15 : 2つの星が重なる時
星誕の神殿 - 最深部
街にモンスターが襲来するという、星王アストラが投じたと思われる
次の一手を掻い潜り、閉鎖状態にあったストーリー最終章の場所。
星誕の神殿へとリュウナ、アレン、リリスの3人はやってきていた。
「……さっきまでの騒ぎが嘘のような静けさだね」
水晶状の物質で作られた神殿を見回しながらリュウナが呟く。
今この瞬間にも、各地の街では冒険者達が奮闘していることだろう。
それと対照的に、この場所は静まり返っており、
まるでここだけ切り取られた別世界であるかのような感じだ。
「あとのことは俺達に託されてるんだ。今更退けないぜ?」
「ここで成し遂げたら勲章ものだよ!」
「そうだね。私達が、やらなくちゃ」
ストーリーがあるのなら、エンディングを迎えなければならない。
ゲームがあるのなら、クリアしなければならない。
ゲーマーとしての信念と冒険者としての覚悟が、それぞれの言葉に篭る。
この先に待つ者はその両方を否定する存在だ。
奥にある広間へ一歩近づいていく度に緊張が走る。
既に威圧感が伝わってきているかのようだ。
いつもは砕けた表情をしているリリスでさえ、真面目な表情をしている。
それほどまでに、星王アストラというラスボスは異質な存在だということだ。
階段を登りきった一同は、最奥の広間へと到着する。
「……」
そこには以前と変わらぬ姿のラスボスが。
星に粛清を与える者が、じっと佇んでいた。
「……ここまでの抵抗を見せるとは、予想以上だったぞ」
静かに口を開いたアストラは、対峙する3人に向かって言う。
今までは表情ひとつ変えなかったが、少しだけ変化が見られた。
「生憎、ゲーマーっていうのは諦めが悪い生き物なのよ」
「あくまで、この先に待つ終着点を目指すか」
「クリア出来なければ、それはゲームですらないもの」
少し意地の悪い笑みを浮かべてリュウナが答える。
自分達はクリアを目指しているのだ。それを阻む者を放置してはおけない。
だからこそ、キャラクター削除という障害を乗り越えてまで
この場所に戻ってきているのだから。
そして、彼女にはどうしても気になっていることがあった。
「星王アストラ。どうして貴方は……こんな事をしたの?」
森林のクエストで初めて出くわした時、彼は創られた結末を認めないと言っていた。
それからモンスターの内容や強さの改変などを起こさせ、
挙句の果てにはキャラクターをゲームから弾き出すということまでやっている。
その行動が、自分がラスボスとして倒されてしまう結末にたどり着かせない為というのは
分かってはいるものの、他に理由がある気がしていたのだ。
すると彼は目を閉じ、静かな口調でこう語る。
「物語ゆえに……我は最後に勝つことが許されない。
そうして数多の冒険者と対峙して負けを繰り返すうちに、
我の内に、勝利への願望という確かな感情が生まれていた」
3人にはなんとなくだが、わかる気がした。
誰だって負け続ければ勝ちたいと願うものだ。
それは、ゲームキャラクターであっても変わらないということだろう。
「だが、これはゲームなんだ。俺らが勇者で、お前が魔王。
そう作られてるから、この中ではそれに従うしかない」
ゲームだからルールは必ず存在する。
このプラネット・ワールドにおいては、星王アストラというラスボスが
最後に君臨し、それが倒されて終わるというのがルールだ。
もしその前提が覆っていれば、どのゲームもめちゃくちゃになっている筈だ。
「貴方が最後のボスとして倒されることでゲームは成り立っている。
冒険者はそれを目標として、楽しんだり苦労したりしてるんだよ」
「そういう意味では、ラスボスである貴方は無駄に倒されているわけじゃない。
たどり着く場所という目標を、冒険者に与えているとは思わない?」
単純にそこにいるだけの敵なら、倒すことに深い意味などない。
だが目の前にいるのはこのゲームのラスボスだ。
たどり着くという目標があるし、倒すことが出来れば達成感だってある。
リュウナ達のような熟練冒険者にとっては、腕を磨く相手にだってなりえる。
一同の言葉を聞いたアストラはふっと笑いを溢した。
「我が目標、か……或いはそうなのかもしれないな。
だが我にもたった一度の、譲れない勝ちは存在する」
最後には倒される目標としてそこに在り続けたラスボスが、
ただ一度だけ望んだ自身の勝ちという結末。
それが、ゲームのキャラクターとしてこの世界に生み出された彼の叛逆。
ゲームから逸脱した存在だとは思っていたが、
これではまるで、自分達プレイヤーと同じではないだろうか?
