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第十六話「爆走 白いギルドの黒い胡椒」

 黒のギルドと料理対決をする事になってしまった。


 勝負は10日後。黒のギルド食堂で。

 料理はポトフ。30人前。

 本人の他に助手1人までOK。

 審査員3人を用意し判定。


 勝てば晴れて円満退職。

 負けたら辞められず、身体で侘びてもらう。


 確認OK。

 脳内試算……


 よし、料理自体は勝てる。


「トレインさん、どうしましょうー……」

「いや、むしろ良くやってくれた。これは僥倖だ」


「へっ?」

「大丈夫。レイジィ・スーザンなら勝てるさ」


「トレインさんの言葉なら信じたい所ですが、自信が無いです」

「今から特訓だ。作る料理は決まってるんだからな」


    

 ポトフ


 肉と野菜をじっくり煮込んだ料理だ。

 調理はシンプルだが貴重な香辛料を結構使うため普通の食堂や酒場ではなかなか出せるものではない。

 庶民には滅多に口にできない高級料理。

 なるほど、経験の差が出やすいレシピを選んだものだ。

 香辛料なんてレイジィ・スーザンは使えない上に買えもしないだろうから、練習もろくに出来ないと踏んだのだろう。

 向こうの料理長はどこかの食堂で修行していた時代があるに違いない。

 そう思い込んでいるなら勝てる。


「何はともあれ、食材を買い出しにいこう。今日から毎日ポトフ三昧だぞー」


 子供達がそれを聞いて喜びの声をあげる。

 3日目には飽きた飽きたと大合唱するに違いない。



────────────────────


「……なるほど、そこからして嫌がらせか」

「酷い。ここまでするなんて」


 香辛料が入手できない。

 <黒雷>シュワルツの差し金だろう。

 目の前に大量に置いてあるくせに「売り切れだ」の一点張りで門前払い。


 香辛料は貴重で大手商会でしか取り扱っていない。

 街角の市場で手に入る代物ではなく、商館にいかなければ入手できないものだ。

 この大都市ですら、入手可能な商館はわずか3箇所。

 手を回すのは簡単だったに違いない。


「悪辣な!」


 これでは本当に練習すらままならない。

 さて、どうしたものか……


 ひとまず香辛料は後回しにして、下手に押さえられないうちに肉、野菜、香草、マスタードを大量に押さえておく。

 即決現金払いでチップも含め高値で購入、即座にギルドへ運んでもらう。

 ギルドへ戻ってひとまず相談だ。


「香辛料が差し押さえられていた。知恵を貸してくれ」


 全員が唸り声をあげた。


「ブランカリンは何かコネとか裏取引されていそうな場所とか知らないか?」

「ごめんなさい。仕入れのことは役に立てそうにないです……」


 仕方ない。前の食堂ではウェイトレスだったしな。


「セバスチアン、昔のコネとかあったりしないだろうか」

「申し訳ございません。多少は残っておりますが、大手商館に手を回せるような者は存じ上げておりませぬ」


 無理かー


「トレイン様、港町へ買いに行かれるのはいかがでしょう?」

「急いで片道5日だな。勝負当日に間に合うかどうかだ」


「はい、ですが……」

「何だ?」


「普通の馬なら、でございましょう?」

「そうか、それもそうだ」


 俺は席を飛び跳ねるように立ち上がって叫ぶ。


「スタリオならもっと速いな!」


 その言葉に反応して小屋にスタリオが飛び込んできた。

 どうしていつも放し飼いなんだろう。

 一応暴れ馬なんだが。


 スタリオはドヤ顔で鼻息を荒くしている。

 俺の【テイマー・全】は対象の身体能力を桁違いなほどに向上させてくれる。

 スタリオの足とスタミナが強化されたらどのくらいでいけるか。

 リンクチェインを出してスタリオに事情を細かく理解してもらう。

 【テイマー・全】で繋がっている間はスタリオは人間の言葉を完璧に理解する。というか何から何まで人間臭い感じになる。


 スタリオは目つきが変わり、普通の馬で5日なら2日で十分、と伝えてくる。

 往復4日。6日あれば修行も何とかなるか。


「よし、走るか!」

「駄目ですな」


 セバスチアンが止めに入った。

 呆れた顔で首を左右に振っている。


