08 : 閉鎖されたエンディング
メガロシティ - ギルドオフィス
つい先ほど、ラスボスへ向かう冒険者を送り出した建物内は
なんだかいつもより、活気付いているような感じがした。
初めてストーリーの終わりを迎える冒険者もいれば、更なる強さを求めて
飽くなき挑戦へ向かう冒険者もいる。
そんな者達を分け隔てなく迎え、送り出していくのがこのギルドオフィスだ。
「~~♪」
数多くいるギルドの受付嬢の中でただ1人、楽しそうに鼻歌を歌いながら
仕事に勤しんでいるレイナも間違いなくその一員だ。
「リュウナさん、早く帰ってこないかなー」
冒険者の前ではまず見せない、無邪気な少女のような表情を見せる。
自分が送り出した冒険者には、必ず無事で帰ってきて貰いたい。
それこそが、ギルドを預かる受付嬢としてこれ以上ない望みでもある。
もう1時間ぐらいは経つだろうか?
彼女ぐらいの腕前なら戻ってきてもいいぐらいの頃合だろう。
そんなことを考えていると、
「――――――――レイナさん! いる!?」
ギルドオフィスのドアが勢いよく開き、足早に誰かが入ってきた。
開口一番に名前を呼ばれた彼女は驚いてドアの方に目線を移す。
そこに立っていたのは、
「リュウナ・・・・・・さん・・・・・・?」
長い銀髪に剣士の服を纏ったキャラクター。頭上には<リュウナ>と表示されている。
姿や名前こそ、彼女がよく知る冒険者と同じなのだが、決定的に違うことがあった。
キャラクターレベルが1。つまり、初期ステータスなのである。
上手いことキャラクタークリエイトを行えば、誰かとそっくりの姿は作れるし、
なりすましによる迷惑プレイヤーなんていうのもさほど珍しくはない。
もしかして、目の前にいる彼女がそうなのではないか?
そういった疑念が先に浮かんでしまったため、レイナの顔は若干訝しげだ。
入ってきた彼女もそれを分かっていたのか、
「・・・・・・まぁ、そういう反応になるのは当然だよね。
ちゃんと説明するよ。実は―――――――」
レイナが仕事をしている机の向かいに座ると、
至極真面目な顔で事の顛末を説明し始める。
それは当事者以外からしてみれば突拍子もない内容だったが
話を聞いているうちに信用してくれたのか、
先ほどまでのような表情はすっかり無くなったように見えた。
この初期ステータスのリュウナというキャラクターだが、
何を隠そう、緋宮 杏子が急遽作成したサブキャラクターだ。
そしてメインキャラクターの方は、今頃ゲームの外であれやこれやと
手を回してくれている最中だろう。
ゲームの内と外で同じ容姿で同じ名前のキャラクターが
同時に動いている状況というのは、後にも先にもこれっきりかもしれない。
「そんなことが・・・・・・あったのですね・・・・・・」
リュウナがひとしきり話し終えると、レイナは口を両手で覆い、
心底驚いたような表情を浮かべていた。
無理もないだろう。ついさっきラスボス討伐へ出かけていった冒険者が
レベル1の新規キャラクターになって戻ってきたのだから。
「今の私がこんななのはひとまず置いておいて。
これ以上、被害を増やさないようにするのが最優先だよ」
「・・・・・・どうすれば、いいのでしょうか?」
「一番手っ取り早いのが、ラスボスへの進路を閉鎖することだけど・・・・・・
レイナさん、私の後で同じクエストに出かけた冒険者はいる?」
「いえ、幸いなことに先ほど以降は誰もいらっしゃいません」
「とりあえず次の犠牲者はまだ出てない、か。でも時間の問題ね」
こうしている間にも、ひょっとしたらストーリーの最終クエストを
受ける冒険者が出てくるかもしれない。
そうなればきっと、あの星王アストラと戦うことになってしまい
気付いた時には現実世界へキャラクターと共に逆戻りだろう。
