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1 糾弾しましたよね?

「ポーリィナ嬢! 待たせたな。俺たちは結婚できるぞ!」


「断固お断りいたしますわ」


 興奮気味でのプロポーズに対してわたくしは冷静にお返しいたしました。すると、玄関に立ったまま室内に案内もされない殿方が呆けたお顔をなさります。


 なぜわたくしが求婚をお受けすると思っていらっしゃるのか、全く理解できませんわ。


 昨日の卒業パーティーでの所業をお忘れではありませんよね?


〰️ 〰️ 



 春麗らかな卒業シーズン。

 ソメール王国の王都にある貴族学園でも前日に卒業式が執り行われ、本日、貴族学園らしく卒業パーティーが催された。


 正確には、催されてすぐに問題が生じ、当日は解散と相成った。


 その生じた問題とは、王子、裁判官長子息、外交大臣子息、騎士団長子息による王子の婚約者への糾弾からの婚約破棄だ。いわゆる断罪劇である。 


 その婚約者こそがポーリィナ・コーカス公爵令嬢であった。


 なんでも学園の女子生徒の一人である子爵令嬢マーデル・リントンをポーリィナが虐めたという糾弾であった。ポーリィナは特に言い訳も反論もせず、その場で婚約解消の書類にサインをし、会場を辞した。


 夜に話を聞いたコーカス公爵は、翌日に宰相を辞するための書類を書いた。


〰️ 〰️


 そして、翌日。


 コーカス公爵は王城の宰相執務室にある個人的な荷物を撤収するため数人の使用人とともに王城へ赴いた。


 コーカス公爵が不在の時間に、不思議な先触れがポーリィナに届けられた。


 昨日ポーリィナを糾弾したメンバーの一人、裁判官長子息であるデミス・ノキウス公爵令息がポーリィナに面会するため訪れるというものであった。


 ポーリィナは訝しんだが、この期に及んでポーリィナに会いに来るなどという愚行に及ぶ者の考えを知りたいという衝動に負け、その先触れを了承した。


 デミスは真っ赤な薔薇の大きな花束を抱えて馬車から降りてきた。コーカス公爵家の家令ゼビデッドに案内され、応接室へ通される。

 さほど時間をおかずにポーリィナも応接室へとやってきた。


「ポーリィナ嬢。今日も大変麗しく!」


 デミスの口上にポーリィナの口角は歪んだが、うまく扇で隠しているので、デミスからは優しげに見えるようにしているポーリィナの目元だけしか見えていない。


「ノキウス公爵令息様、そのままでよろしいわ」


 立ち上がってポーリィナをエスコートしようとしたデミスをポーリィナは止めた。ポーリィナがデミスの向かい側のソファーに腰を下ろすと、二人の前には薫り高い紅茶が出された。二人は一口飲むとそっとソーサーをテーブルに戻した。ポーリィナはまたすぐに扇で口元を隠した。


「やはり特にお変わりのないご様子ですね。誤解されているのではと心配しましたが、私を信じてくれたのですね。

先触れをご了承いただいたのでお会いできることはわかっておりましたが、やはり少しやりすぎたかなとは反省しておりましたので不安はあったのですよ」


 デミスがポーリィナを熱い目で見つめた。


 ポーリィナはポカンと口を開けた。少し離れて立っているメイド長が小さな咳払いをした。正面に座るデミスには扇があるので見えていないが、メイド長にははっきりと見えてしまっていたのだ。

 ポーリィナは一度口を閉じて、少しの逡巡で『お変わりのないご様子』という言葉に返答した。


「ライル王子殿下のお心は存じておりましたので、それについては特に思うことはございませんもの」


 婚約者であったライルが子爵令嬢マーデルに夢中になりポーリィナが無下にされていることは誰もが知っていた。ポーリィナも元々ライルに対しての愛があったわけではないので、特に悩みも落胆もなく、婚約解消を受け入れた。

 それどころか、それを予測し、婚約解消の書類を用意し、卒業パーティーの場でライルにサインをさせたのはポーリィナ本人であったのだ。

 つまりはポーリィナからしても望んだ婚約解消であった。


「これで私たちに障害はなくなりましたね」


 デミスは満面の笑みを浮かべて話を続けた。ポーリィナは目をしばたかせた。


「父からも早く婚約者を決めるようにと言われていましたので、ここまで待つのは大変でした。でも、ポーリィナ嬢のお気持ちもわかっていましたので、ずっとチャンスを狙っていたのです。あの愚王子ならいつかやらかしてくれるとは思っておりまたからね」


「ライル王子殿下のご行為が愚行であると理解しながらお止めにならなかったのですか?

ノキウス公爵令息様は、ライル王子殿下の側近となられるのですよね?」


 ポーリィナはあまりの驚きに声を必死で抑えた。


「アハハ! だって、私たちが結ばれるためには婚約解消をしていただかなければなりませんからね。そのためには、愚王子として行動していただけなければならなかったでしょう?

ライル殿下の側近にならずとも、私には公爵としての地位も裁判官としての地位もありますよ」


 ポーリィナは理解ができないことが多すぎて、少し目を瞑って考えた。

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