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6話

 僕がリンダを好きだと気づいたのは学園に入学して以降だった。


 それまでは両親を亡くした僕を引き取ってくれたカルドさん、マースさん、そしてリンダとの生活をいつしか当たり前のように受け入れ、第二の家族に感じていた。


 だからこそ、年の近いリンダとは兄妹のように感じていたし、特別恋愛感情を抱いているとは思っていなかった。


 でもそういう気持ちって気づいてないだけで無自覚に持っているものだと後から気づいた。


学園に入学する以前は僕以外に異性で年の近い友達はいなかった。知り合いレベルの人はいたけど、親しいというには距離があった。


 でも学園に入学して社交的なリンダにはすぐ友達が出来た。……僕は?僕に友達が出来るわけないだろう。曲がりなりにも僕はグラゴニスの民だよ?


 今は色んな常識を身に着け、学園で多くの人を見たことで一般人のフリが出来るまでに至ったけど、当時はグラゴニスの民特有の選民思想を多少なりとも持っていたのさ。


 だから友達が出来ないのもしょうがなくない?僕は世界中から忌み嫌われる一族の生き残りなんだ。うっかり口を滑らせようものなら処刑されてもおかしくない。


 自称するだけでも捕まるんだからグラゴニスの民だとばれないために周囲との関りを最小限に留めていたのさ。あくまで意図的に。


 僕だって作ろうと思えば友達の10人20人なんて2,3分あれば余裕で作れるさ。強がりじゃないよ?


 クラスはリンダと違っていたことで、リンダの交友関係も知らなかった。ただある時廊下を歩いて帰宅しようとしていたらクラスメイト達と楽しく談笑している姿を見た。


 男女入り混じったそのグループを見て、どこか遠くに行ってしまったように感じた。生活の大部分を共にしているため、決して心の距離が遠くなったわけではないのにね。


 僕は異性の友達と楽しそうに話すリンダを見て心が地底に引きずり込まれるような気持ちを感じた。


 今まで感じたことのない衝撃に僕は戸惑ったさ。何だこの気持ちはってね。

 ほとんど一緒にいたリンダのことで知らないことはほとんどない。


 幼馴染でありカルドさんやマースさんは僕とリンダを分け隔てなく育ててくれたからだ。 何をやるにも大体一緒。楽しいことも嫌なことも経験してきて初めて知らないことが出来た。


 同姓の友達と一緒にいるのは何とも思わないのに、異性といると胸が苦しかった。


 でもあの友達とは話さないでなんて言えるわけないだろ?何様なんだって話さ。


 だから僕は見ないように勉強をした。単純に頭に残るもやもやとした気持ちを見て見ぬふりをするために。


 それにやることもなかった。娯楽らしい娯楽も友達がいなければ出来ない。1人でトランプをどうやってやる?1人でジェンガやオセロをしたって楽しくない。


 1人でいる僕にとって遊ぶためのハードルが高すぎるんだ。


 楽しそうに遊んだことを食事の際に話すリンダが眩しく見えた。一方同じタイミングで学園に入学したはずの僕は勉強ばっかりだ。


 食卓でも学園生活のことを聞かれれば勉強のことばかりだ。図書館で本の虫になり新しい知識を身に着けた話しかしない。


 カルドさんやマースさんも心配していたと思う。だって一度も友達が出来たなんて言わないのだから。


 でもカルドさんたちは僕が両親を亡くしたことで人との関りを望まないようになったと勘違いしてくれた。


 望んでも手に入らなかったとは思ったりもするけど、その勘違いを最大限利用して勉強に打ち込む優等生を演じた。


 周囲の人間の声を雑音だと思い込み、リンダのことを見て見ぬふりをした。心が苦しくなって辛くなるからだ。


 そうやって生活しているうちにリンダは楽しい学園生活を送り、僕は1人で勉学に全てを捧げる日々を送った。


 何度もリンダが友達を紹介しようとしてきたけど、全て何かと理由をつけて断った。ただでさえ年頃の女の子が僕みたいなどこの馬の骨とも知らんやつと半共同生活を送っているんだ。


 いらぬ勘違いを生みかねないし、それはお互いのためにならないと思った。僕の中では彼氏と思われることはやぶさかではなかったが、ありもしない噂や悪評が立ってしまうのではないかと憂慮した。


 リンダは成績自体は悪かったけれど、僕が教えたことでなんとか留年は避けられる程度には持ち直した。友達と勉強会もしていたのもいい効果があったのかもしれない。


 僕はというと成績が優秀だったため、進級時には別の講義を取得することが許可された。親の残したグラゴニスの民の遺産があったことから、錬金術師を志した。


 錬金術師になれば同級生の中でも高収入に繋がる可能性がある。何より錬金術を学べばグラゴニスの民の力をもっと別のことに流用できるのではないかとうっすら思っていたからだ。


 それに賢者の塔に勤務する錬金術師は社会的なステータスが高い。もしリンダにどのような男がすり寄ってきたところで僕の身に着けた知識と知恵、そして社会的ステータスで相手の心を粉砕するつもりだった。


 貴族以外には勝てると思っていたし、リンダとほとんどの生活を共にしている男がいるとなれば相手も身を引くように勘違いすると思った。


 リンダは持ち前の太陽のような明るさと分け隔てなく接することから大人気だった。中には男から告白されたなんて話もしていたけど、全て断っていたらしい。いい人がいなかったと本人は言っていた。


 僕は見て見ぬふりをしているつもりだったが、リンダが食事中に話していたことは一通り暗記していた。誰よりも食事中に神経を擦り減らして会話を聞き洩らさず、自然な話の流れで敵を探る必要があった。


