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第二十一話「覚醒 魔女キキョウと踊るホウキ」

 覚醒


 危機的状況に陥った時に眠っていた力が一気に目覚め、とんでもない威力を発揮する事がある。

 とりわけスキルや身体能力が爆発的に向上する事が多い。


「……なるほど。たまたま庭掃除をしていた時にクロードが目の前に侵入して、と」

「はい。それで私、怖くなってホウキにしがみついてトレイン様に教わった魔力を放出したら……」


「ホウキが動き出した、と」

「その時に何かが繋がったような、霧が晴れたように今までの教えが全部繋がって、この子達を動かし方が理解できたんです」


 物体操作アニメート・ホームオブジェクト


 道具を空中に浮かせて自在に動かす魔術だ。

 一般的な魔法ではなく、ある種のタイプの魔法使いのみが習得する職依存スキル。


「つまり、キキョウは魔女スキルを身に着け始めたんだよ」

魔女ウィッチ!」


 キキョウを落ち着かせて説明を始める。


 魔女ウィッチは少々特殊な職だ。

 主に3タイプに分かれ、薬系魔女、呪術系魔女、地系魔女の系統がある。

 薬系魔女は薬草や様々な素材を元に回復の魔法薬や病気を治す薬を作る。極めると変身や若返りなどの薬すら作ると言われている。

 呪術系魔女は呪いのスペシャリストだ。呪いと祝福の魔術を行使すると言われている。


「そして地系魔女、キキョウがなったのはこれだ。建物と家具を操ったり、意思を通じる事ができる。確か住む人の運気や健康を操作したり、建物を侵入者から守ったりするはずなんだが……魔女の中でも珍しいタイプであまり世間には知られてない」

