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どうしてもかめはめ波を撃ちたいおっさんの話

作者: 永谷 園

毎日投稿5弾です。

よろしくおねがいします。

 かめはめ波が撃ちたかった。


 「かめはめ波」とは、有名な少年マンガに出て来る架空の技のことだ。

 体内の潜在エネルギーを凝縮して、一気に放出するという必殺技だ。

 この技を最初に編み出した亀仙人という人物は、開発するのに50年かかったという。

 きっと、子どもの頃、この技を練習したことがあるという人は多いのではないかと思う。

 なにを隠そう私もその一人だ。

 私は小学校高学年から高校生に上がるまでの間、誰にも言わずにこっそりとかめはめ波の練習していた。

 毎日、筋トレと気功の訓練をかかしたことはなかった。

 しかしどれだけ続けても、筋肉がついて健康になっていくばかりで、かめはめ波を撃つことはできなかった。


 かめはめ波の練習は、高校で初めて彼女ができたことを境に辞めてしまった。

 彼女の影響というよりも、他にやるべきことが増えたのだった。

 彼女はアナウンサーになることを目指しているらしく、輝いていた。

 彼女はジャンプよりもサンデーが好きだった。

 私も彼女とともにたくさん勉強した。

 かめはめ波の練習をしていることは、恥ずかしくて言い出せなかった。

 私は毎日、彼女と一緒に物理の法則や古文の読み方などについて学んだ。

 学ぶべきことは無数にあり、それらをすべて学ぶというのはとても時間がかかることだった。

 明日やればいいや、来週やればいいやと、少しずつかめはめ波の練習に費やす時間が減っていった。

 そうしていうちに、だんだんとかめはめ波の練習に身が入らなくなっていき、ついには完全にやらなくなった。

 それから先は大学の受験をしたり、彼女と別れたり、アルバイトをしたり、別の女性と付き合ったり、卒論を書いたり、就職したりした。

 日々が少しずつ忙しくなっていって、いつのまにかかめはめ波を撃ちたかったことは忘れていた。


 それから十数年が経った。


 32歳で勤務先の会社が倒産した。

 私は、大学を出て都心近くのの小さなIT企業で働いていた。

 楽な仕事ではなかったが、それなりに充実した日々を送っていたのに、突然の倒産。

 理由は、正直よくわからない。

 会社の業績はすこし前から怪しかったらしく、すこしばかりよくない噂も流れていたが、それにしたって突然の出来事だった。

 社長が失踪し、従業員たちは路頭に迷う羽目になった。

 なぜか私はあまり焦らなかった。

 というより、実感が湧かなかった。

 あまりの出来事に、感覚がマヒしていたのかもしれない。

 貯金もそこそこ溜まっており、とくに仕事にたいして思い入れがあったわけでもなかった。

 唯一の心残りは、仲良くしていた営業の女子社員と連絡先を交換しないままだったことくらいだ。

 私はどうせなら、じっくり休養しながらこれからのことを考えようと思った。


 近所の河原を歩いていると子供たちが、気でも狂ったかのように木の棒を振り回している。

 かつては自分もあんなふうにして外を走り回っていたことを思い出す。

 私は、試しに河原を全力で走ってみることにした。

 よーいどんで地面を蹴る。

 手足が重く、思ったように動かない。突然の負荷で心臓がバクバクした。

 50mも走らないうちに足がつった。なんかもうほんとめちゃめちゃ痛かった。

 私は笑いが止まらなかった。この年になって河原で走り回って足をつって痛がっている自分が面白くて仕方なかった。

 いままでの記憶がフラッシュバックしていく。

 そしてそのとき、ある一つの強烈な感覚に襲われた。

 というより、思い出した。

 

 撃ちたい、かめはめ波を。

 かめはめ波を撃ちたい。


 そう思った。


 思った瞬間また笑った。

 自分でも馬鹿げていると思った。この年になってかめはめ波の練習など本当に馬鹿馬鹿しい。

 ちょっと考えればわかることだ。

 自分はきっと相当頭が悪いのだと思う。

 かめはめ波の練習をするのはあるあるだが、大抵の人はせいぜい二、三回で辞める。

 本当に撃てるようになった人など一度も見たことは無い。というかいない。

 いるはずがない。現実世界では誰一人としてかめはめ波を撃てていないのだ。

 撃てるはずがない。

 理由は簡単だった。


 練習が足りないからだ。


 悟空やクリリンたちはすぐに撃てるようになったからみんな錯覚してしまうが、あれは、亀仙人の教えと、あふれる才能の賜物だ。

 本来かめはめ波は、亀仙人ほどの人物が50年かけてようやく撃てるようになるものなのだ。

 亀仙人の教えなしに、才能のない人間である私が、かめはめ波を撃てるようになるためには、それこそ50年では足りないくらいの修行が必要なはずだった。

 50年後は、82歳。

 ため息がでた。

 これはもう、一秒たりとも休んでいる時間はなさそうだった。


 私は、かめはめ波が撃ちたかった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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