「そろそろ、メインキャラの方の私が動いてくれてるはずだけど・・・・・・」
今頃、現実世界では彼女が運営に報告なりをしてくれているはずだ。
先日GMに報告した件もあるし、何とか信じてもらいたい。
ラスボスに挑んだらキャラクターが消えた不具合。という触れ込みならば
重篤度は相当高いはずなので、報告さえいけばすぐに動いてくれるだろう。
と、その時―――――――――。
『全プレイヤーへお知らせ致します。特定クエスト内部にて
重篤な不具合が確認されたため、緊急メンテナンスを実施致します。
誠に申し訳ありませんが、速やかなログアウトをお願い致します」
シティ中に、運営によるアナウンスが鳴り響いた。
それを聞いたリュウナは、ほっと胸を撫で下ろす。
「ひとまず、最悪の事態だけは避けられそうね」
「私達も精一杯対処いたします! リュウナさん、それではまた」
「うん。またね、レイナさん」
次々と周囲のプレイヤーがログアウトしていく中、2人は一時の別れを告げた。
****
翌日 - プラネット・ワールド内
メンテナンスは滞りなく終わったようで、
リュウナは再びギルドを訪れていた。
具体的に、どのような対策が施されたかなのだが、
「クエスト最終章の受注不可、か……まぁ判断としては妥当だね」
ハッキリとバツ印で示されたストーリークエストの名前を見て、リュウナが言う。
つい先刻彼女がラスボス討伐のために向かい、謎の攻撃によって返り討ちにされたクエスト。
とりあえずこれならば、こちらから出向いて同じ目に遭わされることはないだろう。
しかし良い事ばかりではないのか、
「えー? ラスボスのクエスト行けないのかよー!」
「重篤な不具合っていうから何かと思ったら、まさかのラスボスとか……」
「やっと初めてのエンディングが見られると思ったのにー」
ギルドオフィスを訪れている他の冒険者からは不満の声が漏れている。
こればかりは仕方がない。
根本的な原因がわからない以上、今はこうするしかないのだから。
「当事者じゃないから仕方無ぇんだが、好き勝手言ってくれるよなぁ」
「ほんとほんと! おかげでリュウナがこんなになっちゃってるのに!」
「まぁまぁ、2人とも。私なら大丈夫だから、ね?」
外にいる方のリュウナから連絡を受けて駆け付けてくれたのか、
彼女の向かいにはアレンとリリスがいた。
2人にも同じように説明をしたのだが、疑いの色一つ見せずに信じてくれたようだ。
ただ、謎の肩身の狭さが、先ほどからリュウナに圧し掛かっているようで、
アレン Lv100(MAX)
リリス Lv100(MAX)
リュウナ Lv1
その正体は悲しいぐらいに開いている、レベルの差であった。
今までは自分が2人を守っているぐらいの立場だったのに、これでは格好がつかない。
「リュウナが襲われたら、私が守ってあげるんだからっ!」
「なんかすげぇ元気だなお前……そんなキャラだったか?」
「こんなチャンス滅多にないんだよ!? アレンも、もっと守ろう!」
「もっと守ろうってなんだよ。しっかし、レベル1からのスタートか……。
何か手っ取り早く戻す方法は―――――――」
1から最大レベルの100まで戻すのは、相当な時間がかかる。
どんなに効率の良いモンスター狩りをしても、一か月は下らないだろう。
だが、アレンは何かに気づいたように、突然言葉を切った。
「―――――いや、待てよ。共有倉庫はどうなってる?」
リュウナの方を向いた彼は、共有倉庫というワードを口にする。
それを聞いた途端彼女は、はっとした表情に変わった。
昔から大抵のオンラインゲームには存在している共有倉庫と呼ばれるシステム。
アカウント内のキャラクター同士ならアイテムの受け渡しが出来、