「スタリオ殿には失望しました。私ならトレイン様を肩に乗せて1日と半分で港町まで走ってみせましょう」


 煽りよる。

 スタリオの目に火が灯る。

 走りで人に負けるものか、と嘶いている。


「よろしい、勝負致しましょう。スタリオ殿」


 ……リンクチェインで繋がっているスタリオはともかく、セバスチアンはなんでスタリオの言葉が分かるんだろう。

 S級冒険者ともなると、一見不思議に見える事も楽々こなすのだろうか。


「トレイン様に仕える者同士、心が通じるのでございます」


 むしろ俺の心を読まないように。

 セバスチアンとスタリオに半日の休養と十分な食事を与えて準備してもらう。


 いざ! 港町へ!



────────────────────



「……ただいまァ」

「早っ! まだ2日経ったばかりですよ!」


 クレリスがスタリオから降りて倒れかける俺を支えてくれる。

 死にそう。


「スタリオとセバスチアンがマジ勝負になってな……これでも寄り道までしたんだが。うぇっぷ、酔いが酷い」


 旅ではなく完全に競争だった。

 スタリオもぐったりしているし、セバスチアンも消耗して久々に老人ぽい見た目に戻っている。

 風を感じる、というより空気は重いのだという事を知った。


 ともかく、香辛料の入手に成功した。大量でしかも港から直接買い付けたおかげでこっちで買うより遥かに安価だった。

 

「トレインさん、すぐ休んでください。倒れちゃいますよ!」


 クレリスが俺に回復祈念をかけながら寝室へ押し出そうとする。

 だがまだ倒れるわけにいかない。


「まだ、まだだ……レイジィ・スーザンを呼んで来てくれ」

「はい、ここに居ます。トレインさん」


「聞いてくれ、俺には【テイマー・全】という極秘のスキルがあって──」


 レイジィ・スーザンにも秘密を明かした。


「改めて問おう。レイジィ・スーザン、この俺に忠誠を誓えるか?」

「はい、私はトレイン様オーナーの店を預かり、命を懸けて繁盛させる事を誓います! 二人の愛の店のために!」


 不穏な言葉を付け加えないでくれ。

 クレリスがつぶやく。


「いいなぁ……私も二人の愛の教会を」


 結婚式場だろうか。

 ともかくリンクチェインを出してレイジィ・スーザンに繋げる。


「この強行軍で俺も成長した。寝ている間でもリンクチェインが途切れなくなったんだ」

「つまり……」



「修行の成果は倍増だ。やればやっただけ成長するぞ」



 頑張ります、というレイジィ・スーザンの言葉を最後まで聞かぬうちに俺はまぶたの重さ負け、眠りに落ちた。

 丸一日眠り込んだそうだ。



 勝負の日になった。

 準備は万全抜かり無し。


「よし、勝ってレイジィ・スーザンをモノにするぞ!」

「おーっ!」


「モノにするだなんて、そんな……」


 言い方が悪かった。

 訂正しよう。


 馬車へ食材を運び込む。

 特にクレリスが頑張って運んでくれた。


「今回、私はこのくらいしか役に立てませんからね──きゃあっ」


 荷物を運んで通りすがりの老人にぶつかって転んだ。

 俺は慌てて老人を助け起こす。クレリスも謝りながら回復の祈念を使用しまくる。


「申し訳有りません。お身体は大丈夫ですか?」

「いやいや、こちらこそスマンかったの。威勢の良さと何やら芳しい香りに惹かれて、ついつい近寄ってしまったわい。おお、お嬢ちゃんの祈念でむしろ肩こりの痛みまで消えてきた。こりゃあ逆に得したかのう」


 老人は寛大な言葉をかけてくれた。

 なにかお詫びをと申し出ると、俺達と食材の匂いに興味津々で質問された。

 根掘り葉掘り聞かれる勢いだったので勝負に招待する事にした。

 時間が無いし、これも何かの縁と思ったからだ。

 老人はむしろ大層喜んで、願ってもないと言ってくれる。


「よし、じゃあ行ってくる。ブランカリン、留守を頼んだぞ」

「いってらっしゃい。トレインさん、レイジィ・スーザンさん、勝利をお祈りしています」


 スタリオが牽く馬車は意気揚々と走り出す。


「あれ、あのお爺さん……もしかして、先代?」


 ブランカリンの言葉は俺の耳に届かなかった。




 続く

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