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第三話「襲来 ホーリーレーザーと巨大モンスター」

 ぽつん、と街道に佇む男女と馬一頭。


 それが今の俺達。


「ごめんなさいトレインさん。私、興奮してしまって」

「ははは……気にしなくていいさ。たまにあるんだよ」


 暴れ馬のスタリオまで連れてきてしまった。

 スキルのリンクチェインで繋いだままだったからな。



「では気を取り直して、私をテイム……私にテイマースキルを使ってください!」

「諦めてなかったのか」


 ドヤ顔で期待されている。

 どうしよう、断れないよこれ。


 街道っぱたでトレーニングってのもなあ。

 都市の南側は畑と牧場だらけで人の住まない森へ向かう道だから人通りは少ない。

 巡回の警備兵が2,3時間おきに通りかかるくらいだ。


 ブラッシングをお預けになっているせいでスタリオは少々不機嫌だ。なので鎖は外せない。

 鎖を伸ばしてそこらの草を自由にめるようにしておく。


 鎖、この魔力で生み出しているリンクチェインはテイマーの魔力次第でどこまでも伸ばせる。

 伸ばした長さに比例して魔力が減るが、縮めるかリンクを切れば魔力はほぼ全部戻ってくる。

 100mくらい伸ばして好きにさせてやろう。


 一応、街道から10mくらい離れた木陰に移動してトレーニングしよう。


 違うぞ。


 いかがわしい事をするために少女を連れ込んでいるんじゃないぞ。


 謎の罪悪感にさいなまれながら木陰の涼しい所に陣取る。

 そもそもクレリスも15歳。成人したはずだ。

 大丈夫。やましい事は何もない。

 ないぞー


「トレインさん早く、早くその鎖で縛ってください」

「お、おう……」


 わざと言ってるんじゃなかろうか。

 無知って怖いな。


 意を決してリンクチェインを出し、クレリスに向けて使う。

 本来ならリンクするには厳しい条件があるのだが……

 対象とのレベル差や対象の意志力や相性とか。


 一発成功。


 いや、心の平穏のために言い方を変えよう。

 なぜかとてもいかがわしいフレーズに聞こえてしまう。


 上手くできた。


 光を放つ鎖がクレリスの首を一周し、首輪の形に変化した。


「ふわぁ……トレインさんのこれ、とっても温かい」

「……」


 ま、まあ光を放っているのだから暖かさを感じても不思議ではない。


「身体能力が上がってるとかの感じはあるか?」

「はい、体の内側から力が湧き上がってきます。そして……」


 そして?


