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第二十話「撃破 ライラプスと魔槍」

 魔犬にあっという間に囲まれた。

 警戒は怠って無かったのだが。


 20層に突入してすぐに前方の動脈通路に白い魔犬が4匹いるは発見したのだが。

 こちらが戦闘態勢を取っても襲ってこない。

 睨み合いに時間を費やしても体力を奪われるだけなので追いかけてしまった。

 しかし白い魔犬は後退して距離を取ってくる。

 何て慎重な魔犬だ。知能が高いのか、臆病なのか。

 クレリスの<ホーリーライト>が照らすギリギリ外側へ後退するので<ホーリーレーザー>を上手く当てられるかどうか微妙な所だ。

 下手に手の内は見せたくない。


 と、考えすぎたせいか気がついた時には後ろにも白い魔犬がいた。

 脇の毛細管通路からも光る眼が見えてくる。

 

「魔犬の方が一枚上手だったな。すっかり囲まれた」

「いつでも撃てます! 命令お願いします」


 こちらも準備は万全。クレリスに【テイマー・全】のリンクチェインを繋ぎ、<ホーリーライト>を20個チャージしてある。

 タイミングを見て仕掛けたい所だ。

 しかし30m近い距離を保たれていて攻撃してくる様子が無い。


「20層入り口までゆっくり下がろう。襲いかかってきたら迎撃だ」

「はいっ」


 じりじりと後退しながら白い魔犬の数をカウントすると、およそ24匹。

 唸り声をあげているものの飛びかかってくる様子は無い。

 クレリスの吐く息が白い。


「……トレインさん、何だか冷えてきましたね」

「確かに。ダンジョンの中とは言え冷えすぎだ……これは魔犬の攻撃の一環だろう」


 おそらく周辺の場そのものを冷やしている。

 囲んでおいて冷気で俺達の動きを鈍くしてから仕留める作戦か。


「時間を置くと不利になるな。退路確保のためにも後方を<ホーリーレーザー>で薙ぎ払ってくれ」

「かしこまりました! 3つこねこね<ホーリーレーザー>!」


 5匹の白い魔犬を切断し、その後方あたりから爆発が起きる。

 地面が大きくえぐれ、周囲が赤熱している。

 熱風と飛散してくる熱い土砂で身体が燃え上がるかと思った。

 至近距離で使うのは最小火力にしないと駄目だ。


「相変わらず無敵の火力だ。しかし退路を自ら断ってしまったな」

「ごめんなさい」


 やはり<ホーリーライト>3つを使うのは危険過ぎる。

 爆発は<ホーリーレーザー>の追加効果という事も確認できたが……

 スタリオの荷車カートを破棄しないとあの50cm近い横薙ぎの穴は超えられまい。

 というか、冷えるまで近づけない。


「トレインさん、変です。白い魔犬の死体がありません」

「爆発で消し飛んだんじゃないのか……?」


 辺りは元からの瓦礫と<ホーリーレーザー>で吹き飛ばした瓦礫が散乱している。

 確かに死体の欠片すら見当たらない。


 <ホーリーライト>が照らす明かりの限界ギリギリで影が地面からせり上がって白い魔犬の形になるのを目の当たりにした。


「復活した!? それとも新手か!」

「おそらく復活だと思います。魔石も見当たりませんし」


 そうだ。死体は消えたとしても魔石は残るはず。

 小さくて見落としているだけの可能性はあるが…… 

  

