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第一章最終話「決着 シュワルツの最期とトレインの婚約」

「お前を……お前だけは最初に殺しておくべきだった」

「よう、シュワルツ。全てを失った気分はどうだ? 俺はお前に2度もそうされた」


 異変を察したクレリスとセバスチアンが駆け寄ってくる。

 俺とシュワルツが同時に「来るな!」と叫ぶ。

 俺は周囲の安全のため、シュワルツは邪魔を入れさせないために。


 シュワルツの手から周囲に雷撃が走る。

 群衆やギルドの子供達が痛みに悲鳴をあげた。


「やめろ!」

「俺の必殺技【黒雷光】だ。知っているな。今のは限界まで威力を抑えた。1対1だ。邪魔が入れば遠慮なく使うぞ」


「今更何がしたい?」

「決着をつけよう」


「もう勝負ついてるだろ」

「まだだ! トレイン、貴様を倒して俺は再起する。お前が生きていると俺は前へ進めない!」


 何の意味もありはしない。だがシュワルツにとっては逆転の大勝負なのだろう。

 クレリスとセバスチアンに指示を出して周囲から人を遠ざけさせる。

 【黒雷光】の範囲はそれほど広く無いが、威力は戦術級だ。


「トレイン、俺の【影響力】の事を知っていたのか?」

「なんだそれは」


「クズ共を支配するスキルだ。そうか、知らずにあれだけの妨害をしてきたのか」

「なるほど、お前のカリスマの源泉はそのスキルだったのか……」


 アロウが俺の剣を取ってきたようで、こちらへ投げて寄越してくれる。

 シュワルツは妨害しなかった。


「武器を許してくれたお礼にひとつだけ教えてやろう」

「この期に及んで何を教えるというのか」


「お前はおそらくその【影響力】の使い方を誤った」

「なん……だと……」


「もっと研究するべきだったな。それは名称から推測するに、影響下に置く人数が多ければ多いほどその威力を増したはずだ」

「……はッ!?」


「そうだ。お前はもっと仲間と部下を大切にするべきだったんだよ。お前をそこまで追い詰めたのは俺じゃない。お前自身だ」

「ぐぐうッ、違う! 貴様だ! 貴様が俺の邪魔をし続けたからだ!」


「俺とお前は鏡だった。互いに大きな力を持ち、上を目指した。だが俺が仲間を集めたのに対して、お前は仲間を使い捨てた」

「黙れ! 御託はもうたくさんだ! トレイン! 貴様を殺し、俺はこの都市に戻ってくるッ!」


 シュワルツが飛びかかってくる。

 両手剣の一撃を俺は辛うじて剣で防御するのに成功。

 だが膝のせいでその勢いを受け流しきれない。

 足に力が入らず倒れてしまう。


「はははッ! 終わりだトレイン! クロウ三兄弟に傷つけさせたその膝が命取りだったな!」

「ハンディキャップさ。俺の奥義を見せてやろう」


「何をハッタリを! トドメだ!」

「俺の【テイマー・全】は無敵だ」


 【テイマー・全】のリンクチェインを繋げる。


 自分自身・・・・に。


 【テイマー・全】は人間にも有効だ。

 そしてテイム系スキルはテイムした対象の能力を大きく向上させる。

 テイマーの能力がテイムした相手に上乗せされる形だ。

 身体能力はいまいちなクレリスでも一流の戦士並のそれになる。

 

 ならば、俺自身に使えば……?