「トレインさんの優しい心が流れ込んで来るのを感じます。私達、身も心もひとつに──」

「それは良かった! じゃあ実際に確かめてみよう」


 食い気味に言葉を被せて危ない発言を封じる。


「じゃあまず俺が剣で正面から打ち込むから、メイスで防いでくれ」

「分かりました! 正面と言わず、どこからでも一本入れてください」


 クレリスが構えたメイスに向かって剣で打ち込む。

 最初は軽く。

 そして徐々に強く。


「凄いです! 体のバランスどころか腕すらブレません!」

「じゃあフルパワーで、そらっ!」


 全力でクレリスのメイスを打ち据えたが、全く効いていないようだ。

 パワーに関しては身体能力の向上は疑いようもない。

 牧場で普通にトレーニングした時は軽く打ち込んだだけでも体格差でクレリスの体はブレブレになった。

 桁違い、と評してもいいくらいの筋力と体幹だ。


 リンクしただけでこれか。

 原因はだいたい分かっている。


 好感度だ。


 テイマーはリンクした対象のステータスを漠然とイメージして理解できる。

 身体能力の向上具合などのボーナスは対象の信頼関係などで決まってくる好感度に比例するのだが……

 1年世話したスタリオでも好感度はようやく5割。

 だがクレリスは最大だ。


 頭の中に浮かぶのは長方形の容れ物に液体が満ちていくイメージなのだが、スタリオは満タンまで半分でバーの色が緑。

 だがクレリスはバーの色が真っ赤で、長方形のバーのはずの中央が膨らんではち切れそうになっている。


 これは何を意味してるのか……

 俺の頭は理解を拒んだ。


 世の中知らない方が幸せな事は多いに違いない。


「じゃあ次は、ジャンプしてみてくれ」

「はいっ、きゃあああ!」


 軽い垂直跳び、しかもメイスを手にしたままで3mは飛び上がった。

 つま先が地面から3m離れたって事だ。


「み、見ないでくださーい!」

「アッハイ」


 白いスカートから覗くそれは意外と大人な感じだった。

 何がとは言わない。

 3mも飛び上がれば仕方ない事なのだ。


 涙目のクレリスに背中をポコポコと叩かれた。

 うん、手加減している時は普通のパワーだな。

 じゃなかったら俺は今頃、背骨を粉砕されているだろう。


「身体能力の向上は確認できた。強力、というより危険といったレベルだな」

「パワー制御をミスしないよう、頑張りますねっ」


 まあ、普段は大人しく優しい性格だから問題ないだろう。


「ではテイマー側からの直接命令のテストだ。そのまま何もせずリラックスしていてくれ」

「分かりました」


 心の中でクレリスの動作をイメージしてみる。

 リンクチェインを通じて俺の思念イメージが伝わるはずだ。


(右手上げて、右手下げて、左手上げて、左手下げない、右手上げないで左手下げない)


 クレリスは右手を上げ下げして左手を上げた。

 フェイントにかかる様子もなく、イメージした通りの手の上げ方をしている。


「これがテイマーの能力だ。気分は?」

「不思議です。体が反射的に勝手に動きます」


「じゃあ今度は俺の命令は絶対に聞かない意思でいてくれ」

「は、はいっ」


 ぎゅっと目をつむって中腰になり両拳を固く握りしめてイキんでいる。

 可愛い。


(じゃあその拳を……結んで開いて手を打って結んで) 


「わわっ、ひゃ~ 勝手に動いてます! 抵抗の余地がありません」


 なるほど。そういうものだったのか。


(では全力で片足スピン)


「きゃあああああああ! 止めてくださーい!」


 おお、つま先立ちまでイメージ通りだ。

 しかもあまりに回転が綺麗で早いので地面が少しえぐれ始めている。


(はいストップ。そして全力ダッシュ)


「ふわわわわ……あいたっ」


 走るのは速かったがすぐに転んだ。 顔からいった。

 目眩めまいを抑制してまでイメージ通り行動するのは無理か。


「ヒドいですよ、トレインさぁーん」

「すまんすまん。どの位イメージ通りに動けるかの限界に挑んでしまった」


「もう、私が聖職者だから良かったものの……《ライトキュア》」

「おっ、詠唱キャンセル。宣告のみで祈念行使だな」


「──あっ、本当です。自然にできてしまいました」

「祈念の行使力も上がっているな。テストの手間が省けた」

 

 クレリスの本領は祈念だ。僧侶系呪文の行使。

 なぜか僧侶系呪文は魔法と呼ばず、「祈念」という名称で普及している。

 特に回復・防御・強化の冒険向けスキルが揃っているクレリスは貴重で、どのパーティーでもやっていける。

 


 リンク中の対象は潜在スキルが増えることがあるがクレリスの場合はどうだろう?

