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第二十八話「逆撃 奪還と辻斬り」


 残された子供達の救出はあっけなく成功した。

 黒のギルドの若手冒険者、アーテルに聞き出した所ではシュワルツ達<黒雷>が大勢連れて出撃したのだそうだ。

 出撃した情報はギルド連合からの情報でブランカリンからも聞いていた。

 だが黒のギルド主力メンバーを全て引き連れての大出撃だとは。

 ブラッキーとノワールが消えたせいで<黒雷>の正式メンバーを補充する必要もあったのだろう。

 その選抜試験といった所か。


「すまないな、アーテル。スパイみたいな真似をさせてしまって」

「いえ、むしろこれで少しは心のつかえが取れた思いです」


 金貨を直接渡すのも何なので、良い酒をお礼として渡す。楽しんでくれ。


 黒のギルドの縄張りスラムに住んでいる15人の子供達にまず食べ物を摂ってもらう。

 心と体を落ち着かせてもらい、それから説得した。

 自分達は願っても無い話だと。

 ダンジョンへ連れて行かれた21人も一緒になら是非、という条件で受け入れてもらった。

 元よりそのつもりだ。


 しかし結果的として俺はその約束を破ってしまう事になる。

 ダンジョンへ行った21人は全て帰らぬ人となっていた。


 シュワルツ達<黒雷>が帰還するタイミングを注視して、常にダンジョン入り口を見張っていた。

 帰還のドサクサに紛れて子供達を保護する、という予定だった。

 大物を仕留めたから荷車を、という情報を持った連絡員数名が先に帰還した際に衛兵に金を渡して聞き出させた。

 <黒雷>はヘンチマンの死体を全部は持ち帰らない。

 証として切り落とした小指を持ち帰るだけだ。非道な。

  

 15人を保護して、かえって良かったと言える。

 残された子達ではもはや糧を得る手段が無かったのだから。


 15人は数日の間、悲嘆にくれていたものの再び合流できたアロウ達にも励まされ少しずつ前を向き始めている。

 心身ともに栄養が必要だ。  

 

 幼い男の子が3人、幼い女の子が4人、それに少女が8人。

 元気を取り戻した途端、アロウ達からまたもや名付けを求められた。


「そろそろ別の方向性の名前が良いと思うのだが……」

「大丈夫、皆乗り気です」


 同調圧力とかじゃないだろうな。

 一人一人にもっといい名前もあるよ、と誘いかけたが同じ方向性で名付けて欲しいと言われた。

 

 男の子がそれぞれ、

 オオダチ、パルチザン、クトネシリカ


 となった。


 女の子がそれぞれ、

 ツワブキ、テトラネマ、トレニア、ナズナ、ニシキウツギ、ヌルデ、ネリネ、ノブキ


 となった。


 苦労した……

 彼らを第三期組として育てよう。

 最初に来た子達はほとんど取られてしまった。

 アロウとボーを確保できたのが幸いだ。

 2人とも黒のギルドのヘンチマンとして何度かダンジョンに潜った経験があるためか筋が良く、持ち前の素早さを活かした戦士として成長している。

 Fランク冒険者にしたのは贔屓目ひいきめゼロで前衛から中衛のスタンダードな冒険者として活躍できるだろう。

 アロウが13歳程度でボーは少しだけそれより幼く見える。

 その分パワーが足りてないのが弱点だが、日々身体は成長しているし機動力と目端の良さで十分補えている。


 2人にはFランク昇給祝いとして弓と矢をプレゼントした。

 やや短めのものだが支給品ではなく個人の持ち物だ。大切に使って欲しい。

 大喜びで訓練してくれている。

 おい、走りながら撃つ訓練はまだ早いと思うぞ。いや、確かにそういう状況も多いが。

 矢をもっと発注しないと駄目だな。あのペースでは次にダンジョンに行くまでに矢が尽きる。

 やりたいのは分かるが夜は訓練禁止。

 屋内訓練場は飛び道具禁止だからな。


 次の冒険ではきっちり前衛を任せる。低階層での予定だが。

 2人共楽しみにしている。俺も楽しみだ。


 ではお待ちかね。明日から地獄の追い込み特訓を受けてもらおう。

 罰は罰。どんなピンチでも諦めないメンタルに仕上げてやるからな。

 

