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第十九話「疑惑 査察と出発」

「査察を受ける?」

「はい、申し訳ありません、トレイン様」


 ブランカリンが頭を下げている。

 10日に1回行われているギルド連合の会議で白のギルドが槍玉に挙げられたというのだ。

 白のギルドはスラムの子供達をさらって監禁、虐待している。あるいは奴隷商に売り払っている、と。


 呆れて二の句が告げられない。

 告げられないが溜め込むのも身体に悪いので発散しよう。


「黒のギルドめ! どこまで陰湿なんだ!」


 要はこういう事だ。

 俺達がノワールの縄張りからスラムの子供達を雇った。しかもかなりの高待遇。

 その絡みでノワールまで死去してしまい、黒のギルドと<黒雷>パーティーのメンツが丸潰れ。

 何とかして子供達を取り返して制裁を加えなければ、他のヘンチマンの子供達にまで逃げられてしまう。

 だが俺達白のギルドは警備兵を雇い、外壁を強化して子供達を守っているので手が出せない。

 だから言いがかりを付けて子供達を誘い出し、さらってやろう。


 分かりやすい。

 だが……


「シンプルなだけに効果的だし、戦えるギルドメンバーが少ない俺達の弱点を的確に突かれている」

「ですね……」


 クレリスも考え込んでしまう。

 査察と称してギルド内に子供達を閉じ込めている状態を批判し、開放させるか常時外出させるように仕向けてくるのだろう。

 よそのスラムとその子供達は放置しヘンチマンとして死地に送り込んでいる現状には目を瞑って、俺達だけを狙い撃ちしてくるとは。

 ノワールの縄張りなんて街全体のほんの一部だ。

 それぞれのギルドがいくつかの地区に縄張りを張っている。


「とりあえず現状で子供達の雇用状態に恥ずべき点は何もない。外出時間を設けるように指導されるだけだろう」

「その外出時間が問題ですね。皆聞き分けの良い子達ですが、やっぱり外に出たら浮かれちゃう年頃ですから」


 俺の年からすればクレリスもそっち側なんだが……いかん、考えが反れた。

 外出時間を設けて俺達がガードする。ここまでは良い。

 手を出してきたら相応以上の報いをくれてやる。


「一番の問題は、ダンジョンへいく時間が無くなってしまう事だ」

「収入を封鎖される形になりますね」


「危険を承知でなるべく多くの子をダンジョンに同行させるしかないか」

「そうなるとセバスチアンさんに留守をお願いする事になります」


 クレリスはとても優秀な聖職者だが万能ではない。

 祈念の行使なら街でも有数の腕前なのだが近接戦闘はからきしだ。

 はっきり言ってしまえば、とても弱い。


 俺の【テイマー・全】でリンクチェインを繋げば身体能力が劇的に向上するので、クレリスの近接戦闘能力でもBランク冒険者と渡り合えるのだが。

 セバスチアンなら単独でも満腹なら現役S級騎士と渡り合える。A級B級のパーティー相手でも子供達を守りきれるだろう。

 子供達のガードとダンジョン、チーム分けをするなら俺とクレリスでダンジョンになる。

 いくらセバスチアンでも1人でダンジョンは厳しい。何が起こるか分からない所なのだから。


「ほとぼりが冷めるまでは何とかこれで凌ぐしかないか」

「ですね」


 やはりもっと信頼できる冒険者メンバーが欲しい。

 【テイマー・全】の秘密を打ち明ける相手は最小限に抑えたいが、現状ではトラブルに対応しきれない。

 白のギルドの死神ギルドという悪名は健在で入会希望者はゼロだ。

 実績を作っていかなければ払拭できないだろう。



 翌日、ギルド連合から査察官が派遣されてきた。

 何のことは無い。フォルミンと同じ査問員だ。付けてる名札が違うだけだった。

 特に隠すことも無いので普通に子供達の訓練と日常生活を見てもらう。


 子供達が個室で個別面談をされ、今の生活についてそれぞれが良し悪しを質問されたそうだ。

 全員が最高だと言ってくれた。ギルドの敷地は広く、不便や窮屈さを感じることも無いと。


 査察官を送り出すと、外でフォルミンが待っていた。

 今回はカネになりそうもなかったので遠慮したのだそうだ。

 俺が査察官を買収するとは考えなかったのだろうか。


「大分追い詰められているようですねえ」

「悔しいがその通りだ。そこでフォルミン、相談なんだが。もちろん礼は弾む」


「待ってましたよその言葉。それを聞くために出向いてきたのですからねえ」

「フリーの冒険者を知らないか? とにかくメンバーが足りない」


「流石に私には心当たりがありませんねえ。知り合いに掛け合ってみるとしましょう」

「頼む。警備兵も黒のギルドの息がかかっているかも知れなくてあまり信用ならないからな」


「でしたら奴隷を買ってはいかがです?」

「そうきたか……」


 この街にも奴隷制度はある。

 奴隷自体は安いのだが、命令を強制するマジックアイテムの首輪がその強制力によって様々になる。

 心情的に奴隷を使うことに抵抗があるので避けていた。

 スラムの子供達に手を差し伸べておいて奴隷を酷使するのでは、やはり何かがおかしい。

 しかし緊急避難という考え方もある。

 