「ラスボスとしてではなく、プレイヤーとして貴方と出会えていたら……。
もっとわかりあえていたのかもしれない」
そう言ったリュウナの声は少し寂しげだった。
バグか不具合か、或いは他の何かか。
どうして彼が逸脱した存在になってしまったかはわからないが、
今の彼が1人のプレイヤーとしてこのゲーム世界に存在していたならば、
もしかすると、自分達と冒険を共にしていたかもしれない。
「その仮定は無意味だ。我はお前達冒険者に対する、最後の壁として立ちはだかる存在。
そして今こそ、数多の敗北を乗り越えて我は勝利を掴む」
アストラは力強い語気でそう言い終えると、頭上へ手をかざした。
その瞬間、彼の纏う服と同じ作りをした装備が光と共に出現し、全身を覆う。
水晶のように透き通った刀身の剣を一度振るってみせた。
同時に物凄い闘気が溢れだし、3人は思わず身構える。
「……始めようか。星の冒険者達よ」
それを見た彼は、静かに言い放つ。
ここから先は、もはや後戻りなど許されない。
リュウナ、アレン、リリスもそれぞれの武器を構えた。
戦いを前にして、神殿の広間がより一層と静けさを増す。
互いの間に、時が止まったかのような空気が流れる。
その空気を先に打ち破ったのは―――――星王アストラであった。
輝きを放った水晶の刃をその場で大きく一閃させ、
―――――グオォォッ!!!
ただ振っただけとは思えない規模の衝撃波を繰り出す。
近距離で対峙していた3人はそれをまともに食らってしまい、
数メートルほど後ろまで押し戻されてしまった。
寸でのところで防御していたからダメージは少なかったものの、
「以前とは比べ物にならないほど、強くなってる・・・・・・!?」
何度も戦っているからこそわかるハッキリとした驚きが、リュウナの口から漏れる。
確かに最後のボスだけあって強いのは当たり前ではあるのだが、
衝撃波の一撃で3人が押されるほど、とてつもない相手ではなかったはずだ。
「任せて! すぐに私のスキルで能力解析を―――――っ!?」
体制を立て直したリリスはすぐさまスキルを発動し、
目の前にいるラスボスの強さを測ろうとした。
しかし、発動直後に彼女の目が驚きのあまり見開かれる。
「リリス! 一体何が見えたんだ!?」
解析スキルを発動して固まってしまったリリスを見て、
アレンは思わず肩を掴んで揺さぶった。
その肩は心なしか、若干震えているようにも感じられた。
「嘘でしょ・・・・・・レベルが、150・・・・・・!?」
小さな声でそう告げた彼女の言葉を聞き、2人もまた驚きを隠せなくなる。
このゲームにおける最高レベルは100だ。
それはプレイヤーであっても敵であっても変わらない。
そして元々、星王アストラのレベルは100だったはずだ。
異常な強さの原因は、間違いなくこれだろう。
目の前にいるラスボスは、自分達の1.5倍近い強さに変化している。
これも彼がプラネット・ワールドの世界に干渉した結果だというのだろうか。
「・・・・・・成長するのは、冒険者だけではないということだ」
一閃させた剣を再び構え直したアストラが言った。
レベルが変わらないはずのゲームキャラクターである彼は、
自らを成長させることで勝ちにきているのだろう。
「やはり貴方は、冒険者として生まれるべきだったかもね」
少し呆れたような笑いを浮かべつつリュウナが言う。
ようやく落ち着いたのか、リリスもアレンと共に身構え直した。
ここまでレベル差が開いているのならば、個々の攻撃は無意味だ。
3人は互いに頷きあって確認すると、同時に動き出した。
「――――シャイニング・クロスブレード!!!」
リリスの最上級光魔法の力を受け、リュウナとアレンによる斬撃が炸裂する。