「それでこのホウキ達が私を助けてくれたんですね」


「実際にはホウキそのものではなくて、使っていた人の……何だっけ、残留思念だったかな? 思い入れとかを魔力に読み取らせて動くらしいが」

「よく分かりません……」


 俺もわからん。

 訓練士のスキルは特殊な職の個別スキルまではカバーできない。


「何はともあれ、おめでとう、キキョウ。突然一人前になって戸惑う事も多いだろうが、俺は訓練士だから何でも相談に乗れるからな」

「ありがとうございます!」


 キキョウを皆で褒め称える。

 照れながらはにかむキキョウの頭を撫でぐりまわす。


「よし、明日魔術協会に登録にいこう。記念品の杖かワンドがもらえるぞ」

「はいっ」


 俺からもプレゼントを買ってあげよう。

 やはり魔女っぽいローブがいいか。とんがり帽子もいいな。


 しかしまさかキキョウが一番に職スキルを覚えるとは。

 うーむ、鍛えに鍛えて冒険に連れ出したい……

 でも地系魔女はあまり冒険に向くタイプじゃないか。残念だ。


「駄目ですよ、トレインさん。誰も彼も片端から武闘派に育てようとしちゃ」

「すまんすまん。職業病だな」


 クレリスに苦笑しながら釘を差されてしまった。

 キキョウが困った顔で言う。


「トレイン様、他の子達は元の場所に戻ってくれて大人しくなったのですが、このホウキの子だけはずっと動いたままで……」

「ホウキはキキョウが覚醒する切っ掛けになったせいで、キキョウの魔力を色濃く宿してしまったんだろう。特に困ることも無いし、そのままでいいんじゃないか」


 ホウキは俺の言葉を聞いて嬉しそうに俺の周りを跳ね、しきりに床を掃き始めた。

 どうやら喜びとお礼の表現らしい。


「そのホウキはキキョウ専用にして、明日新しいホウキを買い足そう。名前を付けて可愛がってあげるといい」

「はい、実はもう考えてあって」


「ほう? 何て名前に?」

「ホーキング先生、です」


「先生なのか」

「ですです」


 キキョウもホウキも気に入っているようなので良いか。

 ホーキング先生、これからもキキョウを守ってやってくれ。


 覚醒すると精神が不安定になったり人が変わったようになる事があるが、キキョウは安定している。

 数日は注視する必要があるが、おそらくは大丈夫だろう。

 素直に成長を喜ぶとしよう。





「で、クロードの方だが……」

「はい。縄で縛り、倉庫に閉じ込めてございます」


 間抜けで運が悪いクロード。

 感謝しよう。

 お前のおかげでキキョウは覚醒し、一気に成長してくれた。


 だが、それはそれ、これはこれ。

 簡単には帰してやれないな。



「よう、クロード。面白い格好してるじゃないか」

「トレイン……今すぐ離しやがれ!」


「ギルドに不法に侵入しておいてそれか。盗人は衛兵に突き出すのが善良な市民の義務だ」

「ぬ、盗みなんてやってねえ!」


「じゃあ何が目的だ?」

「べ、別に……散歩だよ、散歩」


 散歩って顔かよ。

 衛兵に渡した所でどうせ黒のギルドの息がかかっている。

 有耶無耶うやむやにされてお咎め無しで終わるのは分かりきった事だ。

 正直、始末してしまいたい所だが……

 子供達の手前、あまり酷い事をするのも悪影響が出そうだ。


「本来、盗人は利き腕の指を全て切り落とす決まりだ」

「だから盗みじゃねえって!」


「こっそり壁を乗り越えて侵入してくるのは盗人だ。まだ盗めていなかっただけでな」

「許してくれ! もうしねえから!」


「まあ反省しているようだし、軽い鞭打ちで勘弁してやる」

「ひっ、ひいいいいいっ!」


 鞭打ちはイメージと違って加減によっては重罰だ。

 長く太い鞭を使えば肉が裂け、骨が折れてまともに回復しない。


 子供達の前でそれだけ宣告してセバスチアン以外は小屋から出るように指示。

 小屋の扉が閉められ、クロード以外は俺とセバスチアンだけになった。

 暗い小屋の中でクロードの歯がガタガタと震える音が響く。


「鞭打ちと言ったな。あれは嘘だ」

「じゃあどんな仕打ちを……」


「セバスチアン、クロードが気絶するまで殴れ。なるべく傷つけずにな」

「かしこまりました、トレイン様」


 腹を殴るのかと思ったら、しきりに往復ビンタでクロードの顔を右へ左へと振らせている。

 なるほど。頭を揺らすのは効果的だろう。

 腹を殴っても案外気絶しないものだからな。


 100往復もビンタしないうちにクロードは気を失った。

 休み無く頭を振られては仕方あるまい。


「完了しました。これで開放してしまうので?」

「いいや、本番はこれからさ」


 不満そうなセバスチアンにニヤリと笑いかけて【テイマー・全】のリンクチェインを出す。


「トレイン様、大変悪そうな……ゴホン、失礼。意地悪そうな笑顔ですな」

「言い直した意味があるのかそれは。テイマーは対象の弱り具合によって、忠誠を誓わなくても限定的な命令を与える事ができる」


「なるほど。つまり……」

「俺の練習台になってもらうとしよう」


   


 いくつか実験と練習をさせてもらい、後は近くの路地裏に投げ捨てた。

 今回はこの辺が限度だろう。

 わざわざ衛兵に引き渡すのは時間がもったいない。

 次は容赦しないがな。





 ギルド敷地内に戻ると子供達がライラプスを取り囲んで興味深そうに眺めている。

 忘れてた。ライラプスを紹介してやらねば。


 子供達にライラプスの事を教える。

 表向きは大型犬として番犬扱いするが、実は魔獣である事も。

 ライラプスの配下も影から飛び出させ、周知しておく。


 彼らの世話はランチに就いて見習いをしているエリカとコスモスに頼んだ。

 仲良くして欲しい。


 普段は敷地内で革紐に繋いでおくように見せかける。

 しかし革紐の先を輪しておいて木の杭に軽く引っ掛けているだけなのでライラプス自身がその気になるだけで簡単に外せる。

 ライラプスはとても賢く、ギルド内の全員の顔と匂いをもう全て覚えたそうだ。

 塀を越えてくるような侵入者がまた出たら頼んだぞ。


 ライラプスのボスは体高がクレリスより少し高い超大型犬だが、配下は普通サイズの白犬だ。

 やや狼寄りの顔つきと毛並みをしているが、首輪と革紐で繋いでしまえば違和感は無い。


 ギルドの番だけではなく、子供達が外出時の護衛も出来た。

 見た目も子供達が犬の散歩をさせているようで問題なし。

 ボス自身は大きすぎるので昼は外へ連れ出せないのは申し訳ない。

 配下は頭数を絞れば数キロ先まで離れても大丈夫だとか。

 この巨大都市の半分近くをカバーできるな。

 

 ライラプスを連れ帰った事は思った以上の収穫となってくれた。



 子供達が要求してくる。

 

「トレイン様、ライラプス達に名前をつけてあげてください!」

「ええー……勝手に好きな名前つけていいぞ?」


「カッコ良いのをお願いします!」

「アリス、イリス、ウリス……」


「ぶーぶー」



 53頭もいるんだけど?

 

  

 続く

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