サブキャラクターを作る際などには非常に重宝するものだ。
「……ちょっと確認してみる!」
リュウナは急いで、オフィス内に設置してある共有倉庫へと走る。
彼女自身、キャラクター固有の倉庫しか最近は利用してなかったので
共有倉庫に何を入れていたかをあまり把握していなかったらしい。
そのまま数十秒ほど経っただろうか。
「―――――――――あっ」
離れていてもわかるぐらい、呆気にとられたようなリュウナの声が聞こえた。
そしてそれは残念という感情からではない。むしろ全くの逆だ。
「あったぁーーー!!!! 超越の水晶石!」
今度はオフィス内全体に聞こえるぐらいの歓喜の声が響き渡った。
受付嬢を含めた他の冒険者が、驚いて肩を震わせるのが見える。
「やっぱりあったか。これで、なんとかなりそうだな!」
「私がリュウナを守ってあげるストーリーがぁぁ……がくり」
ホッとしたように笑顔を浮かべるアレンと、何故か落胆しているリリス。
しかし、2人とも喜んでいるのは間違いないだろう。
ちなみに今、リュウナが名前を叫んだ超越の水晶石というアイテムは、
簡単に言ってしまうとレベル上げの補助アイテムだ。
リュウナ達のようなキャラクターレベルカンスト。
これ以上経験値を取得しても意味がない状態になると、
余分な経験値がこの水晶石へと自動で蓄積されていき、
必要に応じて経験値として使用できるようになるのだ。
いわば、持ち運びが可能な経験値である。
ただ、あくまでサブキャラクター以降を作成するプレイヤー用の
アイテムと言っても過言ではないため、使う機会は多くない。
「カンストまで蓄積もされてる! これならあっという間だよ!」
「ははは! さすが生粋のゲーマーだな」
「リュウナ……恐ろしい子……!」
カンストまで蓄積というのは、言葉通りの意味だ。
使ってしまいさえすれば、一発でレベル100までの経験値が取得できる。
こうして見るとぶっ壊れ性能のアイテムかと思われるかもしれないが、
昨今のオンラインゲームにおいて、キャラクターレベルがどうのというのは
そこまでやり込みとして重要視されてはいないため、問題はないらしい。
むしろ問題は、プラネット・ワールドにおける仕様にあった。
「となると、あとは場所だな。またあの里へ行くことになるが……」
「そういえば、あの魔女さんがいるんだった……」
アレンとリュウナの口から出た、あの里のあの魔女という言葉。
2人の様子を見るに、楽しい場所ではないことがわかる。
「えー? あんなに面白い魔女さん、他にいないよー?」
「あんなのが他にいたら困るっての! なぁリュウナ?」
「そ、そうだね……」
何故かリリスだけ楽しそうにしているが、2人は相変わらずだ。
先ほどリュウナが共有倉庫から持ってきた超越の水晶石だが、
この場ですぐ使うことは出来ない特殊なアイテムなのである。
誤爆を防ぐという意味もあるのか、石には封印が施されており、
それを解除して初めて自由に使うことが可能となるのだ。
もちろんこの街では封印を解除することはできず、
別の街にいる星の魔女と呼ばれている人物に頼まなければならない。
「ま、乗りかかった船だから仕方ねぇさ。
出発するか! 大樹と魔女の隠れ里、ライディアへ」
「うん、いこういこう! 道中の敵は任せてね、リュウナ!」
「はいはい……里までの間よろしくね、2人とも」
いつまた星王アストラと対峙することになるかわからないが、
準備ぐらいは進めておいたほうがいいだろう。
これは、いずれ訪れる反撃への新たな一歩だ。
「いってらっしゃいませ! 皆さん!」
受付嬢レイナの見送りを受けた冒険者3人は、
プラネット・ワールド最西端にある街。
大樹と魔女の隠れ里ライディアへ向けて出発していくのであった。




