第1話 ぼっちのクリスマス
世間はイルミネーションで溢れ、どこもかしこも輝いている。そんな中俺、那須棚取素は、自分にだけ光が当たってないように感じていた。
「はぁ。今年もクリスマスぼっちか」
俺のいつもの残念な声だ。
「そんなことないじゃない。私がいるわよ」
俺の声で女性の声真似をしてみた。思った以上に女子だった。だがこんなことしても気休めだ。
「はぁ。真面目にやってれば変わったのかな?」
独り言が増えてきた。ため息が白くフワッと浮かんで行った。俺は蒸気機関車のように白い煙を吐きながら帰った。
この季節は皆蒸気機関車だ。吹きすさぶ寒い風が自分の心まで冷やしてきた。温まる温もりが欲しい。誰かあっためて。
温もりが恋しい俺はホットココアを飲む事にした。冷たい風と冷え切った心。そこに染み込むように、ホットココアが入ってきた。
「こんにちは、ホットココアの妖精だよ。君の心を温めてあげるよ」
そんな声が聞こえた気がした。すると、あちこちから声が聞こえてきた。そういえば、俺は三十路で女性との経験などなかった。
魔法使いってこういう事だったのか。俺の中に少し炎が灯った。俺は生きているではないか。クリスマスも乗り越えてきた。ぼっちだと思ってたのは俺だけだったんだ。
「どうだい?少しは温まった?僕はまた行かなきゃいけない。声も聞こえ無くなるけど、聖夜の奇跡だよ。君は1人じゃない」
妖精はそう告げると、どこかに消えたのか声が聞こえ無くなった。でも、俺は1人ではない。妖精がいる。見えないけれどいるんだ。
イルミネーションが少しだけ俺を向いて微笑んだ気がした。