第十八話「訓練 ヘンチマンからハイアリングへ」
子供達の成長が著しい。
やはり食事を十分に与え、運動をさせているのが功を奏しているようだ。
子供達はノワール達の時にいたヘンチマンの子を保護したので増えている。
保護したのが7人でその仲間が更に7人だった。
男の子が8人増え、女の子が6人増えた。
名前がある子は……お揃いにしたいのね。
考えるのが難しいから別の系統とか……駄目?
そうか……
今いる男の子が、
アロウ、ボー、クレイモア、ダガー、エストック、ファルシオン
新しく来た子のために図書館へ行って武器の名称を、女の子のために草花果実の名前を片っ端から調べてくる。
好きなものを選んで欲しいのだが、せっかくだから続き物が良いとせがまれてしまった。
結果、新しく来た男の子8人はそれぞれ
グラディウス、ハルバード、イルウーン、ジャマハダル、ナイブス、ランス、メース、ニムシャ、となった。
俺もそれなりに冒険者稼業をしてきたつもりだが、イルウーンとかニムシャとか聞いたこともなかった。
問題は名前通りの武器をせがまれている事だが……
遠い国の武器はともかく、ランスとか高くておいそれと買えない。
そもそもランスは乗馬しないと無理だしな。
だが俺も男子。ここまでは何とかなった。
問題は女の子だ。
女性の気に入る名前に相応しい花や植物なんてわからない。
本当に図書館の辞書と図鑑をひっくり返す勢いで探してメモを取ってきた。
今いる女の子が、
アヤメ、イベリス、ウメ、エリカ、オリーブ、カエデ、キキョウ、クロユリ、ケイトウ、コスモス、サクラ
新しく来た子6人に選んでもらった結果。
シオン、スイレン、セルリア、ソメイヨシノ、タチバナ、チヤ、となった。
まあ女の子は武器の実物とか欲しがらないから楽でいい……
と思ってたら植物図鑑をせがまれた。
多分、良いものだと金貨300枚はくだらない。
稼がねば。
子供達は何より体力づくりを優先してもらったので、良く食べ良く運動してもらった。
午前中はブランカリンとクレリスに時間を作ってもらい読み書きを教える。
午後は運動を中心に、食事の支度や掃除洗濯を始め生活の事を学んでもらっている。
全員とても熱心で楽しそうに学んでくれる。
スラム暮らしで仕事と言えばヘンチマンとして命をかけて冒険者に付いていくか、ごろつきの片棒を担がされるようなものばかりだ。
そこまでして1日にパン1個か2個を食べていけるかどうか。
腹いっぱい食べられて、寝る所と服がもらえるのは天国にいるようだと言っている。
まだ1ヶ月ほどだが肉付きが良くなり、身長もぐんぐんと伸びてきている。
女の子も体つきがそれっぽくなってきているのは喜ばしい事だが……
クレリスが一番発育の良いオリーブを見つめている。
うつろな目で両手を胸部のあたりで上下に動かしながら「いいな、いいなあ……」とつぶやいている。
かける言葉が見つからない。
世の中、ままならない事はあるものだ。
「それで、そろそろ少しずつ適正なんかを見極めていきたいのだが、おいレイジィ・スーザン、ケイトウとイベリスとウメを連れてくな」
「この子達は私がもらいました! 明らかに料理の才能がありますので!」
おいおい、いつの間に。
「あっ、それなら私はエリカちゃんとコスモスちゃんを。目を付けてたんですよー」
「ランチ待て、スタリオ一頭の世話に3人もいらんだろう」
ランチは聞く耳もたず両手にエリカとコスモスを連れてスキップで去っていく。
全員嬉しそうだから良いのか……良いのか?
