第十一話「仲間 白のギルドはホワイトギルド」
「仲間……」
「ああ、俺達には仲間が必要だ」
いずれは冒険者になってもらいパーティーを組む。
つまり仲間になってもらうと最初から思ってはいた。
だが、どこかでヘンチマン制度に囚われていてビジネスライクになっていた。
白のギルドを盛り立てていく仲間を募るという形でいくべきだ。
「でもノワールと取り巻き達が見張ってて、協力したらまた殴られてお金も巻き上げられちゃうよ」
「そうだな。綺麗事ではどうにもならない部分があるな。当面はギルドの敷地内に住んでもらい、出かける時は常に大人と同行してもらう形になるだろう。もちろん食事もこちらで用意する」
「えっ!? 寝る所と食べ物をくれるの!?」
「当然だ。君が一人前の冒険者を目指している間は約束しよう。志さえあれば、絶対に見捨てない。ノワール達からも全力で守るさ」
「いくよ! それなら兄ちゃん達の所へ行く! あっ……でも」
「どうした? 服も用意するし、布団もあるぞ」
「ううん、違うんだ。僕には妹達がいて……残していけないよ。ノワールに知られたらどんな目に合わされるか」
「なるほど……」
ここだ。スラムの子供達にも横の繋がりがある。
親に捨てられて、必死の思いで拾った1つのパンを分け合う仲間とは、時に血以上の絆があるだろう。
俺が甘く見ていた部分だ。
「君だけじゃない。流石にスラムの全ては無理だが、君の所属するグループ全員を仲間にしたい」
「本当に!?」
クレリスに説明して先に戻って準備をしてもらう形にする。
俺はこの男の子達の隠れ家に連れて行ってもらう。
ノワール達にすら教えていないという廃墟の地下に真の隠れ家を設けているらしい。
手早く集められる子だけを集めると6人ばかりが地下室に集合した。
そこで事情を説明する。
黒のギルド<黒雷>の傘下から離れ、ギルドに住み込みで冒険者見習い、あるいは職員として働いてもらう。
衣食住完備。その代わり給料はほぼ無しになってしまうし、外出には制限が出来てしまう。
ノワールに嗅ぎつけられたら終わりだ。
移住は手早く最小限の人数に絞らねばならない。
子供達の人数は17人になった。これでも迷いに迷って切り捨てた仲間がいる。
特にそのすぐ親しいグループにはノワールの見せしめと制裁が与えられるだろう。
全てを助けるなんて出来ない。今はこれが精一杯。
日が暮れた頃を見計らって隠れ家前に馬車が2台止まる。
セバスチアンとランチが御者をしてくれた。
ほとんど荷物もない子供達の収容は手早く済み、一目散に白のギルドへと戻った。
白のギルドの敷地はそれなりに高い壁で囲われている。
出入り口は正面門と裏口の2箇所だけだ。
だが、より高く厳重なものにしなければなるまい。
馬車も借り物でなく所有する必要がある。
物要りだ。
まだ俺とクレリスの資金はそれなりに残っているが、近々食いあげるだろう。
子供達の身の回りの品はもとより、外壁強化や警備兵を雇う事を考えれば既に足りないと言ってもいい。
馬車を返却してきたセバスチアンとランチを迎え入れ、門を閉めながら考えをまとめていく。
「トレイン、あんたさァ。アタシに恥をかかせてくれたね」
ぞっとする声が後ろからかけられた。
ノワールだ。
かがり火は点けていないので、その姿は黒い影にしか見えない。
覚えてなよ、という捨て台詞と共に何か小さな物を俺に投げつけてノワールは闇に消えていった。
石畳の上に転がったそれを俺は拾い上げる。
子供の指だ。
17人の中の誰かと親しい子に制裁を加えたのだろう。
ここまで、ここまでやるのか。
クレリスには見せられない。
俺はその誰かの指をそっとポケットに入れた。
即座に外壁の強化を手配し警備兵を雇ったが、外壁の仮工事が済むまでにボヤ騒ぎが1回、資材の盗難が2回、建物の汚損騒ぎが4回あった。
警備兵は更に倍にした。
子供達が何かしらの仕事を手伝えるようになるまで、半年はかかる。
まずはギルド内での暮らしに馴染ませ、体を作る必要があるからだ。
冒険者のイロハを仕込むのはそれからになるだろう。
子供達には名前を付ける事にした。
赤子の時に捨てられる孤児院側と違って、街中に置き去りにされるタイプのスラム側孤児達には名前がある。
だが名前があやふやな者が多く、俺が声をかけた男の子はハムと名乗っていた。
おそらく本当はサムだったのだろうが、今となっては確かめる術は無い。
全員が公平に門出を迎えるために、ここで新しい名前を名乗りたいと申し出てきた。
冒険者になるまでには何年もかかるかも知れないが、今のうちからまともな名前をあげたい。
本人たちから希望を募ってはみたが、もちろん名前に関する知識量はほぼゼロだった。
むしろカッコいい名前を付けて欲しいと丸投げされた。
困った。
散々ダメ出しされた挙げ句、武器の名称とかどうだろう? と提案したら男の子6人はみんな激しく食いついた。
身長順にそれぞれ、アロウ、ボー、クレイモア、ダガー、エストック、ファルシオンとなった。
うむ、冒険者の素質はあるかも知れないな。
女の子は11人。これはクレリスかブランカリンに投げたい所だが……
2人は11人の女の子と一緒に期待した目で俺に向かって頷いている。
「えー……じゃあ、アリス・イリス・エリス……」
「ぶーぶー」
「あ、明日図書館に行ってくるから」
試行錯誤した結果、花と果実の名前で統一したいという希望になったので翌日、再度図書館へでかけた。
他にやるべき事も多いが、もしかしたら一生ものの名前になってくれるかも知れない。
できるだけ希望に沿うようにしてあげよう。
アヤメ、イベリス、ウメ、エリカ、オリーブ、カエデ、キキョウ、クロユリ、ケイトウ、コスモス、サクラ
山ほど花の名前を様々な国の呼び方で書き写してきて、好きなものを選んでもらった結果こうなった。
クレリスが目をキラキラと輝かせながら腕を掴んでくる。
「トレインさん、トレインさん。私、結婚したらデンドロビウムに改名しようと思うのですがどうでしょう?」
「やめておきなさい」
「残念です……じゃあトレインさんが考えておいてくださいね」
なぜ俺が考えなければならないんだろう。
「はい。みんな聞いてくれ。金が無くなりそうだ」
朝食を兼ねた朝の会議で宣言する。
予定外の出費が重なっている。まだまだ重なる。
油断していられないラインに突入した。
「やはりダンジョンに潜りたい所ですが……」
クレリスが遠慮がちに言う。
ダンジョンに行って帰ってくるのには何日もかかる。
その間の警備を心配しているのだ。
あれから2週間。ノワール達の嫌がらせは鳴りを潜めたように見える。
外壁の強化も完了し、警備兵の増員も形になった。
確かに万全とは言えないかも知れないが、時は来たのかも知れない。
「よし、行こう。ダンジョンへ」
皆の目が輝き出す。
「白のギルド、復帰第一戦だ」
続く