暫く考えてからこう答えた。

新しい単語が続々登場する中、エシュリーの突然の申し出に果たしてフレアはどんな返事をするのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともフレアとリナウスの活躍をお楽しみに。

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