最終 : ワールド・エンディング・プラネット
星誕の神殿 - 最奥の広間
レベル150という星王アストラの圧倒的な強さの前に
成すすべもなく追い詰められたリュウナ、アレン、リリスの3人だったが、
ゲームオーバー寸前に現れたもう1人のリュウナによって状況は一変。
同じくレベル150の冒険者と化した彼女は、
ラスボスと最後の一騎打ちに臨もうとしていた。
「アレン、リリス。ここは私に任せて」
リュウナは後ろを振り返り、アストラが放った一撃によって倒れている2人に言う。
回復すれば戦闘はできるのだが、それでは先ほどと同じ結果になりかねない。
だからこそ2人には、この最後の戦いを見届けておいてほしい。
彼女の想いを汲み取ったのか、
「あとは……任せたぜ、リュウナ!」
「負けないでね! 絶対だよ……!」
そう答えると、広間の入り口まで2人は後退していった。
あの位置ならば戦いに巻き込まれることもないだろう。
もう心配事はないと思ったのか、リュウナは改めて眼前のラスボスを見据える。
アストラは先ほどの構えから動いておらず、それが更に緊張感を煽っていた。
リュウナがふぅ、と大きく息をついて透き通った床をしっかりと踏みしめる。
ここはVR世界のはずなのに、まるで場を取り巻く空気は現実そのものかのようだ。
双方が剣を構えて動かないまま、数秒ほど静まり返った次の瞬間、
「――――――はぁぁっ!!!」
両者が同時がに突進し、激しく剣がぶつかり合った。
あまりに勢いがあったため、円状の衝撃波が軽く巻き起こる。
そのまま鍔迫り合う恰好になるが、この時点で力がほぼ互角ということがわかった。
ならば、あとは技の差で勝負が決まることになるだろう。
「さすがだな、冒険者よ。だが―――――!」
「っ!!」
薄く笑いを浮かべて称賛の声をおくったアストラだが、
突然姿勢を低くすると、勢いをつけてリュウナを押し飛ばした。
一瞬だけ力負けした彼女が体制を崩すと、その僅かな間にアストラが飛び退り
剣を頭上に掲げる構えをとった。直後に水晶の刀身が輝き出し、
「――――これを避け切れるか!!!」
その切っ先を離れた位置にいるリュウナへと向けた瞬間、
輝く刀身から、まるで機銃のような速さで光の刃が撃ち出され始める。
「くっ……!」
最初の数発は剣で弾き飛ばしたが、これでは埒があかないと考え、
即座に素早さ上昇のスキルを発動させると、刃を撃ち出し続けるアストラへ向かって
走りながら避け続けるという荒業に出た。
―――ドガガガガガガッ!!!
リュウナが走った軌跡をなぞるように光の刃が突き刺さり、
広間の床を次々と穿ってゆく。
あれほどの威力ならば、一発当たっただけでも危ないのは明らかだ。
さすがにもう一度同じ技を発動させるわけにはいかない。
「―――――そこだ!!!」
光の刃を全て凌ぎ切り、一瞬だけ攻撃が止んだ隙を見逃さずに
彼女はアストラに向かって剣を一閃させた。
―――ガキィンッ!!!