「エリカちゃん取られてしまいました。私はアヤメちゃんとカエデちゃんとサクラちゃんを」
「クレリス、落ち着くんだ。話し合おう。子供達の将来を」
「聖職者の才能は貴重です! 特にカエデちゃんなんか、本当は今すぐにでも侍祭の任命試験を受けさせたいくらいで」
「ううっ……聖職者は仕方ないか……将来も安泰だし。いや待て俺、流されては駄目だ」
「今のうちに……」
「くっ、オリーブとクロユリは渡せない! 2人共、いい子だからこっちへ戻ってくるんだ」
ブランカリンが2人の肩を掴んで離さない。
「オリーブちゃんは計算が早いしクロユリちゃんは字が凄く綺麗なんですよ! 2人は私に会うために産まれてきたのです!」
「無茶苦茶な。騙されるんじゃない、オリーブは特に体力が優れている。冒険者向きだからこっちへ来るんだ」
オリーブは「やっぱり冒険者はちょっと」と言いながら笑顔でブランカリンの後ろへ隠れてしまった。
「クロユリ、お前の柔軟性とバランスの良さは冒険者向きだ。俺と一緒に大金を稼ごう」
「わ、わたしも臭いのと怖いのは……」
うぬぬ、積極性の教育を優先するべきだったか。
「俺のもとに残ってくれたのはキキョウだけか……大丈夫だ。キキョウは魔法の適性がずば抜けているのは確認済み。最強の冒険者に育ててやれるからな」
「あ、あの……私は家事が一番好きで……特に裁縫がやりたくて……」
涙目で訴えられてしまった。
知ってた。キキョウは世話好きでみんなのお姉さんみたいな立場だからな。
家庭的な子が1人くらい居てもいいか……
「女の子の冒険者志望はゼロになってしまった。シオン達に期待するしかない」
今日から冒険者の良さを語り聞かせよう。
早いうちから教育するのが大事だと思い知らされた。
「で、セバスチアン、ダガーとエストックをどうする気だ?」
「彼らは従者の適正があります。礼儀に真摯であり忠節の大切さを知る者。騎士や貴族に仕えさせるにはもってこいです」
「従者なんて我が侭な貴族に振り回される仕事だぞ。一緒に冒険者しよう」
「2人も希望していますが。それに従者には主を選ぶ権利があります。私がトレイン様にお仕えする事を選んだように」
2人が頷いているのを見てしまっては、それ以上何も言えない。
まあ、戦闘に秀でていれば騎士階級への道も開けるから、と自分を納得させた。
「残ってくれたのはアロウとボーとクレイモアとファルシオンだけか……」
しかしクレイモアとファルシオンは特に年齢的に幼い。
無理に冒険者の教育をするのは可哀想だ。
後1年は基礎体力づくりを中心にのびのびと育てる必要がある。
冒険者としてはアロウとボーの2人を中心的に育てる事になった。
ふふふ、こうなったら他の子がうらやむようなエリート冒険者に育てて、自分も冒険者になりたいと言わせてみせよう。
アロウとボーが怯えながら言う。
「トレイン様、凄く邪悪な笑顔です」
「顔のことは言うな。泣くぞ」
夜のポトフを食べながら皆に宣言する。
今日の配属はあくまでも仮のものだから他の可能性を捨てては駄目だと。
冒険者も捨てたもんじゃないよと。
「そしてアロウ、ボー。今日から2人をHランクの冒険者に認定する。次の冒険を見学してもらおう」
「見学だけですか……? 荷物持ちとか」
「荷物はセバスチアンの荷車とスタリオにお願いするから大丈夫だ。10層以下の低階層の冒険を1回しよう」
10層と言えば本当は一端の冒険者パーティーが挑むほどの難易度だが。
クレリスとセバスチアンの戦力を考えれば20層までは余裕だ。
前回のメガ・ブラコニドは本来30層あたりのモンスターだから。
「まずは周辺警戒、危機感知に全力を注いでくれ。一応、装備は支給するが絶対に戦闘しないように。セバスチアンが置いた荷車を盾にして戦闘は避ける事」
「分かりました、トレイン様」
しかしトレイン様ってのはどうにかならないものか。
気がつく度に修正してるのだが、どうも誰かが仕込んでいるような。
「トレイン様、じゃなくてさん付けとか兄貴とかで呼んでくれ。おじさんって呼んだら地獄の特訓メニューを追加する」
「それは畏れ多くてちょっと……」
