小さな期待
家にはまだ誰もいなかった。
両親はまだ仕事だろう。
冷蔵庫の中を見ると、昨日の夕飯の残りがあった。これを温めて食べよう。
温めている間に牛乳を飲む。
なんとなく味が好きでずっと飲んでいるせいなのか、私は背は高い。女だけど170近くある。
そのせいで目立ってしまうということを私は考えていなかった。
だから私はいつも猫背で歩いている。誰にも見つからないように。
でも、猫背で歩いているとそれはそれで目立ってしまう。
目立ちたくないのに、目立つ特徴ばかり持っている。
もしくは、逆かもしれない。
目立つ特徴ばっかり持って生まれたから目立ちたくないのかもしれない。
駅から少し離れた一軒家。ちょっとだけ大きな庭がある。つやつやした赤い実をつけた木を見ていると、なんだか自分がここにいるべきではないような気がした。
温め直したおかずを食べて、少しだけ他の人との関わりに期待をしていた自分に自己嫌悪する。
そういえばさっき声をかけてきたあの人についていってたら私の人生は変わったのだろうか。
大学は広いからきっともう会うこともないだろう。そう思ってちょっとほっとしながら、ちゃんと会話をしておかなかったことに少しだけ後悔と罪悪感を覚えた。
明日から授業だな。話しかけられないように少し遅れて入ろうか、などと考えているうちに食べ終わった。
食器を流しに置いて、私はそのまま部屋に戻った。