光の刃は十字の軌跡となり、アストラへと襲い掛かった。
単体相手の連携としては最高クラスの威力を誇る技だ。
これぐらいやれば、手痛い一撃を与えるぐらいはできるはずだろう。
だが――――――――。
「その程度では・・・・・・勝ちなど掴めぬ!!!」
そんな声が聞こえた後、斬撃による光が収まると、
そこに立っていたのは、少ししかダメージを受けていないアストラの姿。
3人が驚いている暇もなく、彼は反撃へと転じ始める。
突進しながら剣を振りかぶった先にいたのは、後ろで魔法の詠唱をしていたリリスだ。
「ぐっ・・・・・・! やらせるかよ・・・・・・!」
寸でのところで間に割り込んだアレンが、その一撃を辛うじて受け止めた。
盾クラスであるはずの彼ですら防ぎきれないほどの衝撃が襲う。
同時に、レベル150という異質な強さがいかなるものかを思い知らされた。
「ここは私が抑える! リリスは詠唱の続きを!」
アレンが盾でアストラを何とか弾き飛ばすのと入れ替わりに、リュウナが斬りかかる。
さすがに不意を突かれたのか、僅かながらのダメージを与えたようだ。
だが、すぐさま体制を立て直すと、彼女の高速連撃を弾きにかかる。
このままだと数秒で力負けしてしまうだろう。
リュウナの顔に苦悶の表情が浮かんだその時、
「――――アトリビュート・レイ!!!」
後方にいたリリスの魔法詠唱が完了し、即座にそこから飛びのいた。
宙に浮かんでいる彼女の周囲に七色の魔法陣が出現し、
全ての属性を纏った光の弾が一斉に撃ち出される。
これは現状、魔法クラスとしてリリスが扱える最上級の魔法だ。
自身めがけて飛んでくる光弾に反応したのか、
アストラはそれに対して正面から構えるような体制を取った。
「――――はあぁぁぁぁぁっ!!!」
彼は両手を目の前にかざして力を集中し始めると、
わずか一瞬の間にとてつもない力の奔流が出来上がる。
そして、リリスの魔法が命中するかと思われたその瞬間、
―――――ドゴォォォォーーーーッ!!!
何かが大爆発を起こしたかのような激しい音と共に光が巻き起こり、
七色の光弾もろともそれらを飲み込んだ。
リリスの発動させた魔法よりも広い範囲を覆うように撃ち出された光の波動は
後ろに下がったアレン。詠唱を終えたばかりのリリス。
アストラの斜め前方へ飛び退いていたリュウナへと襲い掛かる。
「ぐあぁぁぁーーーーっ!!!」
「っ!? ――――きゃああぁっ!!!」
「うわあぁぁっ!!!!」
成すすべもなく波動に飲み込まれた3人は大きく吹き飛ばされ、広間後方の壁へと叩きつけられた。
辛うじて起き上がろうとするも、ダメージが大きすぎてまともに動けない。
もはや、回復をしている手間すらないほどだ。
これほどまで圧倒的な相手になっているとは、まるで大人と子供の戦いではないか。
「――――これが、我の本当の力だ」
剣を構えたアストラがこちらに近づいてくる姿が見える。
もし次の攻撃を許したら、確実にゲームオーバーだ。
自分達がここで負けてしまえば、彼は次なる一手に乗り出すことだろう。
そうなるともはや、止めることが出来るのかすらわからない。
「こんな、ところで・・・・・・」
負けるわけにはいかない。
負けてしまえば、このゲームはラスボスが勝利した物語となる。
敵が勝利する物語のゲームも中にはあるが、このゲームはそうではない。
冒険者が最後に勝利して終わらせなければならないのだ。
「今こそ我は、この結末を変える―――――――!」
倒れている3人へ向かって、星王アストラが最後の一撃を繰り出すべく突貫した。
あと数秒の後に、冒険者達の敗北は確実なものとなってしまうだろう。
そして現実世界にいる1人の冒険者も、二度と戻ることはなくなる。
(リュウナ・・・・・・!!!)