 今思えばかわいいものだ。誰にも取られたくないと思いつつ、誰かに思いを寄せられている姿を見たくないと目を塞いだ。見事な矛盾。


 僕からしてリンダの好みの男性はわからなかった。リンダに告白した男は色んな生い立ちの人間がいた。裕福も貧乏もいたし賢いやつから馬鹿なやつまで幅が広かった。


 1人くらいいそうなものだが、全部断ったのはなんでだろうと思った。そして怖くなったんだ。


 僕が思いを告げても断られた大勢の男の仲間入りするだけなんじゃないかって。僕が断られた勇者たちを残念な目で見ていられるのはまだ告白していないからだ。


 僕が告白して断られてチャンスの芽が摘まれれば再起不可能だ。心の傷どころか闇一色に心が染まりかねない。


 そんなわけで僕は学生時代にはリンダの行動をはらはらとして聞いていたのだった。

 ついぞ卒業するまで付き合う男は現れなかった。


 断った話を聞くたびに僕は喜んだ。癖である指で2回机やイスを叩く癖が出てしまってリンダはむっとしていたけど、それでも嬉しいものは嬉しいんだ。


 学園を卒業後、僕は錬金術師の道を邁進し、リンダは実家の手伝いを行うことに決めた。


 そうやって恋心を抱きながらも勉学に逃げたのが僕であり、錬金術師になれば将来的にも安定した生活が送れると思った。もしもリンダと付き合うことが出来て、結婚もできたなら生活をどうするかが問題になると思った。


 思考が飛躍してしまったのは人づきあいが苦手で自分の考えを打ち明ける人がいなかったからだと思うけど、当時の僕には他の男性よりもアドバンテージがあると考えていた。


 だから可能性が高いと信じていた。まだ付き合ってもないのに思考が飛び過ぎて笑えるだろう?告白に成功したわけでもないのにな。


 錬金術師になってみたらその道は閉ざされてしまったわけなんだけど。まさか地下の番人として退職も出来ず、転職も出来ず、いつか来る死の出張を待つ身になるとは夢にも思わなかった。


 でもなんでもそうだよね。外野からすれば綺麗に見える仕事でも実際にはきつかったり労働環境が終わっているものもある。


 隣の芝生は青く見えるってやつは仕事でも発揮される。これがやりたい!って思ってもイメージと実像のギャップは存在する。


 あれだけよさそうに見えた錬金術師も蓋を開けてみれば人生の終点だったとは滑稽だな。必至こいて勉強して辿り着いた先が希望に満ちた未来じゃなく、絶望に溢れた墓場だとは。


 知識を得た。知恵を磨いた。青春と呼ばれるものを捨て去った。恋心を結果的にだがひた隠した。自分の過去が未来を遮ることを承知で前に進み続けた。


 リンダとの関係は進展しないけど、チャンスがもしあったのなら掴めるように準備していた。


 準備したものが自分にとどめを刺す武器だっただけの話だ。


 そうはいってもリンダと僕の関係性は変わらない。リンダは特定の異性と付き合うことはなくとも友達と楽しそうに休日を過ごしていた。僕はリンダの一番近い場所で彼女の何気ない姿を見られる。


 両親の手伝いをしてパン生地をこねる彼女も、食器を洗っている時に洗剤を使いすぎて怒られていることも服の組み合わせに悩むところも髪型にいつも悩んでいるところも大好きだ。


 誰も知らないことに対する優越感に浸れるだけ世の男性よりも圧倒的な特等席にいる。両親が死んだことは残念なことであったけれど、あのままいけば僕も立派なグラゴニスの民になっていた。


 そしてリンダを手に掛けることもあったのかと思えば、現状が悪くないと思える。


 リンダは僕の気持ちには気づかない。なまじ一緒にいるせいで触れたときにドキッとしたり、距離を縮めるために創意工夫することもない。


 逆に言えば今以上の関係に進展させることは難しくもある。他の男性よりも優位だとしても一歩先へ進む一手が指せないでいるわけ。


 それだけじゃない。僕が何かアクションを起こして関係が崩れることが怖い。


 わかるかな?もう二度と僕にあの可愛らしい笑顔を見せてくれなくなったらその日が僕の命日だ。


 リンダとの距離感が変わればカルドさんやマースさんは気にかけてどうにかしようとするだろうね。それはさらに僕とリンダの溝を深めてしまう悪手に繋がるんじゃないか。


 真剣に考えれば考えるほど奈落の底に心が沈んで光も届かない場所に辿り着いた。


 そして選んだことが現状維持。変わることを恐れ、思いを告げることを怖がり、先の未来がないことを理由に。


 思いを告げることが必ずしも幸せに繋がることじゃないと思い込んだ。自分ではリンダに悲しい未来しか与えられない。一度結婚してもすぐ僕が死んでしまえば未亡人だ。


 まだ若いからどうにかなるかもしれない。しかしこの国では初婚が重要視される。

 所謂処女信仰だ。貴族に多い考えだが、血を残すために相手が処女でない場合、子供が本当に自分の子か確認する術がない。


 これが平民にも当てはまっている部分がある。托卵行為は唾棄すべき所業として信じられていることもあって女性は処女性が求められている。


 教会とかの信仰魔法で親子関係の証明を出来ればよかったんだろうけど。


 そこも考慮に入れると自分が死ぬまではお互い幸せにするよう努力できるけど、僕が死んだあとのリンダはきっと厳しい生活を強いられる。


 彼女の笑顔を守るには僕が隣にいてはならない。感情は薄れる。もし僕に気が合ってもいづれ新たな素敵な人に情は移り変わる。


 リンダには幸せでいてほしい。ただそれだけなんだ。


 それが世界から憎まれた一族の残党に許された願いだった。


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