だがその一撃は、彼が咄嗟に構えていたもう片方の盾によって阻まれる。
もしや、自分が隙をついてくることも想定していたというのか。
その顔には不敵な笑みが浮かんでいるのが見える。
まさにそれは、ラスボスとして相応しい強さといったところだろう。
勝利か。敗北か。
彼女は今、そのちょうど真ん中に立っている。
ならば、勝って先に進まなければならない。
「何度も倒したとは思えない強さね……!」
「いつまでも倒されるだけとは、思わないで貰おうか……!」
互いに語気強めに言葉を発した後、同時に飛び退る。
それぞれが次の技に移ろうとするが、僅かにリュウナの方が速い。
姿勢を低くしてアストラへ飛び掛かると、
「――――インフィニティ・トラスト!!!」
目にも留まらぬ速さで怒涛の連続突きを放った。
その軌跡はもはや残像であり、アストラは盾で防御にかかる。
が、勢いに負けているのかその身体が徐々に後ろへと押され、
若干苦悶の表情が浮かんでいるようにも見えた。
「はあぁぁっ!!!」
連続突きを受ける最中、アストラはもう片方の剣と合わせて
身体ごと回転斬りを放つと、リュウナを大きく弾き飛ばす。
突きの勢いによる反動で、彼女の身体が宙を舞った。
その後リュウナが着地して、体制を立て直すまで数秒ほど。
しかし、その数秒の間でアストラは準備を終えており、
「――――大地に縛り付けられるがいい!」
素早い詠唱の後にそう言い放った。
ちょうどリュウナが着地した場所に黒い魔法陣が展開し、
発動した魔法が、瞬く間に彼女へと襲い掛かる。
「うあぁぁぁぁぁっ!!!!」
半径一メートルほどの重力場が展開され、
身体の自由が利かなくなったリュウナの悲鳴が響き渡った。
平衡感覚が一気に崩れ去ると同時に立っていられなくなり、
その場に倒れ込んでしまう。
なんとか顔を上げると、その隙を逃がすはずもないと
アストラが飛び上がりからの追撃を食らわせようとする姿が見えた。
「――――ぐっ……!」
こんな状態でまともに攻撃を食らっては間違いなく危ない。
重力場に打ちのめされる最中、力を振り絞って身体を転がすと、
直後に飛んできた剣の一撃を寸でのところで回避に成功する。
アストラが驚いた表情を浮かべている最中、転がった状態から
身体を起こすと、すぐさま斬撃を放ってみせた。
さすがに対応しきれなかったのか、まともに食らった彼にダメージが入る。
「……アレから抜け出すとは大したものだな」
「魔法でやられてちゃ、剣士の名が廃るからね……」
その後、体制を立て直した2人が再びぶつかり合った。
そうしたやり合いが何度も続き、その度に広間が穿たれ、
剣と剣がぶつかる音と互いが発した苦悶の声が響き渡る。
「やっぱ、強ぇよな。アイツはさ」
「そうだね。もう私達じゃ追いつけないかも」
広間の入り口で見守っていたアレンとリリスがボソッと言った。
彼女こそ2人が認めるゲーマーであり、冒険者なのだと。
その顔には若干の悔しさが混じった笑みが伺える。
今のリュウナと比べると無力ではあるが、それでも何か出来ることはないか。
目の前で繰り広げられる戦いを見ながら、2人はそう思う
――――ガキィンッ!!!
もう何度目かわからない、剣と剣がぶつかる音が広間に響き、
リュウナとアストラが、互いに離れた位置で対峙していた。
両者のダメージはもはや倒れる手前といってもいいだろう。
あと一撃か二撃か。それさえ決まればこの勝負は終わる。
「ここまで戦えたのは、何時ぶりだっただろうな……」
「貴方にとっては、毎日がそうだったでしょうね」
常に冒険者を待ち受ける最後のボスとして君臨した彼からしてみれば
戦わないという時はなかっただろう。
しかし今に限っては、いつものように戦っている最中で
彼を満足に至らしめる何かがあったのかもしれない。
それは、絶対の一手を投じた自分に食い下がる冒険者がいたからなのか。
それは、ゲームキャラでしかない自分を人間のようだと言う者がいたからなのか。
「この一撃に……全てを賭ける!!!」
「来い――――強き冒険者よ!!!」
鋭く叫んだリュウナが地面を蹴って突貫し、
アストラはそれに対して受けの構えをとった。
両者がぶつかるまで、時間にして1秒未満。
だが―――――――――
「……甘いぞ!!!」
アストラのそんな声が聞こえると同時に、剣を振る音が響く。
振り下ろされようとしていたリュウナの剣が、あと少しのところで
彼の振るった剣によって弾き飛ばされてしまった。
――――ガキィィィンッ……!
