13 : 来るべき戦いへ
翌日 - 近辺都市内
杏子は本日、外回りの取材があるためあちこち出歩くことになるのだが、
ゲームキャラであるリュウナではプラネット・ワールドにログイン出来ないし
だからといって家で留守番というのもどうかと思ったのか、
彼女も仕事に同行することになっていた。
ただ、さすがにずっと付いてるわけにもいかないので、
取材をしている間などは外で待機なのだが。
それというのも、昨日改めてリュウナの姿を間近で見たのもあり、
ゲームのキャラクターとして洗練されている彼女の見た目は
この現実世界においてはどうしても人目を集めてしまう。
「なんか、凄い視線を感じるんだけど……」
取材先に向かう際に街を歩いている間、自身に向けられる視線に
リュウナは四苦八苦せざるを得なかった。
杏子はいつもの黒ジーンズに同色のシャツを着ており、
その上から薄手の白い上着を羽織った少し地味な恰好だ。
取材する相手を立てなければならないので、このぐらいは当然である。
「私の私服だし、目立つ格好ではないはずなんだけどねー……」
苦笑交じりに言った杏子は、横を歩くリュウナの姿をチラッと見た。
白ジーンズにキャラクター物の長袖シャツ。
黒系のパーカーを羽織っており、頭には同色のつば広帽子を被っている。
ゲーマーとしての性分なのか、杏子自身あまり派手な格好は好きではない。
リュウナが着ている服も当然派手とはいえないのだが……
帽子を被っていてもわかる、長く伸びた輝かしい銀髪。
そこから垣間見える端正な顔立ち。スラッとした長身。
完璧な変装でもしていない限り、隠しきることは出来ないだろう。
これはさすがにどうしようもないも思ったのか、
「……ま、なるようになるでしょう。
もしナンパとかされても、貴方なら大丈夫だろうし」
リュウナの肩を叩いた杏子は、頑張れとでも言いたげな表情を送る。
それに対して彼女は、やれやれといった感じで小さくため息をついた。
ゲームの中では杏子が頑張っていたのだから、
現実世界では逆に自分が頑張るべきだろう。
「まぁ、何とかはしてみるけれど……。
然るべき時にはちゃんと口裏合わせてよ?」
「大丈夫大丈夫! 外国人の友人ですみたいに言っておけば
よほどじゃない限り疑われないって!」
「その自信はどこからくるんだろう……さすが私」
色々と感心しつつ、2人は街を歩き続ける。
ほどなくして目的地の建物が見えてくると、
杏子は気合を入れ直し、仕事道具一式を取り出した。
ここからは、雑誌編集記者としての世界である。
もちろんリュウナは一緒に入ることはできないため、
「それじゃあ、行ってくるね!」
と言って、自分のスマホを彼女に手渡しておく。
仕事用にもう一台持っているため、もしもの連絡用だ。
もっとも、そのもしもは起こってほしくなどないが。
「頑張ってね。私は大人しくこの辺りで待ってるから」
スマホを受け取ったリュウナは微笑んでそう返すと、
建物の中へと入っていく杏子を見送るのであった。
―――――それから約1時間後。
無事に取材を終えた杏子が建物から出てくると、
壁に寄り掛かる格好で、リュウナが待っていた。
見たところ、何か厄介ごとに巻き込まれた感じもなさそうだ。
と、思いきや―――――。
「お待たせ、リュウナ! ところでさっき、
パトカーみたいな音が―――――」
「――――え? ああ、うん……。
しつこい人がいたからちょっと、ね」
……どうやら、何かに巻き込まれていたようだ。
室内で取材をしていた最中、すぐ近くの道路をパトカーが
通り過ぎていった音がしたのは気のせいではなかったらしい。
どこの誰かは知らないが、手を出した相手はさぞ驚いたことだろう。
容姿と裏腹に、とんでもなく腕の立つ女性が相手だったのだから。
心の中で静かに合掌しておき、リュウナからスマホを返してもらう。
あとは職場へと戻って取材内容をまとめるだけだ。
時間的には昼を少し過ぎており、夕方まではまだ時間がある。
果たしてこのままついてきてもらうべきか否か。
職場仲間に彼女の存在を知られると、話がややこしくなってしまうが……
「先に、家に帰ってようか?」
杏子の思惑を察したのか、リュウナが帰宅を提案する。
確かに、今から夕方までならば家で待っていても大丈夫だろう。
そんな彼女にとりあえず甘えておこうと考えたのか、
「それじゃあ……家事とかもやっといて欲しい!」
と言ってみたところ、あっさりと了承された。
今日もあっちの世界でせわしなく動くことになりそうではあるし、
先に色々片付けておいてもらえるのは助かる。
リュウナ自身も、それをわかっているのだろうか。
「貴方は私、私は貴方。こういう時は一蓮托生だからね。
私があっちで何も出来ない分、身の回りのことはやらせてもらうよ」
「ありがとう、助かるよー。さすが私!」
2人はお互いに顔を見合わせて笑うと、
それぞれ別方向へと歩き去って行くのであった。
****
その夜 - プラネット・ワールド内
「―――――どぉりゃぁっ!!!」
掛け声と共に大型剣が振るわれ、直後に何かが砕け散る音が辺りに響く。
つい昨日から始まった石碑探しと破壊は順調に進んでいるようで、
リュウナ・アレン・リリスの3人はワールド内各地を巡っていた。
「しっかしまぁ、全部でいくつあるんだろうな。
結構な数片付けてきたからそろそろ終わってもいいとは思うが」
「もし全部アストラが仕掛けたものだとしたら、私達が気付くよりも
かなり前から行動を起こしてたってことになるよね」
件の石碑探しは彼女らだけではなく、それぞれのフレンド達も協力のもと、
かなり大規模な作戦として動いているらしい。
話がややこしくなってしまうので、リュウナが現実に弾き出された話は伏せ、
悪質なクラッカーがバグの原因をフィールドに振りまいているという感じで
上手く皆を誘導してみせたようだ。
「話を聞く限りだと、現実世界のリュウナは大丈夫なのかな・・・・・・?」
「彼女が言ってた妙な感覚は相変わらずだとは思うけど・・・・・・。
そこは覚悟を決めてるって言ってたから、きっと大丈夫だよ」
「あっちにいるお前も、お前だしな。心配いらねぇさ!」
今日のログインから今に至るまで、既に3つほど石碑を破壊しており、
フレンド達も動いているとなればもっと多くが破壊されているだろう。
その度にリュウナがあの感覚に苛まれているとすれば少し気負ってしまうが、
止めてしまっては、本当にこちらに戻れなくなってしまうかもしれない。
アストラが次の一手を仕掛けてこないとも限らないし、急ぐのが得策だ。
「よし、一旦メガロシティに戻ってみよう!」
リュウナが提案すると2人とも頷き、転移術式を発動。
白い光に包まれた後、すぐさま街のワープポイントへと戻ってきた。
周囲を見回すと、どうやらフレンド達も帰ってきているようだ。
軽く挨拶を交わしてギルドオフィスの方へ歩いていくと、見慣れた人影を見つける。
「GMさん! 今日も来てたんですね」
トッププレイヤーのリュウナ達とは何かと縁のある、運営サイドのGMキャラだ。
ギルドの近くにいたということは、彼女達を待っていたのだろうか?