「トレインさん、この白い魔犬の事は知らないんですか? 攻略法とか……」

「魔犬にはたくさんの種類がいるが、白い体毛で復活持ちとなると……俺もそこまでモンスターの情報を詰め込んでいるわけでも──」


「ひぁっ!」


 しまった。

 考える事に気を取られている隙にクレリスに一匹の白い魔犬が襲いかかった。

 クレリスはとっさに左腕で防御して、噛み付いた魔犬の横腹をメイスで粉砕した。


 どさり。


「クレリス! 左腕は大丈夫かッ!?」

「平気です。血も出ていません」


 腕まくりして見せている左腕は白いままで、少し歯型の跡が赤くなっている程度だ。

 【テイマー・全】の身体能力向上効果で防御力も上がっているおかげか。


「トレインさん、倒した魔犬の死体が消えません」

「本当だ。あるいはまだ死んでいないのか」


 俺の剣で首を切り落とし、明確なトドメを刺す。

 少し待つも死体が消える事はない。


「近接武器なら倒せる、とかなのか……? それだと完全な持久戦で敗北必至だ」

「はいはいっ、トレインさん! だったら私が突っ込んで魔犬達に噛まれますので、そこを一網打尽にしましょう」


「そんな戦法取れるか! 俺が噛まれ役をするから」

「大丈夫です! 今度は<プロテクション>もかけますから」


 押し切られた。

 クレリスが自分と俺に防御の祈念<プロテクション>をかける。

 体の中心から祈念力の波動が外へと出てきて肉体の損傷を分散し和らげてくれる。

 槍で突かれようが火に包まれようが身体が傷つかなくなる、ダンジョン深層で必須の頼もしい祈念だ。

 ダメージを全身に分散するので槍で突かれても全身が痛い、という不思議な感覚になる。


 青白い幾重もの膜のような祈念力に包まれたクレリスが前方の群れに突入。

 あっという間に十数頭の白い魔犬に噛みつかれ、犬の山に埋もれる。


「クレリス、本当に大丈夫かーッ!?」

「はーい、大丈夫でーす」


 呑気な声と共に犬の山からクレリスの右手がニョッキリと飛び出した。

 馬鹿げた防御力だ。


「じゃあ、いっきまーす。んんんーっ、はー!」


 ぐわっ、と魔犬の群れが吹き飛んだ。

 クレリスが両手を広げ胸を張り魔犬を弾き飛ばしたのだ。

 魔犬は牙が折れ、顎が外れ、衝撃でぐったりしたりフラついたりしている。

 すかさず2人で弱っている魔犬を叩き潰す。


「呆れて物が言えない程のパワーと防御力だ」

「さすがトレインさんの【テイマー・全】スキルです! 私がこんなにパワータイプの戦闘をするなんて」


 気質的には素養があったんじゃないかな。身体能力が無かっただけで。

 倒した魔犬はやはり消えないようだ。

 どうやら攻撃した瞬間に実体化するのか……いや、違う。そうだ!


