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ゆめわたり  作者: 奥島左珠
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第三の夜

第三の夜は逃亡者であった



目を開くと、視界がやけに青白めている

其処中をシャボンの玉が舞っている

嫌な予感がして、右腕で両目を覆ってみた

案の定、其処には青白めた景色が広がっている

弱ったな、これは現実ではなさそうだ



そう考えを巡らすうちに、あたりの空気はしっとりと重くなり、

両目に被せた自分の腕は辺りとの境界を亡くした

肌が、髪が、心臓が、意識が、ゆっくりと辺りの景色へと浸透していく

ついに僕がエメラルドグリーンの液体になってしまったとき

部屋の外へ漏れ出したその一片がふいに僕の姿を取り戻した



自我の大半を部屋に残したまま

裸足で明け方の街を歩く道の舗装は解け

剥き出しの土が踵を汚す

手足のない生物たちが、まとわりつくように地面を這った



視界変わって、目の前に切り立った崖

その縁で、やはり足のない鼠が蜥蜴と喧嘩をしている

お互い、相手を喰らおうと首を絡み合わせるが

決着はつかない

足のない鼠など初めてみたな

決闘を眺めていると、いつの間に隣にいたのか

誰かが言った



それは鼠ではないよ

見ていて御覧、直に腹が裂けるから



知らない声でそう言うか言わぬか、の間

足なし鼠の腹が割れ

中から無数のカナヘビが姿を現した



隣の奥さんの毛皮が、カナヘビを喰ってしまったんだ



そういう彼の姿は何処にも見えないにも拘わらず

僕はこの人を父と認識していた

ふと、視界を煌めくものが横切った



これはいい、夜光蝶だ

宮廷料理を振る舞おう

羽根をむしって綺麗に並べなさい



蝶は弱っていてすぐ捕まった

だが僕は盛り付けが下手だった

円形に並べること叶わず、ただただ四つの羽根を並列させた

口に含むと、柑橘類の味がした

テキーラの様なドロッとした濃厚さを持ったそれは

厭に生命を感じさせた

羽根をむしられた夜光蝶からはするすると紫の花が咲き

辺り一面に蘭の香りが広がった



よくもむごい事をしてくれたな

さぁ、立ちなさい

お前を裁判にかけよう



突如として激昂した父が花の茎で僕を縛る

僕は食べるのが下手だった

口元に羽根を張りつかせたまま

だらしなくよだれを垂らしている



この者は蝶を食い殺した蛮族だ

おのが父親もわからぬ愚か者だ



叫ぶ声にこたえる歓声にふと顔を上げれば

万とも思える群衆が

僕の周りを取り囲んでいた

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