 

 

  

 アロウとボーが地獄の追い込み特訓を終了した翌日、ブランカリンがやつれた顔で会議から戻った。

 俺の顔を見るなりしゃくりあげて泣き出す。


 クレリスが怒って「こういう時は抱きしめて慰めるんですよ」と背中をポコポコ叩いてくる。

 それはそれで問題なんじゃなかろうか。

 ブランカリンが泣きじゃくりながら言う。


「白のギルド、帯刀禁止令です……うわぁん!」

「帯刀禁止……武装解除しろって事か」


「はいぃー 例の辻斬りの件で、やはり白のギルドが疑われまして」

「だろうな。あれは明らかに俺達に対する攻撃だ」


 

 ここ10日ばかり街を不安に陥れている辻斬り事件が発生している。

 強力な武器で一撃ばっさり。

 そして何より、発生場所が白のギルドの敷地付近ばかりなのだ。


 狙われている。

 直接狙われていないのに追い込まれている。

 こんなやり口もあるのか、と他人事なら感心してしまうくらいだ。


 心当たりといえば黒のギルド<黒雷>しかあるまい。

 何と犯人の目星まであっさりついている。

 <黒雷>のBランク冒険者、コクショーだ。



 コクショー


 

 遠い異国から流れてきた風変わりな剣士。

 重い防具は身に着けず、武器を主体に戦うソードマスタータイプの戦士だ。

 確か、国の言葉でサトライ……カムライだったか……まあいい。

 尋常とは思えない切れ味の片刃剣を大小で使いこなす。

 あいつが動いているに違いない。


 だが腑に落ちない点もある。

 クレリスほどではないが、コクショーもまた非道を嫌うタイプだった。

 黒のギルド時代の俺に対しても偏見なく接していた。

 独特の思想をしていたので分かり合うとまではいかなかったが……

 尋ねてもみたのだが、騎士道の一種としか理解できなかった。

 そんなコクショーが辻斬りに身を落とすのだろうか。



 翌日、衛兵が白のギルドに踏み込んできて、全ての武器を押収された。

 教会にも所属しているクレリスのメイスだけが唯一、鈍器という事で見逃された。

 それ以外は矢から料理用の包丁まで、全てが衛兵の預かりという形に。

 レイジィ・スーザンは衛兵たちにくってかかる。


「これじゃ料理もできないじゃないですか! 私に死ねと!?」


 その脇でケイトウが危ない視線を衛兵たちに送っている。

 やめなさい。彼らも仕事で仕方なくやっているだけだから。 

 辻斬りの疑いが濃くなるだけだから、穏便にいこう。



 衛兵たちが引き上げた所で全員を集めて相談する。

 コクショーという剣士に目星を付けている事も全員に伝えた。


「やはり俺達の手で犯人を捕まえるしかあるまい」

「犯人を見つけたとして、武器無しでどうするんですか?」


「セバスチアン、無手でどうにかなりそうか?」

「トレイン様の例のスキルで繋いで頂ければ身を守るのはどうとでもなります。ですが、捕まえるとなると少々厳しい状況でしょう」


 クレリスが勢いよく手をあげる。


「私が戦います! 武器を持っているのも私だけですし」

「流石に危険過ぎるだろう。クレリスのメイスをセバスチアンに貸した方がいいと思う」


 騎士が戦場に出る場合、メイスは割とメジャーな主力武器になる。

 金属鎧の上からでも敵の騎士へダメージを通せるからだ。

 当然、セバスチアンもメイスの扱いに長けている。


「セバスチアンさんが私のメイスを持ってもオモチャみたいなものですし」

「確かにセバスチアンにそれを装備させても大工道具の金槌だな……」


 クレリスは譲らない構え。

 やむを得ないので試しに屋内訓練場で、無手フル防具のセバスチアンとメイス装備のクレリスで模擬戦闘を行ってもらった。