「思い出した。これはライラプスという魔犬だ。個々はランクC程度の強さだが、絶対命中の噛み付き攻撃を持っているのだそうだ」

「避けようと思えば避けられる、普通の噛み付きに見えますが……」


「そこが落とし穴だったんだよ。噛み付き攻撃が絶対命中なんじゃなくて、噛み付き攻撃が成功するまで不死身だったんだ」

「なるほどー! ……なるほど?」


 どんな理屈なのか、魔法か加護か。

 ともかく、狙った獲物を噛むまでこの魔犬は死を免れる。

 結局クレリスのとった戦法は正しかったわけだ。


「でもこの戦法には誤算がひとつだけありました……獣臭とヨダレが臭くて臭くて……」

「それは申し訳ない。しかしどんどん冷えてくるし、早く残りも倒してしまおう」


「了解です! 寒かったらまた<ホーリーレーザー>で!」

「物騒な暖のとり方だ」


 同じ手法で3度ほど魔犬の群れを倒す。

 白い魔犬はもはや包囲を維持できる匹数ではなくなった。

 恐らく噛み付きが成功するまで不死身、という能力の代償で噛み付き攻撃を抑制できない習性なのだろう。

 隙を見せて誘えばほいほい噛み付いてくる。

 ネタさえ割れれば攻略は難しくない。


「トレインさん、ライラプス達が……」

「一斉に伏せた。降伏の意思表示なのか?」


 冷気も収まり、いつものやや肌寒いダンジョンの空気感が戻る。

 逃げればいいものを。噛み付きさえしなければ不死身なのだから。

 誘いをかけられたら噛み付いてしまうから、そうもいかないのかも知れない。


 群れの後方にいたのだろう、ふた周りほど体の大きいライラプスがおずおずと前に出てくる。

 明らかに敵意は無く、これ以上は勘弁してください、という意思が伝わってくるようだ。


「お前が群れのボスか」

「くーん……」


 ボスは寝転がって腹を見せる。犬的服従ポーズ。


「トレインさん、流石にこれを倒してしまうのは可哀想です」

「よし、許そう。意思確認のため【テイマー・全】でしっかりテイムさせてもらうぞ」


「……」

「……どうした、クレリス?」


「トレインさんがまともに魔物をテイムしてるの初めて見ました」

「そう言えばそうだな。今の俺は猛烈にモンスターテイマーしている」


「てっきり人間だけを調教テイムするスキルかと」

「酷い。スタリオにも使ってただろ」


「スタリオさんは、その、とても人間的ですので」

「どうも俺の【テイマー・全】の影響で知性が人間寄りのものになるようだな」


 それが幸か不幸かは分からないが。

 と、思ったらスタリオが嘶きで「最高です」と主張してきたので安心する。

 でも俺の考えを読まないように。


 誤解を受けないよう、これからはモンスターにも積極的に使っていこう。

 ボスに【テイマー・全】のリンクチェインを繋げて忠誠を誓わせる。


 ほうほう


 実はボスである自分だけは不死身ではない、と。

 その代わり配下の者は全員不死身で、死体になっても時間が経てば復活する、と。

 配下の魔石は自分の身体の中にあり、自分が死ぬと群れが一斉に全滅してしまうそうだ。

 なるほど、それで早めに見切りをつけて降伏してきたのか。


 お宝が出現してた場所を教えるから配下にして欲しい、と。


「トレインさんおめでとうございます! ついに本格的にモンスターテイマーですね」

「ああ……しかしこの30頭近い群れを従えて戻ったら、また決壊トレイン行為だと思われて街がパニックになる」


 ほうほう?

 配下は影に潜んでいる事ができる、と。


 言うが早いが配下のライラプスがボスの影にぴょんぴょん飛び込んで消えていく。

 配下は全部で52頭いるそうだ。 

 ちょっとした軍隊だな。

 ボスからあまり遠くへ離れることは出来ないそうだ。


「よし、ライラプス。この俺、トレインに絶対の忠誠を誓え。そうすれば迷宮の外へ連れ出してやろう」

「わおん!」


 ライラプスは喜んで返事をし、俺の従魔となった。

 食費かかりそうだなあ……


 ああ、影に潜んでいる間は食事しなくていいのね。

 そりゃ便利。経済的。


 でも自分が10頭分食べる、と。

 ああ、そう……


 それはダンジョンで難儀してた事だろう。

 



「っくちゅんっ!」



 クレリスの小さなクシャミが冒険終了の合図となった。



 ライラプス達に案内されて宝部屋のアイテムを頂く。

 いつの時代のものか分からない金銀銅のコインが数百枚。

 狩って食べた魔物の骨。自分たちの保存食だったらしい。


 それと魔槍。


 なんでも、ボスが産み落とされた時に側にあり、自分と対になる槍で絶対命中の効果があるのだという。

 かなりのレアアイテムだ。

 スタリオに乗りながら戦いやすくなる。

 有り難く使わせてもらおう。


「そうだ。ライラプスは普通の大型犬という事にして、ギルドの番をしてもらおう」

「いいアイデアですね! 強さも申し分無いですし」


 20層のモンスター達を餌に出来るのだから、黒のギルドの奴らが2人や3人来ても追い返せるだろう。

 思わぬ収穫だったと言える。


 ダンジョンを出る時、入り口の衛兵がやたらと怖がっていた。

 安心させるために説得した。詰め所にいる冒険者も腰を浮かしてこちらを睨んでいるから。


「ごく一般的な野犬ワイルドドッグだ。ダンジョンでちょっと大きくなり過ぎただけだ」

「ちょっと、って……そちらの聖職者さんより大きいのはちょっとと言わないと思いますよ」


 ちょっとだよ。

 クレリスが小さいだけだよ。


「身長の事は気にしてるんですよー!」


 怒られた。

 ドサクサに紛れて衛兵に金貨を数枚握らせて事なきを得る。



 いくつかの報告を済ませ、古代のコインの換金を依頼して白のギルドに戻る。

 セバスチアンとブランカリンが微妙な表情で迎えてくれる。

 何かあったのか?


「お帰りなさいませトレイン様、無事の帰還を喜び申し上げます。こちらは少々の事件がございまして」

「聞こう。何があった?」


「黒のギルドの冒険者、予め教えて頂いた冒険者の内の1人、クロウ兄弟の1人と思わしき者が不法に侵入しこれを捕らえました」

「よくやってくれた。流石セバスチアンだな」


「いえ、捕らえたのは私ではなく、キキョウさんでございます」

「キキョウが!? どうやって?」




「キキョウさんが魔法使いとして覚醒したようでございます」




 続く

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