間延びした金属音の後、リュウナの手から剣が弾け飛んで宙を舞う。
勝負を急ぎ過ぎたか。彼女の表情が一気に焦りへと変わる。
剣がないからといって、他の攻撃手段をとることなどできない。
「しまった……っ!!!」
「これで終わりだ――――!!!」
ゲーム的な仕様なのか、弾き飛ばされた剣が落ちてくるまでは時間がある。
飛び上がって取ることもできるが、その間は完全な無防備だ。
それを知っているのか、アストラはすぐさま返しの剣で
リュウナにトドメの一撃を繰り出そうとしている。
ここで終わるわけにはいかないと、防御の体制を取ろうとしたその時、
「俺達のことを――――――――」
「――――忘れてもらっちゃ、困るよ!」
リュウナの後方から2人の冒険者の声が聞こえ、
直後に彼女の脇を斬撃と炎の魔法が通り過ぎていった。
それらを放ったのはもちろん、アレンとリリス。
回復し終えたばかりの身体で、渾身の援護攻撃を放ってくれたのだろう。
「――――何っ!?」
それらはアストラにダメージを負わせるまでには至らなかったが、
完全に不意を突かれた彼は、斬撃と魔法を同時に受けて大きく仰け反る。
「――――――今だ!!!」
リュウナが後ろを振り向く暇もなく、2人が叫ぶ声が聞こえた。
それに対して反射的に頷いた彼女はすぐさま飛び上がり、宙を舞う剣を掴む。
着地した直後、剣を両手で構えた彼女は全力でラスボスへと突貫。
そして――――――――――――
「――――――はぁぁぁぁぁっ!!!!!」
今、自分が持ち得る全ての力を込めた一閃を。
このゲームの中に生きる全ての人々の想いを乗せた一撃を。
冒険者リュウナは、放ったのであった。
一瞬だけ静まり返った神殿の広間で、2人の姿が擦れ違う。
鎧が砕け散る金属音が辺りに響き、2人のうち1人がゆっくりと仰向けに倒れた。
そして、ボスを倒した証―――――クリアリザルトが表示される。
リュウナは剣を仕舞うと、倒れているラスボスへと近寄っていった。
目はほぼ閉じており、既に息も絶え絶えだ。
彼の傍らには、鎧と共に砕けた水晶の刃が突き刺さっている。
「お前の勝ちだ、冒険者よ……。やはり我は……最後まで勝利を掴むことが、出来なかったか……」
どこか清々しい声で、アストラが言う。
そこには先刻までの執念のようなものは篭っていなかった。
リュウナは傍らにしゃがみ込むと、静かに目を閉じる。
「……貴方の中に生まれたその心が、どこかに転生できるのであれば」
そしてそっと胸に手をあてて、言葉を紡ぎ始めた。
まだ薄く開かれた金色の瞳が、その姿を見つめている。
「その先が、私達のような冒険者であることを願うよ」
そう語りかける彼女の言葉は、どこか優しげであった。
冒険者の言葉聞き届けたラスボスはふっと呆れたように笑うと、
「情けのつもりか……星王ともあろう我も、落ちたものだな」
今度こそ完全に目を閉じると、あとは動かなくなってしまう。
心なしかその姿は、いつも倒している時のようなものではなく、
何かをやり切ったかのような穏やかさがあるように思えた。
剣を支えにして立ち上がったリュウナは、大きく息をつく。
そう――――――――まだ、終わってなどいない。
余韻に浸るのは、この先に待つものを見てからだ。
ふと視線を上げると、広間の入り口からアレンとリリスが走ってくるのが見えた。
「やったな、リュウナ!」
「完全勝利、だね!」
ダメージはすっかり回復したようで、リュウナは2人とそれぞれ手を打ち合わせる。
アレンはふと、床に倒れているラスボスに視線を移した。
それからやや神妙な面持ちで、リュウナへと問いかける。
「アイツは最後に・・・・・・どんな顔をしていた?」
「笑っていた・・・・・・ように、私には見えたよ」
「・・・・・・そうか。アイツなりに、やり切ったってことか」
「私達冒険者に限りなく近い存在・・・・・・それが、星王アストラというボスだったのかも」
恐らく3人は、今後どのようなゲームにプレイヤーとして関わったとしても
彼という存在を忘れることはないだろう。
ゲームのキャラクターとして生まれながら、ゲームに対して叛逆しようとした存在。
それは同時に、今後のゲーム界隈がどう動いていくかの可能性も秘めている。
「私達にも冒険者としての正義があるけれど、アイツにもアイツなりの
正義ってのがあったのかもしれないね」
「・・・・・・そうだな。俺達のような正義の反対が悪とは、限らないからな」
彼に生まれた心の内には果たしてどんな正義があったのか。