 更なる効果がある。

 自分自身の能力を向上させるに留まらない。

 向上した能力をベースに更に能力を向上させる事が可能だった。

 その向上に向上を重ねた能力を更に向上させ……


 俺は人間の限界を越える。


「死ねいッ!」

「遅えよ!」


 膝のハンデなど物ともしない。

 大上段から振り下ろされる必殺の一撃も止まっているように見える。

 優雅にかわし、シュワルツの右腕を切り落とした。


「ぎゃああッ! な、何が起きた……ッ!?」

「ちょっと理想のその先へ行ってみた」


 体中がきしむ。

 この一連の動作だけでも相当な消耗だ。

 長時間はまだ使えない。


「俺の、俺の右腕が……」

「シュワルツ、お前はもう終わりだ。トドメを刺されるか、牢屋で残りの一生を過ごすか選ぶがいい」 


「待て……待ってくれトレイン。分かった、お前の勝ちだ。お前に従う。だから助けてくれッ!」

「往生際の悪い事だ。お前が使い潰したヘンチマンの子供達に、あの世で詫び続けるがいい」


 メキメキと大きな爆ぜる音が立った。

 燃え盛る建物が倒壊し始めたのだ。


 まずい。

 子供達が巻き込まれる。


 【テイマー・全】の身体能力向上をフル活用して、倒れる建物から子供達を救い出した。

 音程を外した黒のギルドマスターの笑い声が住宅の崩れる音と交じり消えた。


 周囲への類焼を防ぐために大わらわになっている内にシュワルツの姿はどこかへ消えていた。

 まあいい。あの目立つ傷では街から出るのにも一苦労だろう。

 傷が腐って死ぬ確率の方が高い。



 辛うじてギルドへの類焼は防げたが、隣接する建物は損傷が酷く人が住める状態ではなくなってしまった。

 取り壊して新たな建物が建てられるだろう。


 黒のギルドとの因縁は完全に決着した。

 


 火事の翌々日、スラムの一角でシュワルツの死体が発見された。

 死体には3本のナイフが突き立てられており、違法な香が焚かれていたそうだ。

 何かの儀式だろうか。


 コクショーの出発を見送る。

 多少の賄賂と名前を変えるだけで街へは残れるのだから、と白のギルドへしつこく誘ったが断られてしまった。

 港町で一からやり直すそうだ。

 すぐ隣街なら仕方ないかと納得する。


 ギルドへ戻ると、なぜかブラックリッジ男爵一家が来訪していた。

 正確には、押しかけてきた。


 男爵曰く、

「おかげで爵位返上だけは免れたものの、財産も権利も売り払って文無しになってしまった。名前だけの貴族だ。しばらく厄介になるぞ」

「なんで白のギルドなんですか」


「これも縁というもの。強引な論法だが、トレイン殿達も私の決断で助かった部分が少なからずあるだろう?」

「ま、まぁ黒のギルドとの因縁がすっぱり切れたのは認めますが……」


「そういう事だ。よろしく頼むぞ。娘の相手も探さねばならんしな。こうなると貴族にも商人にも貰い手がいない。有望な冒険者あたりを捕まえるしかないなあ~」

「こっち見ないでもらえますか」


 男爵は、大丈夫だまだ誰にも指一本触れさせていない、と太鼓判を押しているがそういう問題じゃない。


「俺には決まった相手が既にいるんですよ」

「ほう? 誰かね」


 クレリスの方を見やるが頬を膨らましながらそっぽを向かれてしまった。


「まだ何にも言ってもらってないです!」

「あ、ああ……そうだったな。じゃあ今度、場を整えてデートとか」


「それじゃあ男爵令嬢様に先を越されちゃいます!」

「い、今じゃなきゃ駄目か!?」


 これは先延ばしに出来ないヤツだ。

 まずい、皆がぞろぞろ集まってきた。

 腹をくくる。


 ええい、冒険者は度胸!


「クレリス、聞いてくれ」

「は、はいっ」


「ここまで来れたのはクレリスのおかげだ。一番辛い時に支えてくれたのが君だ」

「そんな……私なんて」


「今度は俺が君を幸せにしたい。世界で一番の幸せを、君に」

「これ以上幸せにされてしまうんですか」


「クレリス、俺と結婚してくれ。君が何より大切だ!」

「はいっ! 私もです!」


 俺はクレリスを抱きしめる。

 周りから歓声があがって祝福された。

 キスコールはやめるんだ。しないぞー



 させられた。



 こういうのはもっとタイミングとムードを大事にするべきで……

 今更言っても仕方ない。

 クレリスが泣いて喜んでいるからオーケーだ。



「式は教会とギルドのどちらで挙げましょう?」

「両方でいいんじゃないか。ギルドではパーティーみたいな形になるが」


「嬉しいです。うんとめかし込みますね」

「光愛神教会の挙式はどんな感じに?」


「花嫁は白いウェディングドレスを着ます。男性は礼服で。式自体はシンプルですよ」

「ほうほう、いくらくらいかかるかな?」


「ドレスは教会が格安で貸してくれますよ」

「いや、買おう」


「買うと金貨2000枚くらいになりますよ?」

「だってサイズがなあ……」


「酷いことを言われました! でも事実なので反論できません……」

「何はともあれ、資金稼ぎをしないとな」



「はいっ! じゃあ、冒険ですね!」

「ああ!」




 俺達は冒険のためにダンジョンへ向かう。

 これから青のギルドとの街の覇権を巡って、ギルド戦争が巻き起こる事をまだ俺達は知らない。

 白のギルドが勝利しギルド大連盟が成立するのは一年後の話だ。


 そしてこの巨大都市は再編成され名前を変える。



 ギルダニアと  

 

 

 大冒険時代の幕開けだ。

 次はその話をしよう。




 第一章完

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