5 あの人も落とせるかしら?
ふと、ポーリィナは疑問を浮かべた。
「お父様。リントン様は子爵では?」
「今は、リントン男爵家だ。元リントン子爵殿は小娘―マーデル―の管理責任を負うことになった。爵位を婿養子のライル殿に譲り隠居だ。さらに領地は半減で、リントン家は男爵に降爵となったのだ」
「それでは、わたくしの罪は……」
「昨夜のうちに冤罪であると判明した。だからこその引責処置だな」
デミスたちの証言から冤罪であることは早々にわかることだとポーリィナは判断していた。それでも父親から聞いてホッとしていた。
「では、お父様は?」
「辞任が認められなかった。国王からすれば、そのための早い決断なのだろうな。
どうやら、ライル殿下……ライル殿よりはアテにされているようだ。
だが、二ヶ月の休暇はもぎ取ってきたからな。家族で領地にてのんびり過ごそう」
「はい。お父様。ありがとうございます」
「いや、元々はワシが陛下からの婚約話を断れなかったことが原因だ。
ポリー。この五年、よく頑張ったな」
ポーリィナの目からハラハラと涙が落ちた。
しばらくして、ポーリィナが泣き止み落ちつく。そして、疑問が再び浮かぶ。
「殿下……いえ、ライル様がマーデル様に懸想さなったうえでの行動であることは、わかりました。
ですが、あのお三方は、何故わたくしにプロポーズなどなさったのでしょうか? さらには、わたくしがそれを受け入れると信じておられたようなのです。
わたくしはそれが全くわかりませんの」
「うむ。ワシにも理解できん。父親どもに確認したが、本人とポリーについての話をしていないのでわからないと言っていた。
そうだな。その辺も確認させよう」
ゼビデッドが動いた。本当に一を聞いて十動ける家令である。
「はい。お願いいたしますわ。もし、わたくしの言動が原因でしたら、わたくしも直さなくてはなりませんもの」
「ポリーに悪い所などあるわけがないだろう。ワシの天使なのだから」
コーカス公爵はフニャフニャの笑顔である。
「お父様。それは親バカと言われるものですよ。お外ではお止めくださいませね」
コーカス公爵は満足そうな笑顔でポーリィナの頭をナデナデしていた。
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翌日、ノキウス公爵家とオプーレ侯爵家とメッテル侯爵家から早馬の手紙が届いた。
子息三人共、王都に立ち入り禁止とそれぞれの領地の一部の管理人になることになったとの報告であった。小さな村の管理人では贅沢もできないだろう。
女性一人を数人で貶めた後、その女性にプロポーズするという非常識さでは、王都での社交に出すわけにはいかないと、各家の判断だ。また、コーカス公爵に『反省の色』を見せなくてはならないという意味合いももちろんある。
ポーリィナにプロポーズしたことについては、『自分をわかってくれるのはポーリィナだけだ』とか『ポーリィナは自分に笑顔をくれていた』とか『自分の熱視線に笑顔で応えてくれていた』とか、概ねミーデの予想通りだった。
ポーリィナが淑女として対応していただけだとわかっているコーカス公爵はポーリィナに反省する必要はないと告げた。
『本当にわたくしが悪女であったらどうなっていたのでしょうねぇ?
あの三人は、今後、すぐに誰かに騙されそうですわね。村の管理人などできるのかしら?』
ポーリィナはかえって三人のことが心配になった。
コーカス公爵は各家の反省度合いに納得し、付き合いをしない期間を一年にした。ただし、三人を王都で見かけたり見かけたと噂があったら、いつでも付き合いを止めると宣言し、ゼビデッドはそれを手紙にしたためた。
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二ヶ月後、領地で休養していたポーリィナとミーデはコーカス公爵とともに王都のタウンハウスに戻ってきた。
ポーリィナには目的があった。
ある日の夕方、ミーデにもドレスを着せて、二人で夜会へ行く準備をした。
「お嬢様。本日の夜会が勝負ですよ。でも、下品なお誘いはダメですからね」
「わかっているわ。あくまでも笑顔で小悪魔チックよねっ!
ミーデ。夜会では『お嬢様』はダメよ。わたくしたちはお友達よ」
「そうでした。メイドがお嬢様を褒めても誰も聞いてくれませんものね」
ポーリィナは本当はミーデにも出会いがあってほしいので夜会へ連れて行くのだが、ミーデが頑なに断るので、『一緒に行ってポーリィナを褒める役』という係に任命したのだ。
「わたくし、上手くお話できるかしら?」
「大丈夫ですよ。ポーリィナ様の小悪魔笑顔なら会話は二の次です!扇の使い方がポイントですよ」
ポーリィナはこの二ヶ月、母親メディから妖艶な淑女の指導を受けた。
例えば、今までは隠すのみであった扇でも、動かす速さだけでも印象が変わる。
「ポーリィナ様。『お隠しになったお口元をゆっくりとお見せする』ですよ。
ああ! 少しずつ顕になるポーリィナ様の小悪魔笑顔! 尊すぎて、私も悶絶してしまいます」
ミーデはポーリィナの鏡の前での練習を何百回と見ているにも関わらず、毎回萌えていた。
「うふふ。頑張るわっ!
小悪魔笑顔で初恋の君を落とすわよ」
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夜会から三日後、ポーリィナは初恋の君と初デートに出かけた。
さすがのミーデも付き添いはしなかった。
ミーデは、ポーリィナと初恋の君が乗った馬車が街へ消えるのをジッと見つめていた。
そんな少しだけ寂しそうな目のミーデの手をそっと握った執事の一人がいたことを、ポーリィナが知るのはポーリィナの婚姻から半年後である。
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