 思案する俺を見てフォルミンが大きな目を歪める。

 笑顔のつもりらしい。


「数日後に使いを向かわせましょう。お役に立てると思いますよ~?」

「頼む」




 査察の結果、予想通りに子供達を毎日外出させるように指導された。

 しかしブランカリンが粘り強く交渉した結果、ダンジョンに出掛けている間はその限りではないという落とし所まで持っていくことに成功。

 ただし、その間は査察官を1人ギルドに送り込まれる形になった。


 ブランカリンの粘りに称賛を送る。

 これならダンジョンへ出かける事が可能だ。

 皆と話し合って、すぐにダンジョンに入る方針に決定する。

 一つアイデアが浮かんだからだ。


 白のギルドを守る冒険者を雇ってしまえばいい。


 言葉にしてば当たり前の事だが、誰も思いつかなかった。

 白のギルドが別のギルドの冒険者を雇う。何も白のギルドのメンバーとしての入会にこだわる必要は無い。

 査察官を送り込まれる。ならば冒険者を送り込んでもらうのだってアリだ。こんな簡単な事を思いつかなかったとは。 

 少々のプライドや見栄はこの際仕方ない。

 黒のギルドから圧力を掛けられても、美味しい依頼であれば受ける冒険者パーティーは出てくる。

 ギルド同士が一枚岩なんてことも無いのだから。


 むしろ白のギルドの中を見てもらって、移籍の切っ掛けになってくれれば、なんて下心も出てきてしまう。

 駆け出しのFランク冒険者ならギルド移籍はさほど珍しい話ではないし、少人数なら問題にもならない。


 そしてそのためにも、まず資金が必要だ。

 今回は俺とクレリスだけでのアタックになってしまうが、何とかして稼いでこよう。

 

   

 こうして俺とクレリスは再びダンジョンへ突入する事ができた。



「考えてみれば、トレインさんと2人きりでダンジョンって今回が初めてですね」

「あー……うん、そうなるかな」


 黒のギルドの時代から考えても初かも知れない。

 しかしデート気分を出されても困る。

 

 スタリオが声を荒げて自分もいるぞと主張している。

 しきりに謝るクレリスの姿は微笑ましい。

 おっと、俺も気を引き締めよう。


 ダンジョン入り口を守っている衛兵に、20層以降は行かないように注意された。

 ああ、前回のメガ・ブラコニドが開けた縦穴のせいか。

 確かに。飛行能力や登坂能力がある高ランクのモンスターが降りてくる事もあるだろう。



 2日後、その20層への登り口で別のパーティーと遭遇した。

 小規模の戦闘が4度ほどあり無事に勝利したものの、魔石以外は大した素材が取れる類のモンスターではなかった。


 6人の冒険者パーティーにヘンチマンが4人。ここまで到達したのだからそれなりの手練れだろう。

 向こうは休息中でこちらに気付いているが特別な警戒を見せない。

 近接型3人、魔術タイプ1人、飛び道具2人のように見える。


 最低限の警戒しかされなかったので、こちらも穏便に声をかける。


「やあ、調子はどうだい」

「見ての通り撤退準備だ。俺は赤のギルドのロッソだ。少人数のようだがそっちは?」


 なるほど重傷者はいないが全員傷だらけだし装備も消耗している。

 クレリスに指示して回復の祈念を使ってもらう。


「俺達は白のギルド。俺はトレイン、こっちはクレリスだ」

「ああ、あの……アンタらも大変だな。回復支援に感謝する」


 黒のギルドに睨まれて手を回されている事は知っているようだ。

 しかしロッソと名乗った戦士は苦笑のような表情を浮かべただけで態度を変える事は無かった。


「良ければ何があったか聞いてもいいか?」

「もちろんだ。20層は魔犬の類のモンスターに占領されている。群狼型だ。アンタらも行かない方が良い」


 なるほど。群狼型は数に比例して身体能力が向上するスキルを持つモンスターのタイプだ。

 囲まれさえしなければ簡単に対処できる。

 だが向こうも数匹ごとのグループで迷宮中に分散するため、そう簡単にはいかない事が多い。


「数の推測はついたか?」

「いや、駄目だったな。避難するのが精一杯だった。20匹は下らないはずだ」


 クレリスの祈念で回復したロッソ達は手早く荷物をまとめて出発した。

 餞別代わりにクレリスに頼んで全員に<プロテクション>の祈念をかけてもらう。

 数時間は持続するダメージ軽減祈念だ。

 白のギルドに対して態度を変えない冒険者パーティーにはぜひ生き残ってもらわねばな。


「重ねての好意に感謝する。アンタらも無理しないようにな。街に戻ったら教えてくれ。ぜひ一杯奢らせて欲しい」

「こちらこそ情報に感謝している。お互い無事にな」


 ダンジョン内での友好的な遭遇は心が洗われる。

 実入りが良さそうなら襲いかかってくるパーティーも珍しくはない。


 クレリスと相談して進退を決めよう。

 彼女は割と積極姿勢だ。


「19層で探索するのも悪くは無いですが、ここはやはり……」

「同意見だ。20層で他のパーティーに見られる心配は無い。魔犬の詳細は分からないがクレリスの<ホーリーレーザー>の格好の餌食だろう」


 

 先へ進む事になった。




 続く

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