表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

エピローグ

 氷炎の魔法使いストレインが不審死を遂げた日からエングリーズ王国では多くの人間が原因不明の死因で突然死を迎えるようになった。


 犯人の痕跡も手がかりもないながら、王国騎士団の操作も空しく犯人を見つけることは叶わなかった。


 しかし不思議なことに王国内の犯罪が急激に激減し、治安は向上していた。平民やスラム街での犯罪もそうだが、貴族の行動すらも抑止されていた。


 そんな中、ある噂が王都中に蔓延した。

 悪人を裁く正体不明の存在が夜な夜な悪人を断罪しているという……。


 根も葉もない噂だと言われていたが、突然死を迎える人間たちが一人残らず後ろ暗い話が絶えない人々だったこともあって妙な信憑性を獲得していた。


 悪人を罰することで善人はより安心して生活を送ることが出来、過去に犯罪を犯した人間は震えて毎夜を越すしかなくなった。


 悪人を裁く正体不明の存在は市民の心内では英雄のように祭り上げられていった。しかし、全ての市民が肯定するわけではなく犯罪者を司法の手に委ねないことから否定的な市民もいた。


◇ ◇ ◇


 塔首エイワス=グラントは頭痛の種が増え、怒りに打ち震えていた。


 賢者の塔の内部では大騒ぎだった。

 地下の管理を行っていたフェーデという錬金術師が謎の失踪を遂げ、同日にストレインが死亡。加えて、地下に保管されていた巨人の肉片、ロボットの足、レゴラス・ダイヤが盗まれていたのだ。


 私の指示で今回の件は公になることはなかったが、地下唯一の錬金術師フェーデに関する調査が行われることとなった。


 その件でフェーデに仕事をやらせ、地下の管理を疎かにさせた原因としてイルマーク=ミュラーが犯人候補に挙げられ。私の名の下で処罰の対象とした。


 イルマーク=ミュラーはミュラー子爵家の庶子ではあるが、貴族であるため通常ならば裏金で処罰を免れることは可能だった。

 しかし、今回の件は裏金などでは済まされない損害だった。


 まず巨人の肉片とロボットの足は代替不可能な素材である。レゴラス・ダイヤに関しては国家プロジェクトで使用予定だった

 レゴラス・ダイヤを使用して戦争兵器の作成を予定していたのだが、それも頓挫。


 レゴラス・ダイヤは金額もさることながら、その希少性から新たに入手することは困難だ。とてもじゃないがミュラー子爵家の払える金ではつり合いが取れない。


 ミュラー子爵家を取り潰すかも検討に入るほどイルマーク=ミュラーの失態は大きいことだった。


 だが何よりも失い難い存在はフェーデという錬金術師の存在だった。

 フェーデは優秀な錬金術師だった。単純に錬金術師としての腕が優れていたことは言うまでもないことだった。


 それは学園時代での成績も優秀だったことから疑いのない事実だった。

 だがそれだけでは地下3階の危険物錬成科に配属することはなかった。


 危険物錬成科は特殊な人材が行く場所だ。

 ただ優秀な人間では務まらない。この危険物錬成科に必要な素養は血統や個人の特殊な力だ。


 過去に在籍した錬金術師たちは全員優秀な錬金術師という隠れ蓑で覆われた選ばれた人間だった。

 特殊な目だったり、特殊な魔法だったり、特殊な体質を所有していた。


 危険物錬成科ではその力や過去に実在した力の再現をする場所だ。


 つまるところ、彼らの力をそこら辺の平民でも使用できるようにすることがこの危険物錬成科の目的だった。


 再現の可能性が見つかった場合、危険物錬成科の錬金術師は出張という名目で国内にある秘匿された研究施設に移り、力の再現を実際に行う段階に入る。


 犯罪者を見繕うことには事欠かないため、幾らでも人体実験を行うことが出来るのだ。人造の特殊能力を所有した人間を作るプロジェクト、『リ:バース』。


 賢者の塔創設以来継続されてきた長期プロジェクトだ。このためにエングリーズ王国では巨大な犯罪組織が運営され、国のためにバランスよく犯罪者や犯罪を隠蔽しているのだ。


 再現率は低い者の成功例も増えてきたところだった。

 だが王国内に現れた正体不明の存在に実験用に野放しにしていた犯罪者たちが狩られ始め、管理され誘発させた犯罪が撲滅され始めた。


 長年かけて築き上げた犯罪王国が何者かによって塗り替えられようとしている。


 時期に組織も本腰を入れて対処に当たるだろうが、手がかりがないことから相手が一枚上手だ。


 どうしたものか……。

 窓の外を飛ぶ鳥を眺めながらエイワス=グラントはため息を着いた。


◇ ◇ ◇


 後の世で『グラゴニスの再誕』と呼ばれるこの事件をきっかけとして、エングリーズ王国では悪事を行った犯罪者たちが次々と粛清されることになる。


 全ての犯行現場には『グラゴニス』という名前が被害者の血で綴られ、グラゴニスの民の生き残りがいたことにエングリーズ王国は恐怖するのだった。


 しかし、エングリーズ王国としてグラゴニスの民の隠蔽に関与したという疑いを避けるために国際社会ではグラゴニスの名を語る犯罪者が出現したことにした。


 この決断が王都の下水道に住まう世界最強の化け物の存在を秘匿することになり、犯罪王国エングリーズに終止符を打つ最初の一手になるのだった。




いいね、高評価、ブックマーク登録をしていただけると励みになります。


少しでも面白いと感じていただけましたら☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていただけると大変うれしいです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