よし、畏れ多いなんて概念を教えられるのはクレリスかセバスチアンだな。
後でとっちめてやろう。
……両方だった。
しかもブランカリンも仕込んでたらしい。
「いずれトレイン様の冒険者ランクがAまで上がれば衆目からもそう呼ばれるようになるのですし」
「しかもトレインさんはギルドオーナー、まだギルドに養われている立場の子供達にはしっかり礼儀を仕込みませんと」
「トレインさんは凄い人で目つきも怖いので当然です!」
よし、クレリス。君の発言はおかしいから話し合おう。
「それよりアヤメちゃんカエデちゃんサクラちゃんの宗派をどうしましょう、トレインさん?」
「軽く流された。宗教の事はよく知らないが、宗派って何だ?」
「主にどの神様を崇めるかなのです」
「全部じゃないのか」
「もちろん全ての神様を崇めるのですが、どの神様を一番強く信仰するかで加護が変わってくるのです」
「クレリスはどの神を?」
「光と愛の女神、光愛神様です!」
「クレリスそのものだな」
クレリスは褒めすぎですと言いながら俺の二の腕をペンペンと叩く。
褒めたことになるのか。
「光愛神の加護って何だ?」
「はい、家内安全、厄除、学業成就、安産、交通安全、戦勝、結婚、夫婦円満、恋愛成就、五穀豊穣……」
「何か色んな神様に当てはまりそうな」
「色々な宗教が統合されたものですから、基本的な加護は同じものになりますね。細かくはまた違ってくるのですが」
「どこが違ってくるんだ?」
「主に結婚制度とかですね……どこの教会で式を挙げたかで変わってくるんです。光愛神様だと一夫多妻制になりますね」
「へえ、一夫多妻制って貴族だけだと思ってた」
「貴族はほとんどが栄誉神ですね。あちらも一夫多妻制ですから」
「光愛神は人気ないのか」
「貴族にはちょっと……結婚した時点で財産分与が発生するので。爵位とか領地を分けるのは難しいですから」
「なるほど。覚えておこう。俺もいずれ貴族になれる時が来たら栄誉神に──」
「トレインさんは光愛神で挙式するので大丈夫です」
「えっ」
笑顔を崩さずクレリスは断言する。
「大丈夫なんです」
「あっはい」
そろそろ逃げ場が無くなってきたな。
流石に鈍いふりにも限度がある。
嫌な訳は無い。無いが……
クレリスがもう少し大人びた感じになってからでは駄目だろうか。
俺の中ではまだ2割ほど少女枠に重なっている。
しかしそれも言い訳だろう。
早急に場を整えて気持ちを伝えねば。
「待ってます……」
「俺はそんなに分かりやすい顔をしていたか!?」
俺の自意識過剰という線は無さそうで安心した、という事にしておこう。
クレリスは真っ赤になった顔を押さえながら逃げ出してしまったのでアヤメたちの宗派の話は中断になった。
なるべく本人の意思に任せるようにと伝えておこう。
アロウとボーをHランクの冒険者として認定する。
これはギルド内の手続きだけで完了し、書類をギルド連合に提出するだけだから楽だ。
それだけに何の保証も保護も得られないのだが。
ヘンチマン(子分、手下)という呼称は良くないので白のギルド内だけでも別の呼称にする。
「ハイアリング」
本来は少々別の意味だが、被雇用者枠という造語として採用した。
将来的にはこの名称を他のギルドにも浸透させていきたい。
報酬の取り分も最低1%を制度化する。
俺達のパーティーの現有戦力で1%の取り分となると、金貨何枚にもなってしまい未成年の子に持たせるには過剰な額になってしまうが。
まだ子供達の生活用品が十分に揃っているわけではないし、そういったものに充ててもらおう。
徐々に煮詰めて少なすぎず多すぎずを目指して調節していこう。
ハイアリングのアロウ、ボーを連れて2度目の冒険を計画する。
10階層での狩りを目標に5日の行程を見込んで物資を準備しておく。
準備は問題なく終わり、明日出発という所で思わぬ中断を強制された。
白のギルドマスターとしてギルド連合の会議に出たブランカリンが糾弾されたのだ。
曰く、白のギルドはヘンチマンをギルドの敷地に監禁している。虐待したり奴隷として売り払っているのではないか、と。
ギルド連合からの査察を受ける事になった。
続く