自分であり、彼女のものでもある名を、リュウナは心の中で無意識に叫んだ。
エンディングを見せると約束した言葉がふいに思い返される。
もちろんそれは、こんな終わりであっていいはずがない。
ラスボスの姿はもう目の前まで迫っている。これでは、防御する暇さえない。
ここまでか。と、目を瞑って諦めかけたその時―――――――――――。
―――――――ガキィィンッ!!!
剣同士がぶつかったような金属音が、突如として広間に響き渡った。
もしや、アレンが攻撃を防いでくれたのだろうか?
いや――――――彼は自分の後方で倒れているから不可能な筈だ。
恐る恐る目を開けて前を見ると、
「――――――勝って結末を見たいのは、こっちも同じだよ」
そこに立っていたのは、自分と同じ姿をした剣士。
振り下ろされた水晶の刃を受け止めている、冒険者リュウナの姿があった。
頭上に目をやると、そこから空間が割れて光が漏れ出ているのが見える。
そこから何かが――――――――いや、彼女が現れたのは明白だった。
リュウナが本当に驚いた顔をしていると、彼女はこちらを振り返る。
「・・・・・・貴女の声、確かに聞こえたよ。ありがとう」
そう言って微笑むと、あらん限りの力でアストラを押し飛ばした。
さすがに想定外だったのか、彼も驚いた表情をしている。
「よもや舞い戻ってくるとはな・・・・・・驚嘆に値するぞ、冒険者よ」
「お褒め頂いてどうも。こんな負けイベント、見てられなくてね」
意地の悪い笑みを浮かべ、アストラをまっすぐと見据えた。
本来ありえないレベル150の相手だ。例えとしては妥当なものだろう。
そしてそんな負けイベントに駆けつけたのは、
強い想いによってこの世界へと舞い戻ってきたもう1人の冒険者。
レベルはもちろん100。今のリュウナと同じ強さである。
そんな彼女の思惑を読み取ったのか、
「・・・・・・まぁ、今のままじゃ勝てないよね。
だから―――――――――」
もう1人のリュウナはそう言うと、彼女の手を取ってみせた。
すると、眩しい光が瞬く間に身体を包み始める。
いや―――――――2人の身体そのものが、光を放っているのだ。
「―――――あとは貴女に託すよ、杏子!」
自分の名を呼ぶと同時に光が弾け、2人の冒険者の身体が1つに重なる。
残してくれた言葉を噛み締めるように、彼女は胸に手を当てて小さく頷いた。
そこには、確かな力が宿っているのを感じ取れる。
「リュウナが・・・・・・あいつと同じ、強さに・・・・・・!?」
「この土壇場で、やってくれるじゃねぇか・・・・・・!」
後ろで倒れているリリスとアレンが驚く声が聞こえた。
目の前で対峙しているアストラもまた、小さく驚きの声を漏らす。
だが決して慌ててなどおらず、改めて剣を構え直してみせる。
「これが、最終決戦よ! 星王アストラ!
ゲーマーの真骨頂ってモノを見せてあげるわ!」
リュウナも鋭い掛け声と共に剣を構えた。
今こそこの物語を、あるべき姿で終わらせるために。
「ならば・・・・・・我に打ち勝って見せるがいい!」
――――――――レベル150の冒険者とレベル150のラスボス。
ゲームとしての当たり前を超越した者同士。
本当に最後の戦いが、ここに幕を開けたのであった。
いつも読んで下さっている方々、ありがとう御座います。
次話で本作品は最終話となりますが、少し時間を頂くので
投稿は金曜日の18時頃を予定しております。
作品あとがきもその時に続けて掲載させていただきますので、
最後までどうぞよろしくお願い致します。