それを知る由はもはやないが、いつかそれを知ることができれば。と、3人は密かに思う。
一同は広間を改めて見回すと、今度こそ神殿の更に奥へと目を移し、
「――――さぁ、行こう! エンディングが待ってるよ!」
リュウナの高々とした宣言と共に、冒険者3人は物語の結末へと進むのであった。
****
一週間後
全ての大本となっていた星王アストラが倒された後、
ゲーム全体の修復作業と異常データ復旧の為、
プラネット・ワールドは一週間という長期メンテナンスに入った。
もちろん一週間もの間プレイできないことに対して不満は出たが、
あの時の騒動を静めるために奮闘していたプレイヤー達が他プレイヤーの
説得などにあたってくれたため、炎上のような騒ぎにはならなかったようだ。
そして今日は、メンテナンスが明けてゲームが再稼動する日。
「お疲れ様でしたー! 今日はお先に!」
「おう、お疲れさん! 帰りは気を付けるんだぞー」
某都市のオフィスに声が響き、1人の編集記者―――――緋宮 杏子は自宅へ急ぐ。
つい先ほど、友人達からもメッセージが届いたため、待たせるわけにはいかない。
長期メンテナンス明けに合わせたアップデートもあるという話だ。
ゲーマーとして、ここは一番乗りしておかなければ。
「一週間もブランクあると、鈍っちゃわないか心配だなぁ」
などとぼやきながら、杏子は自宅への道を小走りで駆けている。
それと同時に、ここ一週間ほどであったことを思い返していた。
現実に、自分が操作していたゲームキャラクターが出てきたこと。
今思い返しても信じられないことのような気がしてならない。
・・・・・・ひょっとして、アレは夢だったのではないだろうか?
だが、それが夢などではないことを示すものがある。
ケータイのトップ画面で、自分の隣に銀髪ロングの女性が並んで映っているそれは、
紛れも無く彼女が経験した現実での出来事だ。
「厄介ごとに巻き込まれるのも、案外悪くなかったのかもね」
あのような事態を引き起こした彼に礼を言うわけではないが、
本来ならば決して出会うはずのない2人が出会った事実には感謝しておくべきだろう。
ゲームのキャラクターと出会うなど、ゲーマーの夢の最高潮ともいえる。
ほどなくして自宅にたどり着いた杏子は、
いつも通り急ぎ足で家事を終わらせると自室へと向かった。
ちょうどメンテナンスが終了したのは、ついさっき確認済みだ。
ベッドの上においてあるVRデバイスを手に取ると、すぐさま身に付ける。
そしてすぐさまベッドに寝転がると、
「準備OK! いざ、あちらの世界へ!」
いつもより数割増しの掛け声と共に、デバイスを起動。
仮想世界へのダイブが始まり、部屋は数分前と打って変わった静けさに包まれた。
キィンッ! シュウゥゥゥ・・・・・・
ログインに成功した彼女はワープの音と共に、
プラネット・ワールド中央都市のメガロシティへと舞い降りる。
周囲を見ると、続々と他プレイヤーもログインしてきているようだ。
その中でリュウナはすぐに見知った顔を見つける。
「アレンにリリス。お待たせ!」
大柄な男性キャラと小柄な女性キャラに声をかけると2人は振り向き、
こちらに向かって手を振り返してきた。
「よぉ! ゲームを救った英雄のご登場だな!」
「やっほー! 私達のヒーロー!」
「や、やめてよ2人とも! 私はラスボス倒しただけなんだし」
全く悪気のない笑顔でからかってくるアレンとリリスに、
リュウナは照れ笑いを浮かべながら首をぶんぶんと振ってみせる。
そう――――――本当に自分は、彼を倒しただけだ。
それにどちらかというと、功労者は2人のような気もしている。
あの時の援護がなければ、自分は負けていたかもしれないのだから。
「いいじゃねぇか、とりあえず受け取っとけって!」
「そうそう! 減るものでもないんだしー」
やはりこの2人には敵わないな。と、リュウナは密かに苦笑。
付き合いが長いからこそだろう。これ以上色々言うのは野暮というものだ。
彼女は肩を竦めると、改めて2人の方を見た。
「―――――さて、今日はどこに行く?」
「どこでも付き合っちゃうよ!」
さっそくと言わんばかりにアレンとリリスが催促をする。
自分も大概だが、やっぱり2人もゲーマーなのだなとリュウナは思った。
そして彼女は一呼吸置いたのち、高らかにこう宣言する。
「行こう! ――――――次なる冒険の舞台に!!!」
星の冒険者達の物語は、こうして新たな始まりを迎えたのだった。
FIN...