 双方共に【テイマー・全】のリンクチェイン有り。


 結果。


 かなりイケる。

 セバスチアンも太鼓判を押した。


「トレイン様のスキル有りで、その<フィジカル・レイズ>祈念があればA級の戦士と互角以上に渡り合えるでしょう」

「私とトレインさんの絆があればこんなものです!」




 翌日。

 嫌がるフォルミン査問員を無理やり連れ出した。

 金貨で500枚もの謝礼を約束して納得させたが、それでも不満をブツブツと漏らしている。


「私が一枚噛みたいって言ってるのは、こういう事じゃないんですけどねぇ……」

「頼むよ。身内だけじゃ証言として弱い。外部の者でそれなりの身分の者の協力が不可欠なんだ」


 フォルミンは文句を言いつつも手間は惜しまず、一番身なりの良さそうに見える豪華なスーツを着込んできてくれている。

 クレリスは裕福な商人の娘風にドレスを着てもらった。

 仕立て屋から貴族の古着で一番良いのを買ったのは良いが、サイズが合わず間近で見ると服がダブついている。


「せっかくのおめかしなのに、トレインさん以外の人と腕を組むなんて……」

「お金持ちの娘という設定なんだから我慢してくれ。夜道なんだからな」


 俺とセバスチアンは執事服だ。

 セバスチアンのサイズの執事服が無いため、かなり袖がぱっつんぱっつんだが仕方ない。

 夜道で細かいところは見えないから大体でいいんだよ。大体で。



 ギルド周囲の区画は夜のなるほ本当に暗い。

 普段からして夜の店が無いため、ろくに明かりが灯されていない。

 衛兵もスライム洪水やゴブリン砦の事件の後始末で、人員が不足している。

 しかも辻斬り被害者の内2名は衛兵だ。

 街角には誰の姿も見えない。


「ええい、こんな所で馬車が故障とはッ!」


 フォルミンが演技で大声を出しながらセバスチアンを短鞭で打ち据える。

 程々にしておけよ。  


「御者を打ち首にしただけでは腹の虫が収まりませんッ!」


 ノリノリだな。

 普段からそんな事をやってるんじゃないだろうな。

 査問員は貴族や大商人ほどではないが、十分に高い地位とされている。

 仕事やパーティーで演技力も必要になってくるのだろう。


  

 セバスチアンが突然、手を出して俺の歩みを止める。


「釣れました」

「ッ!!」


 全然気づけなかった。

 ランタンの明かりの外で黒い影がゆらぎ、往来の中央に躍り出て立ちふさがった。



「恨みは無いが仕事でな。死んでもらう──」



 言い終わった瞬間にはフォルミンの前まで移動していた。

 ダッシュで移動したというより瞬間移動の魔法でも使ったように。



 ちょきん、と金属の合わさる音がしたかと思うと初手の一撃は既に終わっていた。

 セバスチアンがフォルミンを突き飛ばし誓約の鎧と盾を出すも、盾の角が切りとされた。

 なんて切れ味の武器だ。


 そしてランタンの明かりに浮かんだ顔。

 そうだよな。お前しかいない。



「コクショー、やはりお前が犯人だったか」

「これは……してやられたな。まんまと誘い出された訳だ」


 俺達の顔を確認したコクショーが苦笑する。

 しかしためらう事もなく片刃の剣を構え直して次の攻撃を準備した。



黒正勝右衛門こくしょうしょうえもん、いざ参……いや、今の俺はもはやただの辻斬り。お命頂戴(つかまつ)る!」



 コクショーは逃げる素振りも見せず、鬼気迫る表情で次撃を繰り出してきた。

 ちゃきん、と妙に軽い金属音が月のない夜の街角に響き渡る。



 鮮血がほとばしった。



 続く

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