プロローグ
家に帰ってきたなり、マルスはベッドに身を投げ出した。ここ最近、マルスには悩みがある。他でもない、就職のことである。魔法学校の卒業が近いにもかかわらず、マルスは就職先が決まっていなかった。
「はあ、どうしよう……」
マルスは魔法学校の精霊研究コースに所属していた。マルスがこのコースを選んだのは可愛い妖精に囲まれてキャンパスライフを送れるのではないかという期待からである。両親は「就職があんまりよくないらしいし、飛行術コースくらいにしといたら」と勧めたが、マルスは無駄に強靭な意志を発揮し、両親の反対を押し切ってこのコースに入学した。
しかし、妖精を召喚するような研究は召喚条件の複雑さや詠唱の難しさのためもうすっかり下火になっており、近頃研究の対象になっている精霊はどれも小太りのおっさんであった。結局マルスは研究室に入ってからというもの、教授の下請けとして小さいおっさんの吐く息を測定するという暗く悲しい3年間を過ごした。
マルス自身の研究も思うように進まず、このままでは卒業できない状況である。教授はもっと頑張れというが、マルスはもうなんだか嫌気がさしていた。
「おっさんの息の測定にやる気を出すなんて、ある意味変態じゃないか……」
「ありーん」呼び鈴役のおじさんが声を上げた。マルスは定期的な呼気測定のためおじさんを家に持ち帰っているが、それ以外の時間はちょっとした仕事を割り振って、使用済みになったときに社会復帰ができるようにしている。
(誰か来たみたいだな。こんな時間に誰だろう。)
玄関を開けると、ドアの向こうには美少女が立っていた。