「こんにちは、皆さん。リュウナさんのプレイヤーから報告を受けまして、
改めてお話を聞かせて頂ければと思い、来させて頂きました」
「付き合いの長い俺らからしても突拍子のない話だったが、
仮にもGMのあんたが信じちまっても大丈夫なのか?」
「だからこそ、ですよ。近年はゲームもAIも格段に進歩していますが、
予測不可能な事態は必ず起こります。これはその1つだと考えていますので」
GMはあくまで冷静に、客観的な態度を崩さない。
というよりこのぐらいの器量でなければ、世界中で展開している
大規模オンラインゲームのGMなど勤まらないということだろう。
リュウナが現在までの経過を話して聞かせると、
さすがに驚いた表情はしていたが、それでも手元の端末に打ち込む手は止めていない。
「・・・・・・なるほど。前回のメンテ時からこちらでも調査をしてはいましたが、
フィールドの各地で、仕様にないオブジェクトは確認されていました」
「それが、私達が破壊して回っている石碑ってこと?」
「恐らくそうでしょうね。あれが、このゲームにおけるVR空間に
なんらかの干渉を及ぼしている可能性は大いにあります。
あとは、ラスボスキャラである星王アストラについてですが・・・・・・」
GMは一旦そこで言葉を切ると、こう続ける。
「既に、ブラックボックス化してしまっているようです。
リュウナさん達の話の通り、ゲームのキャラクターを超えた何かに
昇華してしまっていると考えてよいでしょう」
運営サイドであるGMが、彼が異常存在であることを認めたのだ。
メンテナンスを経ても尚、解消することが出来ないブラックボックス。
それは、ゲーム外からではなくゲーム内から行動を起こして
止めなければならないことを暗に示していた。
「倒して止めろ、ってことか・・・・・・まさにゲーマーの仕事だな」
「プレイヤーの皆さんに頼ることになってしまうのは、
運営として心苦しいと同時に情けない話ではありますが・・・・・・」
「ゲームはみんなで支えていくものだよ!
運営やGMさんばっかに苦労はかけてられないって!」
リリスが励ますと、GMは深々とお辞儀をしてみせる。
運営だって万能なわけではない。ゲームを楽しいものにするには
プレイヤーである自分達の力だってきっと必要だ。
ひとまずこれで報告は終わったので、3人はその場を去ろうとしたが
まだ伝えることがあったのか、GMがそれを呼び止めた。
「皆さんに、これをお渡ししておきます」
GMはそう言って手元の端末を操作し始めると、
電子音が短く響き、周囲に淡い光が出現する。
3人を取り巻くように回転した後、すぐに消えてしまった。
一同が不思議そうな顔をしていると、端末を仕舞った彼が説明する。
「再びかのラスボスに挑まれる際、リュウナさんと同じ現象になる
可能性を考慮して、こちらで対策を施させて頂きました。
キャラクターの強制削除などは、これで防げるはずです」
いわゆるGMコマンドというヤツだろうか。
実際に目にするのは初めてなので、3人は驚く。
先日リュウナがアストラに挑んだ際に受けた攻撃が
ゲームからのキャラクター強制削除だったとするならば、
それを防げるのはかなり大きい。
どの道、絶対にあと1回は戦わなければならないのだ。
戦う前に全員退場などという最悪の展開は、あってはならないだろう。
「ありがとう、GMさん」
「皆さんの苦労に比べたら、大したことはありませんよ。
ラスボスエリアは未だ閉鎖中ですが、然るべき時に再び開放します。
その時は、よろしくお願い致します」
「あぁ、任せときな!」
「お互いに頑張ろうね!」
それぞれ礼を言ったのを見届けると、GMは一礼を返してログアウトしていった。
あちらはあちらで、別の仕事が待っているのだろう。
やはり運営関係者というのは大変だ。3人は、改めてそう思う。
「よっしゃ! 俺らも残りを片付けちまうか!」
「そうだね、行こう!」
「おーっ!」
アレンの掛け声に、リュウナとリリスは互いに手を打ち合わせた。
恐らく、終わりはすぐそこまで来ているだろう。
来るべき決戦にだって備えなければならない。
決意を新たに3人の冒険者は、街を後にするのであった。




