第十二話「突入 叡智の巨塔(前)」
メンバーの選出を行う。
「今回は俺とクレリス、セバスチアンの3人で行こうと思う」
「ぶーぶー」
外されそうな者達が不満の声をあげる。
「遊びじゃないんだぞ……戦闘経験のある者。これがまず最低条件だ」
今回は露骨に金目当てだ。
確かにダンジョン見学として1階層目だけでも子供達の年長組を連れて行ってあげたいが、それはまた別のタイミングにしたい。
今回は10日を目処に潜れる所まで潜る。これで行きたい。
「何より、いきなりだが明日出発したい」
その理由をみんなに説明する。
市場への買い出しの時に黒のギルド<黒雷>のメンバー、ブラッキーを見かけたのだ。
ブラッキーが寄った商店の者に金を握らせて聞き出した所、やはり2日後ダンジョンへ出発するらしい。
<黒雷>もダンジョンへ行くとなれば、嫌がらせは無くなるかあっても小規模なものだろう。
同じタイミングでダンジョンへ潜る。
これが一番の安全策だと考えた。
全員がこれに納得してくれたので、今回は3人のみで突入する事になった。
となれば、できるだけ奥まで潜りたい。
俺の【テイマー・全】とクレリスの《ホーリーレーザー》があれば、B級モンスターまでは対処できる。
セバスチアンの守りが加われば、マンティコアの群れにも対処できるだろう。
10日での帰還を目安に行ける所まで行って、モンスターを倒し素材を収集し急いで帰る。
このプランで行こうと思う。
ドアを蹴破って乱入してきた者がいる。
スタリオだ。
後ろから慌ててランチが追いかけてくる。
子供達が怯えるので即座に【テイマー・全】のリンクチェインを出してスタリオを鎖に繋ぎ止め、大人しくさせた。
リンクチェインを通じてスタリオの憤慨が伝わってくる。
俺を庇ってスタリオの前に立ちはだかっていたセバスチアンが聞いてくる。
「トレイン様、スタリオは何と?」
「意地でもダンジョンに付いていくと言っている。俺を乗せるつもりらしい」
セバスチアンの眼光が鋭くなる。
老いてもS級騎士、その目は俺でも怖い。
「スタリオ殿、残念だがここは譲ってもらおう。主をお運びするのは騎士の務め」
「騎士の務めにそんなものは無いぞ」
セバスチアンがこの世の終わりになったような表情になる。
なぜだ。
クレリスが怒りながら俺の袖を引く。
「トレインさんめっ、ですよ。めっ。騎士の誇りを傷つけちゃ駄目なんです!」
「さっぱり意味が分からない」
しかしまぁ忠義を否定されたような気分になったのだろう、という点は察した。
スタリオは普通の乗馬用の馬であり、ダンジョンでモンスターに囲まれたら恐慌状態になるかも知れない。
スタリオは俺の心を察したのか、大丈夫だという意思をビンビンに伝えてくる。
馬は人間の心を察するのが上手だというが……
迷っているうちにスタリオとセバスチアンが殴り合い噛み付き合いを始めたので、クレリスに回復魔法の準備だけお願いして行く末を見守る。
10分ほどの漢同士の拳と噛みの語り合いの末、セバスチアンとスタリオの間に謎の友情が生まれていた。
「トレイン様、話し合いの結果。今回はスタリオ殿も同行する形で、私はトレイン様の警護に集中させて頂きます」
「あ、うん…… 2人の良いように。じゃあ今回はそれで」
スタリオの背と腹を撫でてやりながら、切れ目を探した。
中に人が入ってるんじゃないだろうか? と疑うくらい人間臭い。
切れ目は無かった。気のせいか。
急いで準備を始める。
約10日の行程だ。旅の道具が至急入用だ。
クレリスは自前のが既にあるし、セバスチアンも元S級冒険者。そこは手慣れたものだ。
実質セバスチアンの食料の手配のようなものだ。
これさえ充実させておけば守りは完璧と言っても過言ではない。
分かってる。スタリオの飼い葉もだな。忘れてないさ。
翌日、まだ日も昇らないうちにダンジョンの入口に着く。
この街の中央に大きくそびえ立つ謎の怪塔「叡智の巨塔」。
人がこの地に進出する前からあったと言われる。
街にダンジョンがあるのではなく、ダンジョンの周りが街へと発展していったのだ。
晴れている時でもその頂上は青い空に霞んで消えていく。
その最上階は神々の隠れている天空都市と言われているが誰も信じてはいない。
危険と宝の眠る場所、というのが住民の即物的常識だ。
ダンジョンの入口周辺は広場になっていて、万が一のモンスター流出に備えて警備兵がいる。
B級以上の冒険者も常に最低1人は詰めているし、回復魔法が使える聖職者も常駐している。
クレリスも何度となくその依頼を受けている。
そして何より、目利きの商人が冒険者の持ち帰るアイテム、素材をいち早く買い取ろうと待ち構えている。
大手商会に持ち込まれる前に、かさばる物や一見ガラクタで鑑定料を払うと赤字になりそうなものを……掘り出し物として価値を知らない冒険者から買い叩こうと目を光らせている。
そのたくましさがこの街を作り上げた。
ダンジョン入場の手続きをして、ふと守備冒険者の待機室へ目をやると意外な人物と目があった。
<黒雷>のシュワルツだ。
情報は間違っていたのか!?
守備の任務は丸一日で翌朝までだから、冒険出発の前日にこの仕事を引き受けるはずがない。
それとも<黒雷>パーティーの一部だけの参加なのだろうか。
シュワルツは無言ながらも鋭い睨みの視線を投げつけてくる。
セバスチアンが思わず俺の前に立ちはだかるほどの威圧感だ。
警戒を強めねばなるまい。
ダンジョン内に刺客を送り込んでくる、なんて話も実際にあるらしいからな。
見送りに来てくれているブランカリンとランチにもギルド敷地の警戒を怠らないよう念を押した。
「いよいよ、トレインさんと私の初の共同作業ですね!」
「セバ……ハンスとスタリオの事も忘れないように」
「いえいえ、私めはトレイン様の従者。居ないものとして扱って頂くのが筋というものにございます」
色々矯正しよう。
俺はスタリオに乗馬、セバスチアンが小さめの荷車を引き道具と食料を満載している。
クレリスは乗馬が苦手なので歩くそうだ。
準備は万全。俺達は意気揚々とダンジョンの入り口をくぐった。
さあ、いよいよ冒険の幕開けだ!
続く
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