 意識を集中してクレリスのステータスを探る。


「おっ、あったあった。リンク中は新スキル《ホーリーレーザー》というのが使えるはずだ」

「ホーリー……レーザー?」


「聞き慣れない単語だな。どんな効果だろう?」

「聖なる……剃刀レイザー? 攻撃型の祈念でしょうか?」


「使ってみよう」

「了解です! 《ホーリーレーザー》!」


「……」

「……」


「何も出ないな」

「出ませんねえ」


 クレリスは手近の木を目標に祈念名を連呼しているが何も起きない。


「感触的にはどんなモンだ?」

「こう……何かが足りない感じです。力というか触媒的な何かが」


 更に集中を高めてクレリスのステータスを探ると……

 何か丸いもののイメージが湧いてくる。


「丸いものがいくつもクレリスの周りに浮かぶイメージだ。心当たりはあるか?」

「丸いものですかー……あっ、《ホーリーライト》ですかね? 明かりを灯す祈念です」


「よし、それでいってみよう」

「はいっ、《ホーリーライト》!《ホーリーライト》ッ! もひとつオマケに《ホーリーライト》ー!」


 さり気なくやっているが、1回10秒はかかる詠唱を省略して発動している。

 これまで見たどの魔法の明かりより眩しい光球が3つ。

 あまりの眩しさにクレリスの方を向けない。


「それを触媒にする感じで、あの木に当ててみよう」

「やってみます! まとめてこねこね《ホーリーレーザー》!」


 ズビュゥゥン


 野太い奇妙な音を立てて、青白い光が直線となって木に命中した。

 3秒ほどで光は消えて木に直径5cmほどの穴が綺麗に空いている。


「おー、この太い木に穴を開ける位の──」


 突風


 轟音


 砂塵


「な、何だァ?」

「ひぁー……」


 木の向こう、はるか遠くに土煙が高く上がっている。

 距離は1kmから2kmか。この風と土煙も同じところから来た違いない。


「ト、トレインさん。何か凶悪なモンスターでしょうか……?」

「かも知れない。警戒しよう」


 クレリスに周囲を警戒してもらい、俺は土煙が上がった方向を注視している。

 馬のスタリオを引き寄せて落ち着くように命令しておく。


 5分ほどが過ぎたが何も起こる気配が無い。



 いや、何かが飛来してくる!



「モンスターだ! 上から来るぞ! 気をつけろ!」

「は、はいっ!」



 象より大きい獅子の体、コウモリの羽、そして獅子と人間の中間みたいな顔──


「マンティコアだ!」

「ええっ!?」


 クレリスが絶望的な表情を浮かべる。

 マンティコアはBランクのモンスターだ。

 Bランク認定されている冒険者のパーティーが10人くらいで挑んで犠牲者を出しながら討伐するレベル。

 Aランクが一人も居なければ全滅すらあり得る。


 俺が膝を壊す前の現役時代ですらDランク。

 クレリスが数ヶ月前にCランクに昇給したばかりだ。


 勝てるわけが無い、と絶望するのが普通だが……


「いける。倒すぞ!」

「えええええええええっ!?」


 どうせ街へ走っても追い付かれる。

 馬の足よりマンティコアの飛行速度の方が早い。

 それにさっきのホーリーレーザーなら勝算は十分にある。

 クレリスに疲労した様子は無いし、あれを何発か当てて機動力を奪えばこっちのものだ。


 背後を取られないよう、先程の木を背にしてマンティコアを迎え撃つ態勢を整える。

 後ろのクレリスにもホーリーレーザーの準備をさせておく。

 クレリスから極度の不安と緊張を感じ取る。

 リンクチェインを通して抑制しておかねば。



「至近距離まで引き寄せる。できるだけホーリーライトをたくさん出してくれ!」

「はいっ! 《ホーリーライト》かける10!」


「遊びじゃないんだぞ! そんな詠唱があるか!」

「できました!!」


「マジか」

「マジです!」


 【テイマー・全】のスキル、かなりいい加減な能力の気がしてきた。

 でもこの際は有り難い。 


「来るぞ。まずは羽を狙って──」

「いきます! 《ホーリーレーザ……あうっ」



 クレリスが転んだ。


 ドジっこかー

 死ぬかな、俺?



 続く

注)突風・轟音・砂塵はレーザーが地面をえぐって溶かした結果、溶解した地面が爆発したものです


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